映画評「モンガに散る」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2010年台湾映画 監督ニウ・チェンザー
ネタバレあり

韓国映画「友へ チング」(2001年)を思い起こさせないでもない台湾製青春バイオレンス映画である。

序盤にはコミカルな要素もあり学園抗争ものといったムードで我が邦の「クローズZERO」のような展開になって行くかと思いきや、転校生のモスキート(マーク・チャオ)を仲間に入れて五人組となった高校生たちが、リーダーのドラゴン(リディアン・ヴォーン)が台北歓楽街モンガを二分するゲタ親分(マー・ルーロン)の息子であったが故に、非情な現代暴力団的世界へ入って行く様を描いて行く。

厳密に言えば、最初は血兄弟を誓い合う任侠の世界にいた五人が、モンガを長きに渡って支配することを狙う大陸者の入れ知恵に基づきグループの知恵袋的存在モンク(イーサン・ルアン)が拳銃という近代的武器を取り入れたことから本人たちは至って仲の良いボス同士の殺し合いに発展、一気にドライな暴力団的世界に組み込まれ、暴力に疑問を覚え始めつつ今や敵同然となったモスキートとモンクは殺し合うことになる。

僕らが持っている古いヤクザのイメージ即ち任侠精神が、下剋上や裏切りがまかり通る「アウトレイジ」ほどではないにしても大義名分の下に自分の為に活動する利己主義へと変質していく様を描く間に、1966年生まれの監督ニウ・チェンザーが実際に本作に描かれたような青春を送ったかどうかは別にして、四半世紀前の台北モンガ地区を回顧して自己の青春時代を懐かしんでいるような印象を受けるのもあながち僕の勘違いではないだろう。
 本人でなくとも友人か知人の経験、若しくはニュースとなるような有名な抗争事件をベースにして構築したお話に違いなく、こんな残酷な青春模様であっても昔を懐かしむのが人間の性(さが)というものなのかもしれない。

このお話には幾つかの運命の皮肉があり、中でも最大なものはモンガをかき回すことになるその大陸者はモスキートの母親の最初の愛人にして恐らくは彼の父親である。
 本作はモスキートのナレーションで進行しているので彼は死んでいないのかもしれないが、あの傷ではどうか。「サンセット大通り」など死んだ人間が語る“幽霊映画”もたまにはあるので二通り考えられる。
 で、さすがの大陸者が父子関係の事実(?)に気付き「しまった」と思って慌てて出て行く様子が描出されているのに、惜しくもその後の描写がないので“字足らず”の印象を残す。

かくして字余り・字足らず的な箇所が散見されるものの、展開が進むに連れてタッチが厳しくなっていき、本来はそれとは矛盾する濃厚な情感が同時に醸成されていく。前半も後半の厳しい調子で展開されていたなら★一つプラスしたい出来映え。

大学時代「教育学」で、学業の出来る者は興味の対象を考慮するに概して暴力的事件を起さない、という趣旨の論文を書いたけど、それも怪しくなってきた。時代も変ったにしても、僕が甘かった。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2012年09月10日 05:25
山口組には、東大出の方もいるそうで、同級生にはヤクザの組長の息子というのがおりました。
「これからのヤクザは学がなければいけねえ~」と言われたとか。

『アウトレイジビヨンド』は、賞を取れませんでしたが、端からその気はなさそうでしたね。
バイオレンス映画ですからね。
北野に来てもらわないと、話題性がないので呼んだという感じでした。
それにしても人気がありますね。記者までがサインを求めるというのは珍しいですね。
次は純愛映画を・・・・と言ってましたから、これで狙うかな?

そういえば、モントリオール映画祭に行った高倉健さんが、英会話が流暢だったのには驚きました。
あの世代では、珍しいですね。
さすがです。
オカピー
2012年09月10日 20:04
ねこのひげさん、こんにちは。

本作のモンクは頭が良いという設定でしたし、「アウトレイジ」にもインテリ・ヤクザ(加瀬亮)が出ていたので、ひょっと昔のことを思い出しましてね。

僕の小学時代の同級生では少なくとも3人がヤクザになっています。
一人は子供の頃から腕白で、中学時代に隣の中学に殴り込みをかけて問題になったのを思い出します。
一人は絵がめちゃくちゃ上手い奴で、水彩絵の具で油絵みたいなタッチで描いていたのに感心しましたが、まさかあちらに行くとは。矢沢のえーちゃんが好きだったな。
一人は心臓が悪いからとか言って体育をずる休みするような弱々しかった奴ですが、一匹狼でやっているようです。僕に勉強を教わったのが忘れられないそうで、彼の白いベンツに乗って同窓会場へ行きましたが、あの彼がねえ。

>北野・・・人気
「その男、凶暴につき」でデビューした時は芸人の余興くらいとたかをくくっていましたが、「あの夏、いちばん静かな海。」でこれは生半可ではないぞと思い始めましたよ。

>高倉健さん
へぇ~、意外な感じがしますね。
親父より年上でまだ頑張っている。親父も何年か前にもうちょっと何とかしていればもっと長生きできたと思うけどねえ。消化器系は完璧だったから。

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