映画評「コンテイジョン」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2011年アメリカ映画 監督スティーヴン・ソダーバーグ
ネタバレあり

僕が知る一番古い病原菌ものはイーリア・カザンが監督した「暗黒の恐怖」(1950年)で、病原菌を持った犯罪者が逃げ回ることで病気が広まる恐怖を時限サスペンスで描いている。これまで製作された中で恐らく一番の大作と言うべきはエボラ出血熱をテーマにした「アウトブレイク」(1995年)で、音楽が過剰である以外はなかなか面白く出来たサスペンスの佳作だった。エイズの蔓延までを探る「運命の瞬間/そしてエイズは蔓延した」(1993年)というTV映画の力作も印象深い。

先年邦画界も鳥インフルエンザの恐怖が沙汰される中「感染列島」を作ったものの、人間の感情ばかり追って専門家・医師や一般人の反応・行動が全く出鱈目の極み、強引な展開に終始する駄作だったと言わざるを得ない。
 その点猛烈なインフルエンザの一種と思われる病気を扱った本作はまるで正反対で、数年前ひどいものを見せられた反動でものすごく立派なものを見せられた気になり、零落が激しいハリウッドと言えども日本の大衆映画に比べればまだ大人であることが認識させられた。
 厳密に言えば、スティーヴン・ソダーバーグが瀬々敬久よりずっと映画的良心を持っているということだが、作品の種類によっては監督を責める際に観客の水準を無視して語れないところもあるとだけ言っておきましょう。集客しないことには次の作品を制作する資本が集まらないのが商業映画の宿命である以上、その国の映画水準は観客の程度に応じて大体決まる。アダム・スミスではないが、「見えざる手」が働いているのである。

本作ではミネソタにある会社の女性重役グウィネス・パルトロウが香港から帰国後突然熱を出して急死、その息子も死に、夫のマット・デーモンは途方に暮れる。
 その頃東京、香港でも同じような死亡例があり、アメリカのCDC(米国疾病管理センター)のローレンス・フィッシュバーンが部下のケイト・ウィンスレットをミネソタに派遣、一方WHO(世界保健機構)もマリオン・コティヤールを香港に派遣するが、米仏がワクチンを独占するのではないかと恐れる現地の関係者により捕虜になり、ワクチン完成後に交換されるという事件が発生する。
 あるいは、フリー記者のジュード・ローはCDCに不審を抱いているので感染もしていないのにレンギョウで治ったという記事をブログで発表、一部で英雄視され、詐欺その他の罪で逮捕された時も支持者のカンパで保釈される。
 凡そ半年後ワクチンが完成、世界中で2600万人が死亡したと発表されると共に、何故か免疫のあったデーモンは娘がワクチンを打った恋人と触れ合えるのを嬉しそうに見守る。

映画は二日目から始まり、パンデミックが終結した後エピローグとして一日目を見せ、この感染が始まった発端を見せる。誰が最初の被害者になるかは偶然だが、この種の病気が起こるのは半ば必然に近い偶然であることを改めて教えられる。

同時に、「感染列島」とは違い情をベースにしたおためごかしの人間ドラマを排除して病気の実態と病気発生による人々の反応を即実的に描くことで、恐怖を伝播(コンテイジョン)・増幅するのは病気以上に人間(の反応)そのものであるということを示しているわけである。情を前面に押し出さずとも人間なるものを描くことは出来る。結果としてやや薄味になっていることは否めず不満がないわけではないが、「感染列島」と比べたら天と地くらい違う。

電機メーカーもCDCとは無縁ではなかったのを思い出す。

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この記事へのコメント

2012年09月02日 13:37
こんにちは。
TBさせていただきました。

観たいと思わせる映画はジリ貧の一途。
それでもなんとか週2回はと自らムチ打って
出かけますがこのごろはそれも週1回弱。
“観ておこうか、とりあえず”の鑑賞多し。
そのうちには月2回~1回・・お~、寂しいこと。

観客レベルの低下。
大いに同感、そして痛感いたします。が、
崩れ、乱れ落ちていくものは止められません。
ですから、エラソーな私は、下を見ない。
映画の“いい時”を知っているだけ幸せと。

本作、
俳優のチカラに寄るところも多々ありますが
ソダーバーグはまだキチンと作ってます。
オカピー
2012年09月02日 22:11
vivajijiさん、こんにちは。

世界的にお子様ランチが増えているのは否定のしようがない事実。
そのランチにもたまにはおいしいものもありますが、後味が些か寂しい。
結局人間ではなく、描かれる現象にばかり力点を置く映画はオールド・ファンの興味を呼ぶことはできない。
もはや映画と呼べないものも増えました。

リメイクとシリーズに依存するハリウッドも五十歩百歩ですが、邦画はTV局が進出して以来、レベルの低下というスパイラルに入ってしまいました。
「見えざる手」が働く以上、メジャー映画がここから抜け出すのは難しいでしょう。
インディ系も弱いんですよね。
以前と違って公開される作品が厳選されているせいか、イタリア映画のみ健闘しています。

>ソダーバーグ
「感染列島」の反面教師効果で、見直しました(笑)。
ねこのひげ
2012年09月03日 05:39
邦画の場合、感情表現をすればいいと思っているようですな。
泣けよ!と言われて泣けるものではありません。
感染状況を見せていくことのほうが、恐怖感がわきますけどね。

先日リーアム・ニーソンの『96時間』を見ましたが、中年のおっさんが、ためらいもなく無表情に人を殺していく姿はリアルで怖かったですね。
邦画だと、絶対喋りが入るんですよね。
オカピー
2012年09月03日 21:49
ねこのひげさん、こんにちは。

前世紀の末頃、観客動員を増やそうとTV局がTVドラマの映画版やその類似品を作ることで確かに動員数は増えましたが、理解力の低いTV層を大量に動員したことが映画ファンの質を下げた元凶と思います。
そこで下がった観客層に合わせて程度に低い映画を作り、益々程度の低い観客を生み出す。数年前最近の大学生には解りやすいこの上ない2時間ドラマすら理解できない人が相当いるとさる有名私立大学の教授が仰っていましたよ。まさかそのレベルの人に合わせて映画は作られないでしょうが、今世紀に入ってメジャー邦画の質は一気に下がりましたなあ。
基本的に説明したり、露骨に見せないと解らない人が多くなったのは確かですね。

>『96時間』
一昨年WOWOWで観ましたが、ハードボイルドで面白かったです。アクション自体も優秀でした。

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