映画評「イースタン・プロミス」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2007年イギリス=アメリカ=カナダ映画 監督デーヴィッド・クローネンバーグ
ネタバレあり

デーヴィッド・クローネンバーグは初期にはB級的素材に取り組んでいたが、近年は大分正攻法になり、僕のような凡人にも見やすい映画を作るようになってきた。本作などは正にその典型。

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ロンドン、赤ん坊を出産すると共に息絶えたロシア人の少女売春婦の担当になった助産婦ナオミ・ワッツが、運び込まれた時に抜き取った日記を頼りに赤ん坊を預けられる家族を探そうと奔走、日記に挟まれていた名刺を辿って知り合ったロシア料理店長アーミン・ミューラー=スタールに日記を翻訳して貰うことにする。
 しかし、実はこの店長はマフィアのボスで、赤ん坊の父親でもあり、官憲から身を守る為に日記を取り戻して消却することを考え、運転手ヴィゴー・モーテンセンを使って彼女の住居を突き止め、遂には抜き差しならない状態にする。しかし、彼女はモーテンセンに単なる凶暴なマフィアではないものを感じ、いざという時に協力を求めることになる。

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全体のストーリーは格別珍しいと言えるほどではないが、英国におけるロシアン・マフィアを本格に扱ったというのが主たる興趣となる。

具体的には、マフィアのボスの抜け目のなさを示すエピソード群が光っていて、まずその一。
 ナオミの住所を突き止める為に彼女のバイクのエンジンに水を入れて動かなくし、車で家まで送り届けさせる。映画は何も説明しないが、モーテンセンに「エンジンに水が入っている」などと事前に“真実”を何気なく言わせて、観客に理解させるといった手法が心憎い。
 その二。運転手からマフィアの正式メンバーに昇格すると見せかけてモーテンセンに刺青を施し、それを証拠に不始末をしでかした不肖の息子代わりに仕立てるというアイデアが面白く、本作一番の見せ場であるサウナでの全裸格闘に発展している。

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ナオミ嬢の使い方に不満を覚える鑑賞者が多いようだが、出番の多さにも拘らず彼女はロシアン・マフィアの実情を描く為の狂言回しに過ぎないので、彼女について掘り下げが必要といった意見は筋違い。ただ、終盤に彼女の役回りが狂言回しから幾分かはみ出してしまい、構成上若干の乱れを感じさせる。

映像は粘着質でダイナミックかつ美しい。モーテンセン、ミューラー=スタールの演技も見応え十分。

マフィアはサウナに入るのも命がけ、というわけですな。

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この記事へのコメント

シュエット
2009年09月17日 14:04
ご無沙汰です。
TBありがとうございました。
リフォーム疲労でかなりへばっておりまして、バタバタと動き回るのOKなんですけれど、一点に集中という所まで体力が消耗しておりまして遅くなりました。
TBが皆さんされているのにコメントなしとは淋しい限りですね。
私はその前にトルナトーレ監督の「題名のない子守唄」をみていたのと、雑誌でいまやイギリスでは東欧諸国の売春ビジネスが急成長なんて記事を読んだのもあったり、イギリスに亡命した元ソ連軍人暗殺といったドキュメンタリーみたりしていたから、そちらに関心がいってたからでしょう、そのあたりの切り込みの弱さにちょっと不満だったところはあるけれど、P様が書かれているように<英国におけるロシアン・マフィアを本格に扱ったというのが主たる興趣となる。>が見どころなんでしょうね。そのあたりは鮮やかに描かれていたと思いますね。
個人的にはヴィゴよりもボスの息子のヴァンサン・カッセルが良かったわ。(笑)
オカピー
2009年09月17日 17:04
シュエットさん、お帰りなさい!

先に「特急二十世紀」にコメントしたから、変な具合ですが、これが一番最初のコメントなので改めて。

>コメントなし
本当にねえ。TT
当ブログは、やはりパワフルなシュエットさんが書き込んでくれないと、開店休業みたいになっちゃうですね。^^;
コメントを欲しいと思えば、もっと内容を切り込んだ感想文のほうが良いのでしょうけど、僕は映画の作り方に関心があるので、どうもこういう硬い要素が多くなって「敷居が高い」という印象になるのでしょうね。

「題名のない子守唄」はトルナトーレらしく語り口が上手くて面白く、かつ、社会的な面への喚起力も強かったですが、マフィア映画という観点で観ればなかなかタイトに作られた作品だと思いますよ。
クローネンバーグの大好きなコアなファンは、かかる正攻法に近い作品をどう評価するのでしょうか?

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