映画評「コレラの時代の愛」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2007年アメリカ映画 監督マイク・ニューウェル
ネタバレあり

コロンビアのノーベル賞受賞作家ガブリエル・ガルシア・マルケスの小説を英国の中堅マイク・ニューウェルが映像化したアメリカ映画。ちとややこしい。

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1879年、電報配達人のフロレンティーノ(十代ウナクス・ウガルデ、以降ハビエル・バルデム)が、成金の娘フェルミーナ(ジョヴァンナ・メッツォジョルノ)に一目惚れして、何通もの手紙を書いた後にプロポーズに成功する。しかし、彼女は貧乏人嫌いの父親に反対され預けられた親戚な家で診察した医師ウルビーノ(ベンジャミン・ブラット)に見染められ、父親の後押しもあって結婚に応じる。
 失意の純情青年フロレンティーノは転職する為に乗った叔父の経営する運輸会社のフェリーの中で童貞を奪われ、これを機に次々と迫ってくる女性は拒まない激しい性遍歴を始め、遂に51年後夫を失ったばかりのフェルミーナのところへ求愛しに出かけて行くが、さすがにこのデリカシーのなさに彼女も激昂。しかし、文才を生かして書き続けた手紙が彼女の心を解かし、その2年後社長の権限で貸し切り状態にした船の中で遂に本懐を遂げる。

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ノーベル文学賞受賞作家のものだろうが、芥川賞受賞作家のものだろうが、1950年以降に発表された小説は滅多なことでは読まないことにしているので、マルケスについて解るのは映画化作品を通してのみ。それも殆ど観ていないのだから大したことは言えないが、フランチェスコ・ロージが映画化した「予告された殺人の記録」と併せて本作を観ると見えて来るものがある。「つまるところ男女間の愛において肉体の童貞性など取るに足らず、精神の純潔こそ肝要」という主張である。

本作の主人公はカサノヴァも「好色一代男」世之助もびっくり50年以上に渡り600人余の女性と交渉を持つのだが、フェルミーナに精神的純潔を注いでいる彼にとって性遍歴はそれを維持する為に必要な行為であり、主人公がフェルミーナに「童貞を守った」と言うのも精神的な意味と取れば本音であると僕には思えて来る。勿論精神的純潔を守る為と言って主人公のように【来る者は拒まぬ】という態度は正常とは思えないものの、そういう純潔の在り方もあるのかと大いに感心させられた。

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ジャングルに追いやられて数年後にフェルミーナは、再会したフロレンティーノの愛を拒む。しかとは解らないが、彼の影のような存在の薄さに突然気付いたのではないだろうか? その存在感の薄さが逆に本格的に愛を求めない通りすがりの女性たちを引き寄せる。通常の人間は逆を考えるが、マルケスという作家は良い意味で相当ひねくれているのだろう。

映画的には、サイレント映画を鑑賞する終盤の情景に代表される、半世紀に渡る時代色の移り変わりに興趣があり、外輪式蒸気船が醸し出すクラシックなムードも捨てがたい。描写の厳しさや野趣の醸成という点でロージの前述作に及ばず、扱われる時間が半世紀以上と長い割に上映時間が138分と短めなので駆け足的な印象が残るとは言え、IMDbにおける6.2など世評は悪すぎるような気がする。
 投稿されたレビューをざっと眺めると、他の多くの原作もの同様に原作との比較が主因であるようだ。比較も大いに結構、しかし、映画としてどうなのかという視点を欠いては映画の批評にはならない。

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先日観たばかりの「ベンジャミン・バトン」ほどではないが特殊メークもお楽しみ。ジョヴァンナ嬢が一人で通したのに対し、さすがに十代の少年役はいかついバルデムには無理だったようで、途中まで若いウガルデ君に任せたのはご愛嬌と言うべし。

恋の病は草津の湯でも治らないと申します。

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この記事へのコメント

2010年03月01日 20:48
こんにちは。
マルケスのような神話的な文学の発生は、日本の風土とはおおきくかけ離れているような気がします。
仮想したひとつの街で、大きな歴史をつくってしまうんですね。
SFとも少し違う。
現実世界に、文学世界が正面から拮抗しているような感じがします。
観念世界では日本でも「死霊」のような世界があるかもしれませんが、ちょっと
スケールが違うような気がして、歯が立たないような気もします。
2010年03月01日 21:48
あわわ。
あわてて記事書いて持ってきました。^^

ちょっとあの51年は駆け足気味でしたかね~

アタマの固いかたなら噴飯ものの主人公の
愛の御し方となるんでしょうな~
何せハビエルさんあってのあの役でしょう。

愛する人を忘れないこと
女性の要望にすぐお応えできるおカラダ
そして愛のポエムも奏でられる
まさに三位一体(^ ^)の壮大なドラマと
私は観ましたがね。
ま、コミカルではありましたが。
オカピー
2010年03月02日 00:41
kimion20002000さん、こんばんは。

>神話的な文学
スケールが違う・・・というよりずっとミクロ的かもしれませんが、安部公房なんてのはどうなんでしょう?
ちょっと仮構の仕方が直球すぎる気もしますが。

>現実世界に、文学世界が正面から拮抗しているような感じ
解りやすい表現ですね。
純文学は私小説とほぼ決まっていた長い歴史のある日本ではまず生まれないタイプの作家、作品でしょうね。
オカピー
2010年03月02日 00:47
vivajijiさん、トラコメ有難うございます。

>あわてて記事書いて
あらら、本当だ。日付が3月1日じゃ。(笑)

>三位一体
マルケスさんだからきっと一種の愛の寓意なんでしょう(知りもしないで・・・笑)が、こういう風に「正に現実」として見せられるのも面白い。

父と子、母と子、遺伝という要素もありましたね。
ねこのひげ
2010年03月02日 08:25
マルケスの本を映画化するだけでもすごいですが。
そういえば紀伊国屋書店の田辺茂一さんは、生前1000人切りしたと豪語しとりましたが・・・本当なんでしょうかね。
たぶん、ジョークでしょうけど・・・・口説いていくだけでも疲れそう。(笑
シュエット
2010年03月02日 11:27
いやぁ、これはP様がいつ記事あげられるのか楽しみに待っておりました。
これぞ純愛! そう思ったわ。
たしか大阪での本作上映は「ノーカントリー」の後。
ハビエルさんは「海を飛ぶ夢」だったか、「夜になる前に」だったかで初めて知ったけど、ここにきて彼の芸達者振りをずいぶんと堪能させてもらっているわ。
こんな壮大なる純愛物語って、さすがマルケス!って言いたくなる。
女と寝て、その情事を克明に記録し続けるこの男の情熱というかエネルギーというか、ラテン民族のパッションなんでしょうかねぇ。悠々と航行するシーンはよかったなぁ。監督がイギリス人だからでしょうか、ラテン好きの友人はちょっと濃密さに欠けるって意見だったけど、私はかえって、普遍的な物語りとして受け止められたように思うわ。
オカピー
2010年03月02日 22:43
ねこのひげさん、こんばんば。

>マルケスの本を映画化するだけでもすごいです
そう仰る方も多いので、近いうちに原作を読んでみようかなあ、と思って調べてみたら、我が町の図書館には全くありませんでした。
何とかしましょう。

>田辺茂一さん
話十分の一くらいでしょうか。^^;
それでも僕なんかには信じられないですけどね。
オカピー
2010年03月02日 22:57
シュエットさん、こんばんは。

いやあ、僕としては余り良い記事にならなかったなと思っておりますです。
構成とか技法とか、そんなことばかり追っているので、皆さまの様に、内容を文学的に理解し、さらに文学的に表現することができず、申し訳ございません。
それでも僕の得意なところで上手く書ければ自分の中では納得できるんですけど・・・

>壮大なる純愛物語
「原作と違ってただのメロドラマじゃん」という意見がallcinemaにあったと思いますが、恋愛そのものを描けばメロドラマというのも短絡的ですし、純文学が純愛を描かないという考えも誤解でしょう。
とにかく、マルケスを全然知らないので、ちょっと勉強してみようと思っておりますよ。

>監督がイギリス人だから
僕もその方の意見は何となく解ります。
映画的魅力という観点からはラテン的な野趣が少し足りない気がしました。
その一方で、普遍性を表現するにはこのくらいが良いのかもしれないとも思いますね。

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