映画評「パンドラの匣」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2009年日本映画 監督・冨永昌敬
ネタバレあり

太宰治の長編小説「パンドラの匣」は読んだと思っていたが、この映画版を観たら全く内容に覚えがない。題名を良く知っているので読んだ気になっていたらしい。

終戦の日、病弱な少年・利助(染谷将太)が喀血した為山の結核療養所で過ごすことになる。そこでは患者も看護婦もニックネームで呼び合い、「やっとるか」「やっとるぞ」「頑張れよ」「よしきた」という挨拶が習慣になっている。

まずこの療養所内の描写が大変興味深く、太宰らしからぬ明朗なムードで進行していく。

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自分を余計者と思っている主人公の少年は例によって太宰本人がかなり投影されている印象だが、ひばりと名付けられた少年は、結核を完治させて出て行った先輩つくし(窪塚洋介)と入れ違いに入って来た看護婦竹さん(川上未映子)に憧れ、また彼女も少年を可愛がる。若い看護婦マア坊(仲里依紗)はつくしに恋していたが、もっと若いひばりをも憎からず思っている様子で、そこへ彼と手紙のやり取りをしていたつくしが竹さんに関心をもって療養所を訪れ、ここに四者の思慕関係が複雑に入り乱れる。

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青空文庫でざっと読んでみた原作はもっと単純なお話。小説ではつくしは家族の都合で転院することになっていて恋に絡まず、手紙の相手は全く部外者となっているが、映画はつくしと手紙の受取人を同一人物に変更してちょっと劇的な膨らみを持たせている。恐らく原作より“お話”らしい幕切れする為のお膳立てで、全体的に青春小説のような爽やかさを感じさせる一方、この幕切れは原作よりぐっと甘くなることの多い太宰の映画化では珍しく原作よりシニカルな印象さえ醸し出す。

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演技陣は好調。中でもシンガー・ソングライターで詩人・小説家である川上未映子の達者な演技には驚いた。

療養所と言えば、堀辰雄による「風立ちぬ」という名作小説もありますね。

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