映画評「北京の自転車」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2000年中国=台湾=フランス映画 監督ワン・シャオシュアイ
ネタバレあり

ネオ・レアリスモの傑作「自転車泥棒」(1948年)中国青春版である。中国の貧富格差が今ほど明確になる前しかしその胚胎が確実に感じ取れる2000年における北京の現在を描く。今観るからこそ本作が示した先見性は極めて優れたものと言わなければならない。

地方からやってきた(恐らく17歳の)少年ツイ・リンが自転車配達会社の従業員になる。自転車は業績から天引きされ、満額になると自転車は自身のものになり、配っただけ手取りが増えるという仕組みである。ところが、田舎者につきサウナでうろうろしている間に自転車を盗まれてしまい、半日捜し回った挙句に遅配の責任を取らさせて首になる。
 他方、北京の貧しい17歳の高校生リー・ピンは継父のお金を使って中古の自転車を買い、金持ちの仲間や好きな女子高生カオ・ユアンユアンの気を引こうとする。ツイは彼が乗っている自転車が自分のものと気付き夜中に取り返すものの、グループに盗んだと思われてひどい目に遭う。
 互いに事情を知った二人は交互に使うことにするが、リーが自転車に気を取られる余り嫌われたユアンユアンの懇意になった少年を腹いせに石で殴ったことからツイも巻き込まれ、相手のグループから自転車を壊されてしまう。

ツイ少年が壊れた自転車を担いで町を歩く幕切れが痛ましく悲しい。

本作で印象的な言葉はお嬢様ユアンユアンの言う「たかが自転車」であり、最後にリーも同じ言葉を呟く。この言葉の繰り返しは、本作が北京には貧富の二種類の格差があることを示している。即ち、ヒロインのようなお嬢様とフートンに住む貧しい高校生との格差、北京の庶民と生きて行く為に自転車を欠くべからざる地方出身の少年との格差である。金持ちのお嬢様とツイが思っていた女性が実は地方出身の使用人で雇用者の衣服を勝手に着たり売ったりして首になったと判明するエピソードも逆転ホームラン的に鮮やかに地方出身者の現実を映し出す。

そして現在、北京では持てる者は益々持ち、フートンに住む人々は中国の政策により援助を受けそれなりの場所に引っ越して何とか生活できているケースが多いと思われる一方、地方は依然貧しく、地方と大都市圏との格差が益々広がっている事実は報道の伝える通り。

貧しさにも格差があり、容易に埋め難いその差に着目し、同じ17歳の貧しい少年二人と本物と偽りのお嬢様をクロスさせた作劇は誠に鮮やかと言うべし。先見性に脱帽するだけでは本作は勿体ない。

かくも優れた脚本も書いたワン・シャオシュアイという監督は初めて観るがお見事、日本未公開ながら録画済みの「我らが愛に揺れる時」が楽しみになった。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2012年02月26日 06:52
抑圧された社会のほうが、よい作品ができるというのが、なんだか悲しいですね。
ベルリン映画祭で、金獅子賞以下3部門を受賞したイラン映画『別離』というのも、映画紹介屋さんによると、イランにおける抑圧や貧困、差別を描いて話題のようです。
監督のインタビューによると、語るべきところを語らずに描いていて、観客に推理して、考えて欲しいとのことで、ある意味でのミステリーにもなっているようです。
オカピー
2012年02月26日 20:01
ねこのひげさん、こんにちは。

>抑圧された社会のほうが
どうもそうらしいですね。
日本でも戦争前夜1930年代にある意味凄い映画が作られたようです。

>ある意味でのミステリー
この間観た「彼女が消えた浜辺」もミステリーのような作りで、どうもイランではこの手法が流行っているようです。
直接話法では当局に問題視されるから取られる手段なのでしょうね。
シュエット
2012年02月28日 17:28
TBしますね。
中国国内で上映禁止処分になった作品だとか。WOWOWで観られるのは嬉しいですね。中国国内のこうした規制の厳しい現実を知ると、それでも映画を撮ろうとする映画人たちの思いは、映像におのずと顕れてくるもんなんですね。
>日本未公開ながら録画済みの「我らが愛に揺れる時」が楽しみになった。
同感です。
オカピー
2012年02月28日 20:39
シュエットさん、こちらにもようこそ。

結構間接的な問題提示に留められていると思いますが、これで上映禁止とは、中国の検閲官も案外馬鹿ではないらしいですね。
但し、貧富の格差は世界各地に共通する現象なので、そんなに気にするに及ばないと思いますが。どこか別にひっかかるところがあったのかな。

経済に関しては、現在の日本の方が寧ろ社会主義。天国か地獄にいる毛沢東氏も中国がこんなことになっているとは思っていなかったでしょうね。

>「我らが愛に揺れる時」
これは中国に限らない普遍的なお話でした(多分)。

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