映画評「ヒューマン・ファクター」

☆☆★(5点/10点満点中)
1979年イギリス映画 監督オットー・プレミンジャー
ネタバレあり

WOWOWが特集したオットー・プレミンジャー監督作品6本のうち本邦劇場未公開の終った本遺作だけが未鑑賞だった。原作はグレアム・グリーンのスパイ小説、故に派手さはない。それ以上にジョン・ル・カレの一連のスパイものの味わいに近く、ル・カレの作品にもじって言えば「寒い国へ逃げたスパイ」という内容になっている。

英国情報局デスクワーク職員ニコル・ウィリアムスンは、8年ほど前南アにで知り合った女性活動家イマーンと、彼女が彼と知り合う一月前に死んだ恋人との間に設けた7歳になる息子と一緒に郊外に地道に暮している。同僚は新人のデレク・ジャコビ。
 ソ連への情報リークを知った上層部は彼らの所属するアフリカ部に疑惑の目を向け、独身貴族のジャコビが犯人と目されて医師でもあるロバート・モーリーに中毒死させられる。本当の二重スパイ、ウィリアムスンはかつて南アで共産主義者に協力し実は未だにソ連と縁の切れていない為南ア当局者ジュープ・ドーデラーの来訪を受けて慌て、妻と別居したふりをしてモスクワに逃げ出す。

「007」と同じMI6の名称も出てくるが、スパイなる存在が実際にはかくも地道にサラリーマンの如く過ごしていることは想像に難くなく、そこに「007」のジャンル映画的面白さとは別の興趣がある。派手でなくてはつまらないと言うのは狭量と言わなければならない。先日所謂「もしドラ」評において良い映画になる可能性に触れたが、本作も同じような印象がある。

開巻早々保安部のリチャード・アッテンボローが主人公に聞き取り調査と物品検査を行なう場面で、彼の勘の良さに感心して准将のジョン・ギールグッドが「ワトソン君」と言うと主人公が「(ワトソンは)MI6の部長です」と答える箇所の面白さ。ギールグッドは勿論シャーロック・ホームズにかけたジョークのつもりで言ったのを彼の上司のこととして、主人公が解ってか解らないでか真面目に答えるのが大変可笑しいのである。

かようにオーストリア生まれのハリウッド映画人プレミンジャーの英国ムード醸成は序盤なかなか好調でニコニコしながら観ていられるのだが、ドーデラーがしゃしゃり出て主人公が不安を感じ始める辺りから悪い意味でプレミンジャーらしい硬さと真面目臭さが目立ち始め、上層部の勘違いで無実のジャコビが毒殺されてしまうエピソードなどもっとブラック・ユーモアを漂わせて観客をドキッとさせる方向に持って行けば、「寒い国から来たスパイ」のうらぶれた感じとはまた違った形で、スパイというより真面目な裏切者の悲哀がそこはかとなく浮き彫りになったと思う。

実際本作は主人公のやり切れない心境をもって幕が下りるのだが、気真面目すぎるだけで何だか物足りないのである。ちょっとアングルを付けるだけで相当面白くなった素材と思われるだけに惜しい。

若い皆様には余りお馴染みでないかもしれませんが、英国映画界の重鎮がたくさん出ております。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

ナイス

この記事へのコメント

ねこのひげ
2012年07月10日 05:38
じっさい、スパイが007のように派手ではスパイの意味がなさないですけどね。

監督以下なつかしい顔ぶれがゾロゾロでおじさん世代はなみだものですな。

アーネスト・ボーグナインも亡くなったところで、BSで特集なんかありますかね。
『マーティ』をやってくれないかな?
オカピー
2012年07月10日 19:49
ねこのひげさん、こちらにもこんにちは。

>スパイ
「亀は意外と速く泳ぐ」という上野樹里主演のパロディー映画で、“スパイは目立ってはいけない”ということで世間に埋没している様子を見せたいましたっけ。
それはともかく、ル・カレの「寒い国から帰ったスパイ」なんか凄く感じ出ていて好きでしたなあ。

>『マーティ』
昨年アカデミー賞特集でやったので、在庫にはあるでしょうけど、最近スーパースターが亡くなってもなかなかやってくれないご時世ですからねえ。
「ポセイドン・アドベンチャー」はWOWOWで先日やっていたのをハイビジョン録画してありますので、勝手に追悼企画しましょうか(笑)。
時間があっかな?

この記事へのトラックバック