映画評「鬼畜」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1978年日本映画 監督・野村芳太郎
ネタバレあり

原作については分らないが、松本清張の映像化作品の中ではミステリー色の薄い作品である。監督はこの時代清張もの専任の感さえあった野村芳太郎で、この作品を作った年に清張と霧プロダクションを設立する。

およそ30年ぶりの再鑑賞。

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妾・小川真由美が本妻・岩下志麻と暮らす印刷工場主人・緒形拳を訪れ、1歳半くらいの次男、3歳の長女(吉沢美幸)、6歳の長男(岩瀬浩規)を預けて失踪してしまう。本妻が鬼のように子供を扱うので、気の弱い主人が世話を続けるが、次男が衰弱死して糸の切れた凧のように自制心を失った男は娘を東京タワーに置き去りにし、「事情に気付いているに違いない」と長男を北陸の岸壁から落とす。幸いにも少年は木に引っ掛かり一命を取り留め、彼の黙秘にも拘らず父親は逮捕されてしまう。

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というお話で、後味は大変苦いが、不快さだけが残る作品ではない。こうして松本清張の映像化作品を続けて観てくると作品相互に非常に高い関連性があることが判ってくる。
 例えば、本作の根源には「砂の器」と同じモチーフがある。即ち、父と子の断ち切りがたい絆である。「お父さんじゃない。知らないおじさんだよ」と刑事に言い憎んでも仕方がないであろう父親を庇う終盤の場面が激しく涙腺を刺激する。涙もろい僕にはとても耐えることができなかった。捨てられるとも知らずに娘が「お父さん大好きだよ」と言う言葉も胸にぐっと迫る。

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清張は社会派推理と言われるが、僕には人間の性(さが)を凝視する作家というイメージが強い。本作に出て来る女性二人もエゴイズム丸出しでヒューマニズムの観点からは相当問題があるが、そうした身勝手さを持つ彼女らも別の意味で“人間的”なのだ。

一方、甲斐性がなく、気が弱く、優柔不断な主人公のような男は愛人を持ってはいけないし、まして子供など儲けるべきではない。関係者全員を奈落に落とすのはこの男の弱さである。その男にも両親に見捨てられた経験があることが判り、かくして連綿と続く人間の性が鮮やかに浮かび上がる。我々は反面教師としてこの映画に対峙するしかない。

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大人三人の演技は夫々に見応えあり。子役の台詞回しは最近の子役に比べると拙いが、驚いたことにあの少年の喋り方はずっと忘れずに残っていた。同じように、繰り返し奏でられる芥川也寸志の主題曲も頭にこびりつく。

鬼畜と言っては、鬼はともかく、一生懸命子供を育てている動物に失礼じゃよ。

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この記事へのコメント

2010年01月10日 15:07
私の再見したくない三大映画の1本です。^^;

>主人公のような男は愛人を持ってはいけないし、
まして子供など儲けるべきではない。
奈落に落とすのはこの男の弱さである。

私も記事にしたならば同じことを
書いたかもしれません。^^
でも優柔不断で弱いから甲斐性がないから
ヨソに女を作るのも「男」なんですよ~。
たいていそういう方に限って下半身も
だらしないから子供もぼろぼろ出来っぱなし。^^

プロフェッサーはお子達に目がお行きに
なったようですが、私は小川真由美も
よかったけれど本妻の岩下志麻ですね。
子をどうにかしたことを知っていながら
欲情するシーンが確かありましたでしょ。
あれは凄い描写だと思いましたね~。
今村の昌ちゃんに匹敵するくらいの
ネバネバしたあの場面は忘れられません。
もちろん、緒形拳もよかったですけどね。
日本映画、こんなに元気がよくて力作を
出していたのにね~。
やはり、ホン(原作&脚本)が無いのかしらね~。
貧すれば鈍する、そんな言葉も脳内往来します。^^
オカピー
2010年01月11日 00:59
vivajijiさん、コメント有難うございます。

>「男」なんですよ~。
そうでしょうね。
しか~し、ぼかぁ、
甲斐性がないのは一緒だし、優柔不断なところもあるけれど、
意志だけは強いから「浮気はしない」自信はありますぞ。

>欲情するシーン
はいはい、一番下の子供が死んだ後。
あそこは正に稲村ケ崎ならぬ今村調でしたねえ。

>お子達
ふーむ、喋りは非常に心許ないですが、あの素人臭さが良かったのかなあ。
二人ともこの映画一本しか映画やドラマには出ていないようです。

大人の三人は皆上手い人ですから、今回個々には触れませんでした。

80年代以降日本映画が一気に下降するのは、やはりTV的スタイルの逆輸入ではないでしょうかね。
TVしか見ない人は結局親切極まりないTVレベルでないと理解できないことが多いわけでしょ?
まして21世紀になってからは大作=TV局絡みですから、程度は推して知るべしという作品ばかりになっちゃった。
シュエット
2010年01月11日 12:10
「鬼畜」TBありがとうございました。
この中の大人たちって、悲しいよね。だれも悪人じゃないんだよね、貧しい中で必死に生き延びようとしているんだよね。男も6歳で丁稚奉公させられて、男の給金は伯父が前借してずっとただ働き。石版磨きに明け暮れて、それも時代の流れの中で役に立たぬものとなってしまい…。
>主人公のような男は愛人を持ってはいけないし、まして子供など儲けるべきではない。関係者全員を奈落に落とすのはこの男の弱さである。
それが人間ちゅうもんじゃないかしらね。給金ももらえず、欲しい菓子も買えずそうやって店を持ってようように一人前になった男の、ようようにありついた贅沢。そんな気がするわ。批判できないんじゃないかな。痴情絡みの犯罪や事件ってこの弱さに根付いている。
>こうして松本清張の映像化作品を続けて観てくると作品相互に非常に高い関連性があることが判ってくる。
一つ一つ観ているとさほど思わなかったけど、彼の作品には弱者といわれる子供の視線で描かれてる。そして彼らは決して弱者ではなくって何もいえないがゆえに、無邪気に一途であるがゆえに、彼らの中で芽生えた大人たちに向けられた殺意、残酷さも一途。<次は「影の車」でそんなことも触れてみたいなって思っている。記事にするのは週明けだけど。>
そして子供たちの視線に耐え切れず大人たちが罪を犯していく。
こうして彼の作品の映画をみていると彼は子供の視線を通して世の中を糾弾しているような…そんな気がする。そしてもの言わぬ子供たちも決して弱者だけではなく、幼い彼らの中に芽生え積もっていった大人たちへの憤怒がどれだけのものか、その残忍さをも描いている。人間の業をここまで描きあげている。映画を通して改めて凄い作家だなって思う。
オカピー
2010年01月11日 23:21
シュエットさん、こんばんは。

「人間は弱く愚かなものである」というのは常々言っている言葉で、それが人間の生の営みを<人間喜劇>たらしめている所以ですから、彼自身を単純に責めようとは思わないですが・・・。

かと言って、彼の行為は認められないわけで、親に受けたことを意識して或いは無意識に子供に返すのが人間というもの。昨年観た奥田瑛二の監督作「長い散歩」の暴力母もそれを実施していました。そう言えば、あの映画も緒形拳が主演でしたなあ。

>「影の車」
実は偶然にも先月原作の短編(短編集「影の車」所収「潜在光景」)を読みましたが、主人公の少年の殺意は「天城越え」の少年の殺意に通じるものがあるでしょ?
前にも書いたように、あの少年の殺意は母と懇ろになった叔父に向けられたものとも考えられなくもないわけですし。

>松本清張・・・凄い作家
苦労人ですから、人間の裏をよく知っているのでしょうね。
シュエット
2010年01月15日 10:30
>主人公の少年の殺意は「天城越え」の少年の殺意に通じるものがあるでしょ?
本日「影の車」をアップしました。
今回の特集観ていて同じような印象をP様ももたれたようで…
「穢れ」に対する憎しみということで、「炎上」の伍一の心情とも重なるような…
「影の車」TBしますね。
「疑惑」は桃井かおりのアナーキーぶりもなかなかで、好きな作品。記事は家庭ルのですが後日アップの時にお邪魔させていただきますね。
オカピー
2010年01月16日 01:16
シュエットさん、こんばんは。

>「影の車」
来週の中旬くらいにUPする予定です。
一昨日観たばかりで、メモとしては書き終えてしますけど、
推敲はこれから。
しかし、あそこまで「天城越え」と重なる内容だったとは思わなかったなあ。

>「疑惑」
お待ちしちょります。
zebra
2013年11月25日 00:57
おひさしぶりです zebraです
この作品は「影の車」と二枚組みDVDにして発売してもいいといえるくらいの作品です。

岩下志摩と小川真由美が「影の車」でも共演してますが 「鬼畜」では愛人 正妻 ともに真逆の役をやっているのも面白い。ふりまわされる男もこっけいです。

でも「影の車」も「鬼畜」も・・・
おなじくらい男は悲しい生き物にみえます。 その人間的な弱さが松本清張作品の”キモ”なんです


これもまた松本清張の作風"人間の心の闇"です
オカピー
2013年11月25日 21:47
zebraさん、お久しぶりです。

「影の車」はこの後再鑑賞して映画評をアップしております。
よろしかったらどうぞ。

http://okapi.at.webry.info/201001/article_23.html

>岩下志摩と小川真由美・・・真逆
そうなんです、彼女たちの役柄が逆のように、「鬼畜」と「影の車」では主人公の男が迎える立場も逆なんですよね。
カップリングして発売というご意見もご尤も。

>人間の心の闇
全て弱さに帰するということなんでしょうねえ。

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