映画評「京都太秦物語」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2010年日本映画 監督・山田洋次、阿部勉
ネタバレあり

高校の修学旅行で関西に行った時本当に行きたかったのは太秦だった。当然候補地には入っていず、色々な寺院を回るに留まったのは言うまでもない。

で、本作は山田洋次監督が彼の作品で助監督を何作か務めたことのある阿部勉と共同で監督し、補助スタッフに教鞭を取っている立命館大学映像学科の諸君を起用して作り上げた異色作。お話は異色でも何でもなく、「男はつらいよ」の登場人物の関係を裏返してマドンナを主人公にしたような青春映画である。

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太秦、クリーニング屋の娘で立命館大学図書館に派遣司書として雇われている東出京子(海老瀬はな)が、コンビを解散した為ピン芸人を目指すもさっぱり売れそうもない恋人で豆腐屋の息子・簗瀬康太(USA)が自棄になって険悪な関係に陥った時、図書館で彼女を見染めてしまった若い文字(漢字)研究家・榎大地(田中壮太郎)に強引に中国行きを誘われて東京への切符を渡された為、その真剣さに迷いを生じる。

というだけのお話ながら、恋人から芸人になることも諦めない一方で期限内に成功しない場合は豆腐屋を継ぐと告げられた時彼女は若き研究家への緩やかな傾斜を元に戻すことが出来たのであろう、という余韻がなかなか捨てがたい。地元を愛しながらそこを出たい夢も垣間見える彼女には寧ろ彼に豆腐屋を継いで地元に定着して貰うことで彼女自身の防波堤になってもらいたい願望があるのではないか。つまり山田監督たちが太秦即ち映画へ向ける愛情がアレゴリーとしてそこに投影されているのではないか、そんな気がする作品となっている。

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それでは本作の異色作たる所以は何か。川瀬直美が得意とし、小泉堯史が「阿弥陀堂だより」で試みた演技の混在が認められる作品ということである。
 本作は太秦にある東出クリーニング店の主人などに対して数カ所インタビューが挿入され、ドラマと純然たるドキュメンタリーが混在しているわけだが、上の二人が試みた演技の混在は水と油の関係であって素人が出てくる部分はあくまでドキュメンタリーとして撮っていたのに対し、全くの素人をプロの中に放り込んで軽く演技をさせていたり俳優の疑似ドキュメンタリーを交えている本作の手法は上の二人でさえ積極的に試みていず、さほど面白い試みとは言えないながら異色作ということになる。是枝裕和監督の「ワンダフルライフ」(1998年)と似たアプローチであり、演技の混在という視点においてはロベルト・ロッセリーニ的である。

虚構の中に現実を限りなく反映させていた山田監督が共同監督としての立場でしかも学生に任せた部分があるとは言え、より現実的な映像で現実を捉えようとした試みに些か心を動かされる。僕はこの類の演出はさほど買わないし、山田監督の従来採って来た手法が商業映画としてあるべき姿と思うわけだが、それでも映画の将来を若い映画人に託したいという意気込みに感じ入るものがあるのである。

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映画として一番秀逸なのは、「可笑しがらせようとするから可笑しくない」とヒロインが恋人に注文を出した傍から、その真なる対照として、真剣なのにズッコケを連続する研究家が登場する辺りの映画的呼吸である。但し、ややくどく、このシーンにおいてズッコケるのは一回だけで十分。

実質的には阿部勉の作品ということになりましょうか。

山田監督、第二の新藤兼人になるよう後20年映画を作ってください。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2012年07月13日 06:06
ねこのひげの修学旅行も、京都では神社仏閣でありました。
いまの年齢ならいいですけどね。十代のガキとしては、あまり興味はありませんでしたな。
生徒向けというより先生向けだったのでは?と疑いますな~

太秦のほうはスルーでありました。
オカピー
2012年07月13日 17:47
ねこのひげさん、こんにちは。

今時の高校生は、パスポートが要らないところを含めて海を越えますからねえ。
僕なんか自慢ではないですが、関西より西、新潟より北へ行ったことがないですから(笑)。
その代わり海外へは色々と行きましたが、ついぞヨーロッパは行けなかった。行く前に所属部門が消えてしまった・・・とほほ。

寺院へ行くのもロマンティストとしては悪くはなかったけれど、一番観たかった金閣寺が修復中か何かでこれまた観られなかったという運のなさ。しかし、今wikipediaで調べてみたら、昭和の大修復はずっと後で、僕たちが行った頃、何の修復はされていないらしい・・・こちらの記憶違いか(苦笑)。グループごとに見学地が分れていた為銀閣も観ていません。

因みには僕は鎌倉時代に一番ロマンを感じて好きでした。「かまくら」という唱歌からの影響が大きいと思いますが、実朝暗殺とかとても惹かれます。小学生時代に行った時老人みたいに感慨にふけりましたなあ。
人気のある戦国時代や幕末は余り好きではないです。

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