映画評「チェンジリング」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
2008年アメリカ映画 監督クリント・イーストウッド
ネタバレあり

クリント・イーストウッドの近年の安定した仕事ぶりは驚くべきものがある。その一方で、どちらかと言えば正確に理解するに難渋を強いられる作品が多かったが、本作はかなりストレートで見やすい作品になっているのではないかと思う。

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1928年、禁酒法などで頽廃的な気分に満ちていたロスアンゼルス、一人で息子を育てているアンジェリーナ・ジョリーが勤め先の電話会社から帰ると息子が見当たらないので警察に通報する。子供が遊びから帰るのが遅れているだけと取り合わない警察が翌日漸く捜査を開始するものの結局発見できない。
 五ヶ月後警察が発見したと連れて来た子供は全くの別人で、警部ジェフリー・ドノヴァンは捜査の継続を強く訴える彼女を警察と自身の立場を危うくする者と考え、有無を言わせずに精神病院に押し込める。
 が、違法滞在のカナダ少年が従兄が少年20人を殺すのを手伝ったと告白、少年が被害者として選んだ肖像写真の中に彼女の息子が入っていた為に全てがひっくり返る。

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リメイクやシリーズばかりになっている昨今、この映画の強みは新味である。官憲の悪徳を扱ったものは多いが、大抵は収賄や麻薬の横流しみたいなもので、こんなのはちょっと記憶にない。警察が権威保持の為に弱き者を人間性のかけらもない精神病院に放り投げてしまうという、中世の魔女裁判並みの出鱈目さに度肝を抜かれ、強い義憤に駆られる。

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その袋小路を破る大量殺人発覚のプロセスもミステリー的に興味深く、犯人の裁判と警察への聴聞会を怒涛のようなカットバックで一気に見せるイーストウッドの手腕が鮮やか。このカットバック部分はヒロインに希望が芽生える転調部分でもあり、その果てに訪れる死刑の模様を延々と撮るのは、犯人が最後に真相を告げるのではないかと信じて聞き洩らすまいとする彼女の必死の思いを表現する為である。

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かくして最後に残るのは母親の愛情で、いくらでも社会劇として作れる素材を用意しながらかかる普遍的なテーマに持って行ったところが本作の殊勲ではあるまいか。

彩度を少し下げた、所謂銀残し的な色調による映像も内容に合せた厳しさを漂わせて抜群。アンジェリーナ・ジョリーの熱演も印象深い。

今ならDNA鑑定で一発で被害者になっているかどうか解ってしまう。それはそれで夢も希望もないです。

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この記事へのコメント

シュエット
2010年01月26日 13:40
何も申しますまい。
作品的にも良かったけれど、私アンジェリーナはこの演技でオスカーいくなって思ったほど。子どもを喪った母の言葉にならないほどの痛み、哀しみがひりひりするほど伝わってきたわ。
しかし、映画ネタを探すのって大変なんですね。これも市役所の倉庫を整理するから、いい材料が見つかるかもってイーストウッドが声かけられて、そこから埋もれていたこの事件が発掘されたそうです。
そこには当然映画監督としての、鋭い眼が要求されるわけで、内容はとても痛ましいものだけれど、最近のスケールや意表をつく映像に腐心する傾向の中で、こんな風に職人的に映画をつくっているこんな作品をみるのは精神衛生上はとってもヨロシイ。
オカピー
2010年01月27日 00:50
シュエットさん、こんばんは。

>アンジェリーナ
アクション映画の彼女はどこが良いのか理解しかねるところもありますけど、しっかりとした演技をする彼女は良いですね。

>映画ネタ
ふーむ、人間のやることなど所詮限られているわけですからね。
しかし、シリーズものやリメイクのオンパレード、何とかならんかい、と日々が続きます。いい加減嫌になってきた。

>こんな作品をみるのは精神衛生上はとってもヨロシイ。
あはは。
よくご存じないはずなのに、双葉師匠的措辞になっていますよ。
不思議なもんですなあ。
ドラゴン
2010年01月27日 14:05
こんにちわ。

同じように息子のために奮闘する母親を描いた、韓国のポン・ジュノ監督『母なる証明』を最近観たんですが、『チェンジリング』の方が共感できました。

戦前のアメリカ特有の雰囲気と共に、がっしりと腰を据えた演出が印象に残り、単純にいい映画を観たなぁって感じです。重く沈んだタッチが大半ながら、後味も意外に悪くなかったです。

僕はジョン・ヴォイトが好きなので、娘さんのアンジェリーナ・ジョリーはいつも気になってしまうのですが、この作品は熱演・好演でしたね。


それにしてもイーストウッドの監督作は、僕ら若い世代の中でも評判がいいです。けど、若い頃の出演作も観てほしいなぁって思うんですけどね。
シュエット
2010年01月27日 14:07
>双葉師匠的措辞になっていますよ。
そうですか。
グリーンベイさんなる御仁が、私の映画感想に対して双葉先生の映画評を押しセ手下さることが多く、本当に簡潔な一文で見事に作品を評されている。
こうして映画感想を書いていると、本当に感じたことのエキスをずばりと言いえたら…って思っているけれど、凡人はあれこれあれこれ書き連ねてしまう。
双葉先生は知らぬけど目標は双葉先生の映画評!(なんと大それた! 笑)
それとアンジェリーナは、私は「17歳のカルテ」で惹きつける何かを持っている子だなって思っていて、そんなシリアスな演技のアンジーが印象的だったから、「グッド・シェパード」のアンジーも大いに評価しているけれど、世間では「そぐわない」なんて声も。本作で彼女を起用したイーストウッドは役者としての彼女の実力を認めてのことだと思うと、ちょっと嬉しい。
オカピー
2010年01月27日 23:29
ドラゴンさん、こんばんは。

>『母なる証明』
なかなか評判が良いですね。
イーストウッドの「グラン・トリノ」同様これも楽しみにしましょう。
WOWOWで観ることが多いので、こんな言い方しかできずすみません。
「永遠のこどもたち」という映画も息子(といっても養子)を探す母親の話でした。

>後味も意外に悪くなかったです
途中からヒロインに希望が見えてくるからでしょうね。
強い母親を観るのは気持ちが良いです。

>ジョン・ヴォイトが好き
それは渋いですね。^^
新人時代の「真夜中のカーボーイ」がお気に入りですが、ご覧になっていますでしょうか。
「脱出」なんてのもあったなあ。
80年代は余り奮わなかったのに、90年代以降復活しましたね。

>アンジェリーナ・ジョリー
どちらかと言えば、アクション映画の彼女は僕は苦手なんです。^^
僕も最初は好演と書いたのですが、熱演に変えました。
まあ、どちらにも該当しますね。

>イーストウッドの監督作
基本的には素材の選び方なんでしょうが、ライティングの使い方も人気の秘訣なのかなと思っています。
しかし、ぼちぼち監督し始めた70年代こんなことになるとは誰が想像しえたでしょう?

若い頃と言えば、「ダーティハリー」の第一作が特にご贔屓です。タイトでサスペンスフルで、映画的魅力満載。主人公の格好良さは言わずもがな。
ドラゴン
2010年01月28日 01:08
こんばんは。

>ジョン・ヴォイト
『真夜中のカーボーイ』は大好きです。ラストシーンは忘れられません。音楽もです。
あと出演作では、『オデッサ・ファイル』がお気に入りです。


>クリント・イーストウッド
最初の監督作って、『恐怖のメロディ』でしたっけ?あれも面白かったけど、当時からしたら、今を想像することは難しそうですね。

>ダーティハリー
これも大好きです。悪役のアンディ・ロビンソンも憎たらしかった。
『続・夕陽のガンマン』もイーストウッドさん主演作では印象的です。
オカピー
2010年01月28日 08:45
シュエットさん、おはようございます。

「精神衛生上ヨロシクない」といった文章をどこかで読んだ記憶があるんですよ。^^

>グリーンベイさん
大ベテランさん。
最近vivajijiさんのところにもよく出没されていますね。
グリーンベイさんなりに双葉さんの文章を独自に要約しているわけですが、瞬時に要約できる簡潔な文章をお書きになっているのは事実です。
同時に、その簡潔な文章の裏には、他の追随を許さない物凄い量と質の分析があることを知っておく必要もあるのですが。

>「17歳のカルテ」
あの映画で演技が評判になったのは知っていたのですが、僕には強い印象を残さなかったです。演技の良し悪しを判断するのは僕の苦手とするところで当てにならないのですが。
しかし、「チェンジリング」の演技を見ると、やはりしっかりした演技者だったのだ・・・と思わされますね。
オカピー
2010年01月28日 16:07
ドラゴンさん、こんばんは。

お若いのに随分古い映画をご覧になっていますねえ。
かく言う僕も、まるで明治生まれではないかと思われるくらい古い映画を観ていますが。(笑)

「真夜中のカーボーイ」は幕切れとやはりニルソンの主題歌ですね。僕は、フラッシュバックの鮮やかな使い方にも度肝を抜かれました。

>『オデッサ・ファイル』
当時はスパイものが人気のあった時代ですね。
あの頃の映画は現在の作品を比較すると、即実的で全てセミ・ドキュメンタリーのように感じられます。^^

>イーストウッド
の監督第一作は仰るように「恐怖のメロディ」ですね。
“初演出としては”という条件付きですが、なかなか面白いスリラーでした。映画評論家の間でもなかなか好評でしたよ。

>『続・夕陽のガンマン』
長い作品ですが、人気がありますね。
邦題にも拘らず、実は「荒野の用心棒」の続編(多分)。
2010年02月28日 11:01
TB有難うございました。
子供を想う母の心情をアンジーは
見事に再現していました。
最近のクリント・イーストウッドの作品は
重厚なテーマが続いていて、今回も
作品にどっぷり浸かってしまいました。

今度、訪れた際には、
【評価ポイント】~と
ブログの記事の最後に、☆5つがあり
クリックすることで5段階評価ができます。
もし、見た映画があったらぽちっとお願いします!!
オカピー
2010年02月28日 12:06
シムウナさん、初めまして。

>子供を想う母の心情
そうでしたね。
普遍的ですが重みのあるテーマをじっくり掘り下げた、素晴らしい作品でした。

>【評価ポイント】
了解致しました。^^)ゝ

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