映画評「雷桜」

☆☆★(5点/10点満点中)
2010年日本映画 監督・廣木隆一
ネタバレあり

先日ダイアン・レインは出演作を見たくなる女優と書いたように、今の邦画界では蒼井優がそういう感じ。ベスト10の類には全く縁がなさそうな作品だが、彼女が出演しているらしいので観ることにした。

監督の廣木隆一は行定勲と同じでインディ風な作品は良いが、本作のようなメジャー系は余り合わない印象がある。しかし、時代劇だけあってさすがに内容に合わない肩掛け/手持ちカメラは、少なくとも、いつものように妙な意図を持っては使用していない。

主人公・清水(徳川)斉道(岡田将生)は徳川11代将軍・家斉の17番目の子供ということになっているので、時代は1820年くらいのことになりそうだが、母親に虐げられた記憶のある清水家当主の彼は癇癪持ちで突然倒れるという精神病を患っている。
 ある事件がきっかけで庄屋生まれの瀬田助次郎(小出恵介)が側用人に抜擢され、やがて斉道は彼の出身地である瀬田村で静養することになる。そこで出会ったのが天狗と噂される娘・雷(らい=蒼井優)で、実は乳飲み子の時に敵対する藩の男(時任三郎)に誘拐された助次郎の妹であり、世間の標準とは違う一種孤独な暮らしをしている二人は相通ずるものを感じて恋に落ちる。が、結局斉道は紀州に転出する為止めようとする雷(本名は遊=ゆう)を無視して旅を続けなければならない。

「切ないですなあ」と言いたいところだが、二人の恋の進展が前半順調に行きすぎる為に却ってこの場面が段取りを踏まえて映画を鑑賞する人には余り切なくならない。

日本版「ロミオとジュリエット」という喩えも巷ではあるようだが、敵対する家の者同士が恋に落ちるわけではなく実際には「ローマの休日」の男女逆バージョンといったほうが近い。かの作品の幕切れが切ないのは、途中まで互いに身分を知らず、特にヒロイン(王女)のほうが相手が新聞記者であると知らないで甘い感情を覚えながらそれを相手に強く意識させないまま互いの気持ちを想像するに留めて永遠の別れを告げるからであって、「ローマの休日」と比較すれば切なさのレベルが全然違う。

まして、ネタばれになるが、彼女は斉道そっくりの息子を儲けている、という18年後の種明かし(なるほど斉道の種ですな)があるわけで、あくまで映画的なレベルで切ないお話かと言えばそれほどでもない。実際の立場になれば話は別でござるよ。

斉道は実在の人物ではない(モデルは斉順)しこういうお話も悪くはないが、事情が掴みにくい暗殺未遂事件を交える代わりに二人の恋模様にもう少し気を持たせるほうが秘められた時代ロマンスとして胸を締めつけられる感じになったと思う。

細かい点を指摘すれば幾つも粗(あら)が出て来そうだが、こちらも注意力散漫につき止めておきます。山里の風景はすがすがしい。

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この記事へのコメント

ねこのひげ
2011年10月17日 04:37
原作の作者の宇江佐真理さんの小説はけっこう読んでます。
宇江佐さんは、江戸庶民の生活やそこで暮らす侍の生活を書かせると、実にいい話を書く人なんですが、この『雷桜』は宇江佐さんの作品のなかでも異質な感じの小説です。
ミステリー仕立てで複雑なんですよね。
その『雷桜』をどう処理するかと思ってましたが・・・・・まあ、うまく処理できていたかな?
オカピー
2011年10月17日 22:04
ねこのひげさん、こんにちは。

>宇江佐真理さん
僕は現代文学に疎いので、全く存じ上げませんでした。
精神衛生的にも良さそうなので、図書館から借りて読んでみましょうか。

こちらの映画版は、アクション部分がよく把握できなかったんですよ。僕の体調不良もあるかもしれませんが、他の方にも同様の意見がありましたので、もう少し工夫の仕方があったようです。

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