映画評「星守る犬」

☆☆★(5点/10点満点中)
2011年日本映画 監督・瀧本智行
ネタバレあり

村上たかしの同名コミックを瀧本智行が映像化したドラマ。一言で言えば、「忠犬ハチ公」のヴァリエーションで、そこにそれを外から見る第三者の視点を加えたところがアングルになっている。

北海道の田舎町で、ワゴン車の中から中年男性が、その車の傍で犬の死体が発見される。
 少年の時に祖父(藤竜也)から貰った犬を両親の死で厭世的になり途中から可愛がらなくなった市役所職員・玉山鉄二が、思うところあって男性の持っていたレシートなどを手掛かりに東京から北海道までトレース(追体験)する旅に出る。東京に着くや否や北海道からのオーディション家出娘・川島海荷を連れる羽目になるものの、彼が出会った旅館や店の関係者たちに触れるうちに、虚無的な生命観をうち捨てて人間的な感情を取り戻していく。

実質的には玉山青年の再生ドラマで、全く何も感じないこともないが、映画的な巧(うま)みや表現性から言うとかなり物足りない。

彼と少女が北に向けて東京を出た後ワゴン車から顔を出した犬を見かけてその車の後を追いかけて行くと、その男性即ち西田敏行が犬と共に泊った旅館に辿り着く。
 ここは作劇的に言えば、犬を見たのは主人公の幻影だが、表現的には一種のトランジション・ショット(現在と過去が同じフレームに入ったショット)を使ったと考えられ一応の興味を呼ぶ。が、この時点で主人公は本当に犬を見たと思って車を追いかけている筈なのに、旅館に到着して暫くするとその車や犬はどうでも良くなっているように感じられるのは作劇的にまずい。最初から幻影であり、時空が交錯しているトランジション・ショットと断言してしまえばこんなつまらない指摘を受けずに済むものを。

その後からは二人の旅と共に西田組の旅がクロス・カッティングで進行することになり、ダイレクトにショットを繋ぎながらも、少なくとも映画を見慣れている人には二つの時系列が並行して描写されていることは容易に理解できるように作られている。それだけに彼が車を追いかけ出す場面の扱いは誰が観ても幻影と思えるように仕立てるべきで、その為にこそ海荷ちゃんにもっと不自然な反応をさせてそれが幻影であることをきっちり確認させておけば、お話の進行がもっとスムーズに感じられたのである。

それよりもっと大きな問題は、過去の場面は一体誰の視点であるか全く不明であること。旅館の女将や店主たちの証言がある部分は良いが、それ以外の部分例えば彼が旅に出る前の家庭のお話、店ごとの誰も知り得ないエピソード、田舎町についてからのエピソードなどはどう理解したものか。
 玉山青年がそこまで想像できるはずもないし、それが想像できるくらいであるならば彼の人間性回復は彼自身の考えに基づくことになり、お話として成立しない。やはり家族に最終的に辿りつく物語にした方が無難ではありましたな。その意味で、無縁仏になった彼の最期が可哀想かどうかはともかく、海荷ちゃんの言う「(誰にも引き取られないで)可哀想」が作劇的には正しいことになる。

つまり本作には見せ方に映画ならではの嘘があるのだが、その嘘の付き方が下手、換言すれば、追体験するという構成が自然なお話として今一つ馴染んでいないのである。

瀧本監督は応援している若手(経験から言えば中堅になりつつある)なので、ちょっと残念でした。

最近犬の映画が多いねえ。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

ねこのひげ
2012年05月16日 06:09
動物ものはヒットしやすいですからね。
東日本大震災以降、きつい話を作りにくいというのもあるでしょうね。
テレビ東京でやっていた『まさお君がいく』というのも映画化されて6月に公開されますしね。

あきらかにこれは幻影なんだという見せ方をしてないのは失敗でしょうね。
こういう事があったんだと観客にわからせるやり方としてはおっしゃる通り、下手でありますね。
オカピー
2012年05月16日 16:57
ねこのひげさん、こんにちは。

昨年WOWOWがひっそりと、というか何気なく犬映画の特集をしていた記憶がありますが、結局「HACHI」しか観ませんでしたなあ。

ストレートに見せるのは芸がないというので、別の人がトレースするという手法を採ってアングルを付けたのですが、得てして誰の視点なのかといった整合性のなさが出て失敗するケースが多いですね。
最後に家族と会っていれば、多少変でも大分整合性が出てきたと思いましたが、それでは作者の中では結論としてダメなわけなんでしょう。
ドラゴン
2012年05月16日 22:49
こんばんは。

これは劇場で鑑賞したのですが、オカピーさんがおっしゃる通りのことで、満足できませんでした。

ただ、東日本大震災後からそんなに時間が経たないうちに観たので、震災前の東北の美しい風景が出てくることに、改めて震災の傷痕を感じずにはいられませんでした。
オカピー
2012年05月17日 22:19
ドラゴンさん、こんばんは。

余り構成的にうるさいことを言わなければ、じーんとするところもありますが、結局構成がまずいと要素が十二分に生かせないから文句も言いたくなるわけです。

>震災
いや、本当に。
10年ほど前アメリカ人が9・11前のワールド・トレード・センターを映画の中で観ても同じように感じたのでしょうね。

この記事へのトラックバック

  • 『星守る犬』

    Excerpt: □作品オフィシャルサイト 「星守る犬」□監督 瀧本智行□脚本 橋本裕志□原作 村上たかし□キャスト 西田敏行、玉山鉄二、川島海荷、余貴美子、温水洋一、濱田マリ、塩見三省、中村獅童、岸本加世子、.. Weblog: 京の昼寝~♪ racked: 2012-05-15 12:06
  • 星守る犬

    Excerpt: 村上たかしの同名ベストセラーコミックを映画化。市役所の職員が身元不明の男性と飼い犬の遺体の足跡を辿り、その度から何かを受け取るロードムービーだ。主演は『ハゲタカ』の玉山鉄二と『釣りバカ日誌』の西田敏行.. Weblog: LOVE Cinemas 調布 racked: 2012-05-15 17:14
  • 星守る犬/西田敏行、玉山鉄二、川島海荷

    Excerpt: 原作は雑誌『ダ・ヴィンチ』の「ダ・ヴィンチ ブック・オブ・ザ・イヤー2009」で「泣ける本ランキング」と「読者が選ぶプラチナ本」の二部門で共に第1位を受賞した村上たかしさんの ... Weblog: カノンな日々 racked: 2012-05-15 18:12
  • 星守る犬 : 無償の愛に号泣 ゜゚(>ヘ<)゚ ゜。ビエェーン

    Excerpt:  本日より、 「尖閣諸島どうすれば守れるかな」というアンケート始めました。私個人の考えでは、右翼の方に生活してもらうのが一番だと思っております。普段はうるさい街宣車両で Weblog: こんな映画観たよ!-あらすじと感想- racked: 2012-09-01 17:04