映画評「フリック・ストーリー」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1975年フランス映画 監督ジャック・ドレー
ネタバレあり

このままずっと続くのではないかと思われたアラン・ドロンの人気も予想に反して1976年までで、1977年以降日本での公開作が激減する。確か購入価格が高いことが原因と「スクリーン」で読んだ記憶がある。年齢を重ね、公開作が減れば人気が落ちるのは必定、80年代のいつからか人気投票のベスト10圏外に去った。ドロン贔屓としては残念だったが、僕がいくら騒いだところでどうにもならない。

で、本作はドロンの人気がまだ凄い勢いだった頃、フランス国家警察の刑事(アメリカで言えばFBI捜査官に相当)だった実在の人物ロジェ・ボルニッシュの体験記をジャック・ドレーが映画化した刑事サスペンス。

凶悪な強盗犯エミール・ビュイッソン(ジャン=ルイ・トランティニャン)が脱獄、警視庁への対抗意識に燃え出世ばかり考えている国家警察の部長にドロン演ずるボルニッシュがどうしても逮捕しろと命令されるが、なかなか巧妙な追跡作戦も空しく惜しくも逃してしまう。
 その間にビュイッソンは密告者、警官、強盗の被害者を次々に射殺、新聞に批判的に取り上げられ国家警察は焦る。干されたのに構わず捜査に復帰した彼は妻の難病に困っている一味の老人を飴で釣って隠れ家の情報を得、ビュイッソンが隠れている宿屋兼食堂に医師団の振りをして入り、隙を観て遂に逮捕に成功する。

ドロンとのコンビが7作ほどあるジャック・ドレーの(共同)脚色、演出が共になかなか好調で、「ボルサリーノ」に次ぐ出来映えではないかと思う。タッチは、リュック・ベッソンが現われる以前フレンチ・ノワールの特徴であったリアリズム基調で、アメリカ映画に比べてのんびりしたところがあるが、その代わり優れた映画的ムードの醸成がある。

断然良いのはやはり食堂での捕物で、ボルニッシュの恋人(クローディーヌ・オージェ)がピアノで彼の好きなエディット・ピアフの曲を弾いて油断させるというアイデアを交えて、彼らが刑事であることを知っている観客はドキドキして見守ることになる。こけおどしやハッタリが多い昨今の映画と違って、こういう「知っているが故のサスペンス」は頗る映画的で興奮させられる。

ドロンもどちらかと言えば人間的と思われる刑事を演じて悪くないが、冷酷無比なトランティニャンの迫力にやや見劣りする。ドロンに代って弁解すると、製作者を兼ねた時の彼は「ボルサリーノ」でもそうであったように共演者に花を持たせる傾向があるのだ。

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この記事へのコメント

宵乃
2011年08月11日 10:52
こんにちは。
この手の作品は、顔と名前を一致させるのが苦手な私には筋を追うのも難しくて、オカピーさんの記事を読んで「ああ、そういう流れだったの」と今さら思ったり。(笑)
そんなわけで、ビュイッソンで印象に残ったのはレストランで見せた、やや穏やかな表情だけでした。

>製作者を兼ねた時の彼は「ボルサリーノ」でもそうであったように共演者に花を持たせる傾向があるのだ。

ドロンがどんな人柄なのか知らなかったけれど、こういうところ、素敵ですね。ちょっと印象が変わりました!
オカピー
2011年08月11日 17:14
宵乃さん、こんにちは。

>ビュイッソンで印象に残ったのはレストランで見せた、やや穏やかな表情
いかに悪党でも、常に緊張を強いられているわけですから、ホッとする瞬間も欲しいはず。
やっと得られた安心の時間が罠だったとは残酷ではありますが、あれだけ冷酷無比な人物には同情する余地はないでしょうねえ。

>ドロン
どの程度意図的なのか僕も定かではないですが、ブログ友達のトムさんがその辺は詳しいです。
ねこのひげ
2011年08月12日 04:12
アラン・ドロンも御歳75歳で、ロマンスグレーとなっておられますが、数年前スマップの番組『SMAP&SMAP』に出て「食事をしに来ただけ」などのウィットとユーモアにとんだ会話は、さすがアラン・ドロンでありました。
花を持たせるという意味では『友よさらば』『冒険者たち』でもチャールズ・ブロンソン、リノ・ヴァンチュラ共演者それぞれに花を持たせてますね。
ストーリーの都合上そうなっただけかもしれませんが・・・・
美男でつねに自分が中心にいないと気がすまないタイプだと鼻持ちならないですが、アラン・ドロンの控えめな演技は好きですね。
狙撃兵としてインドシナ戦争に参加して敵兵を一人一人殺していったことが、内向的な性格にさせたと言われてますが、それが陰のある演技を生み出しているのではないでしょうか。
ある人に言わせると、アラン・ドロンの銃の構え方を見るとゾッとするそうです。
あれは本当に人を殺したことのある人間の銃の撃ち方だそうです。
そういう目で観ると『フリック・ストーリー』怖いですね。フランス映画のシリアスなストーリーも怖いですけどね。
オカピー
2011年08月12日 20:33
ねこのひげさん、こんばんは。

偶然のものと意図的なものとがあるのではないでしょうか。
いずれにしても「我こそは」というタイプではなかった気がします。

>インドシナ戦争
「太陽がいっぱい」での影のある青春像は、彼の過去が影響して生まれたと言われていますよね。ドロンなしにあの映画はあそこまで鬼気迫る作品にはならなかったはず。

>銃の構え方
なるほど。解る人には解るのでしょうね。
後年主演作に犯罪映画が多くなったのも必然だったのでしょう。
2011年08月16日 01:51
オカピーさん、こんばんは。
この作品は、「ボルサリーノ2」と「肉体の悪魔」の記事でも少しお話していましたね。
>80年代のいつからか人気投票のベスト10圏外に・・・残念だったが、僕がいくら騒いだところ・・・
わたしは、めげずにさわいで、30年です(笑)。

確かにこのあたりから、ドロン・キャラクターが、無個性になっていった感がありますよね。
役作りで最も苦労した「パリの灯は遠く」も日本では受けなかったし・・・。
ファンの質の低下(60年代は「太陽はひとりぼっち」でさえ大ヒットしてましたから)や映画のTV放映時代、ダーバンのCMなどで身近になりすぎて、神秘性が失われていったことも原因かもしれませんね。
それにしても70年代後半に、このような戦前ぽい作品を制作していたことは勇気のいることだったと思います。
トランティニャンと初共演で、刑事役というのは、ギャバンがまだフランス映画界にいたからできたように思います?(ギャバンの他界は、この作品の2年後ですから)
高齢とはいえ、まだ、映画を撮ってほしいですよ。
では、また。
オカピー
2011年08月16日 15:16
トムさん、こんにちは。

今月はWOWOWが不調で新作の鑑賞予定がかなり少ないですし、観ても本当に児戯レベルの内容若しくは演出レベルの作品が多くて、何年も前から申しているように、新作鑑賞からほぼリタイアしようかなと思うこともしばしば。
そんなわけで、NHK-BSでハイビジョンで録画した作品を鑑賞しました。ハイビジョンというだけで古い作品も新鮮味を感じて観ることができるというものです。
スタンダード・サイズの作品では、フィルムの粒子が目立つこともありますが。

>ドロン・キャラクター
「忘却エンドロール」の宵乃さんのところで、「この作品以降官憲役が増える」と事実と少々異なる情報を与えてしまったので、怒られる前にご報告申し上げます(笑)。
探偵も官憲側と考えれば数本出ていますが、“増えた”とまでもちょっと言えなかったですね。それまでのイメージだった殺し屋・ギャングといった役ではないキャラクターが増えたと言いたいが為に些かオーヴァーな表現になってしまいました。<(_ _)>

>ファンの質の低下
70年代はまだまだ映画ファンが多かったですが、どうも「スター・ウォーズ」辺りから映画をレジャー感覚で観る人が増えたような気もしますね。
ここでのテーマからは離れますが、CGと3D時代の現在、真の映画ファンは本当に減ったと思います。

>戦前ぽい作品
特に終盤ですかね。
確かに、戦前の犯罪映画でも女性に油断して犯人が逮捕される作品が幾つかありましたね。それから、レコードの使い方。

>高齢
わが父親と二つしか年が違わないんですねえ。ドロンの方が勿論年下。
新藤兼人監督のように「これが最後の作品」と頑張って貰いたいですね。

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  • 映画「フリックストーリー」観た

    Excerpt: 上司「報告書を書け、詳細にだ!」 製作:フランス/イタリア’75 原題:FLIC STORY 監督:ジャック・ドレー 原作:ロジェ・ボルニッシュ ジャンル:サスペンス戦後まもない1947.. Weblog: 忘却エンドロール racked: 2011-08-11 10:52
  • 『フリック・ストーリー』~ “古き良き時代” クラシックとアラン・ドロンの新境地~

    Excerpt:  この作品の原作は、戦後の間もなくの実際にあった犯罪記録をノン・フィクション小説としたものです。原作者のロジェ・ボルニッシュは、フランス内務省管轄の国家警察司法警察局の所管機関である刑事部に勤務してい.. Weblog: 時代の情景 racked: 2011-08-16 01:23