映画評「日の名残り」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1993年イギリス映画 監督ジェームズ・アイヴォリー
ネタバレあり

1990年以降に作られた作品の中で僕が1、2位を争う傑作と高く評価しているジェームズ・アイヴォリーの秀作である。

1950年代、英国の名門ダーリントン卿の邸宅がアメリカの元下院議員(クリストファー・リーヴ)に買われる。屋敷にそのまま居残っていた執事スティーヴンズ(アンソニー・ホプキンズ)は、別居中の元女中頭ミス・ケントン(エマ・トンプスン)から手紙を貰い、再び働きたい意向を感じ取ると、彼女に会う為に車を西海岸の町まで走らせ、途上、卿(ジェームズ・フォックス)が健在だった30年代半ばに屋敷で起ったことを回想する。

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第2次大戦前夜、ドイツを守りたい立場の卿が各国代表を招聘して非公式の会議を開くのだが、その中で反ドイツを表明したアメリカ代表が後に屋敷を買い取る下院議員であるというのも一種の感慨を呼ぶ仕掛けとなっている。
 数日間に及ぶこの集会を首尾良く進める為に、執事は老齢の父親(ピーター・ヴォーン)を副執事に据え、しっかりしたミス・ケントンを女中頭に迎えるが、彼女とは時に対立するものの互いに憎からぬ感情を抱くようになる。

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本作の独自性は貴族ではなくて執事に焦点を当てたことで、とにかくプロフェッショナルに徹し本分をわきまえて本音を一切語らないことには感嘆させられる。
 これがまた私的には孤独を漂わすことになるわけで、ミス・ケントンが求婚されたことをスティーヴンズに打ち明け、彼がただ「おめでとう」と答える場面には思わず胸が詰まる。彼から期待した反応を得られなかった彼女の気持ちを察すると気の毒になるが、感情を押し殺す素振りすら見せない執事の孤独こそ真に悲しい。彼の秘めた恋愛感情が現れるのは通俗ロマンス小説を読んでいたことが突き止められる場面である。

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結局、執事が再会したミセス・ベンことミス・ケントンは孫が出来ることになったので再就職を諦めたと告げ、二人は旧交を温めただけで去っていく。

トニー・ピアース=ロバーツによる撮影も全く素晴らしいが、英国の貴族的品格のあるムードの中に執事とミス・ケントンの心情を見事に沈潜させたアイヴォリーの手腕は見事と言うしかない。

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映画をその高みへ持ち上げたのはアンソニー・ホプキンズの名演で、実績のある彼自身としても最高の演技ではあるまいか。エマ・トンプスンも誠に充実している。

原作者がカズオ・イシグロという日系人なのも何となく嬉しい。

“ミスター”と“様”がいかに違う概念か解るかも。

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この記事へのコメント

2009年09月21日 17:16
“神がおりてくる”という表現は
何やら今頃TVで流布されているのですか?
映画の神さまが存在するならば、まさに
満面の笑みで応えているかのような素晴らしい
作品でしたね~。(^ ^)
珠玉という言葉はこういう映画にこそ
使われるべきでしょう。

ぜんぶ観せればいいというものでも、
すべて語ればいいというものでもない・・・
ほどをわきまえることの“美しさ”を
この映画は教えてくれてますね。

原作の完成度もすごいけれど
映画は名優ふたりの名演があったらばこそ!
アイヴォリーのさじ加減も完璧!

DVDは所持していましたが
今回放映分、字幕が観やすいので
永久保存版にしました。

プロフェッサーなら、とっくに記事に
してらっしゃるかと思いましたが
今回、初登場なんですね?^^
TBさせていただきました。
オカピー
2009年09月22日 00:40
vivajijiさん、こんばんは。

>“神がおりてくる”
恐らく2ch当たりから流行り出したのでしょう。

>珠玉
正に!
言うことなしなのに十点を付けなかった理由は
自分でもよく解らないんですけど。^^;

>原作の完成度
これは一度読んでみたい。
後で図書館で探してみようっと。

>名優ふたり
素晴らしすぎます。
演技には余り触れない僕ですが、本作をそれを語らずに
映画評にはなりませんね。

>永久保存版
同じく。
この映画はブルーレイで保存するに値します。
早く欲しいなあ。

>初登場
ある一部の作品は数年に一度観るのですが、
大半の映画は15年くらい経たないと再鑑賞しないので、
こういう結果になったわけですよ。
2009年09月22日 10:01
オカピーさまへ

「日の名残り」は、映画でも観て、さらに小説も読みましたが、本当に素晴らしい作品でした。私は、ジェームズ・アイヴォリー監督の「モーリス」もこの作品にならぶくらい好きな映画です。


オカピー
2009年09月22日 22:01
樹衣子さん、こんばんは。

今回再鑑賞致して前回にもまして素晴らしく、小説も読んでみたい気になりました。

>「モーリス」
こちらも断然素晴らしいのですが、男性の同性愛を絵で見るのは少し苦手です。
こちらの原作はE・フォスターでしたか。
フォスターでは原作も映画も「インドへの道」がお気に入りです。
シュエット
2009年09月29日 11:41
「ローズランド」「モーリス」そして本作「日の名残り
録画してこれから鑑賞ですわ。
>今回再鑑賞致して前回にもまして素晴らしく、小説も読んでみたい気になりました。
このP様のコメントに鑑賞までドキドキだわ。
ハワード・ホークス特集に加え、こうした監督特集は嬉しいわ。
他局でルイス・ブニュエル特集、ムルナウ特集、加えてヒチコック特集、さらに
リリアーナ・カヴァーニ特集で「愛の嵐」とお美しかった頃のミッキー・ロークの「フランチェスカ」なんかも録画しているから、観るのと書くのが追いつかない! というわけで、一先ず顔出しだけで今回は失礼します。
観終わったらまたきますね!
オカピー
2009年10月01日 23:05
シュエットさん、こんばんは。

>小説
あれっ、映画は一度はご覧になっていらっしゃいますよね?
僕は年内に絶対読みますよ。
映画絡みでは、今「風と共に去りぬ」を非常にゆっくり読んでいます。

>ブニュエル特集、ムルナウ特集
ここまでマニアックさはさすがにWOWOWには求められない。TT

シュエットさんではないけれど、古い映画を再鑑賞するほうが有意義と思うことが多い今日この頃。^^;
十瑠
2014年01月31日 12:19
時々古い記事を読み返すことがあるんですが、この作品についてコメントいただいてなかったのでお寄りしましたら、TBもしてなかったですな。
まず傑作とどなたも書かれております、まさに名作。
終盤の切ない想いに涙することも。ラストシーンの鳥の飛翔のエピソードは脚本にはなかったそうで、しかし象徴的でイイシーンでしたよね。
オカピー
2014年01月31日 18:05
十瑠さん、連日TB&コメント有難うございます。

>コメント
毎日記事を書いておりますと、読んでもよそ様のところに足跡を残すのは難しいんですよね。申し訳ございません。

>傑作
傑作と名作は違うのですが、これは傑作であり名作でありますねえ。
今思うと☆☆☆☆☆の資格があると思います。

>終盤の切ない想い
良い涙が流せますね。
泣くために映画を観るなんてことはありませんが、結果的に泣くことはかなり多いです。

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