映画評「あの日の指輪を待つきみへ」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2007年イギリス=カナダ=アメリカ映画 監督リチャード・アッテンボロー
ネタバレあり

「大脱走」などで知られる名優でもあったリチャード・アッテンボローは戦争ミュージカル「素晴らしき戦争」で華々しく監督デビューして以来大作を任される一流監督になった。初期は大作が多かったものの、本来得意な情緒醸成を生かして90年代以降はクラシックな味わいの恋愛ドラマを連発、本作もその傾向の作品としてなかなか好調である。

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1991年ミシガン州ブラナガン、軍人だった老人チャックの葬儀が行われている。妻エセル・アン(シャーリー・マクレーン)は娘(ネーヴ・キャンベル)に挨拶を任せて、故人の戦友ジャック(クリストファー・プラマー)と坐っている。エセルには死んだ夫には愛情がなかったようである。
 一方、IRAが暗躍する北アイルランドのベルファストの丘で、老人クィンラン(ピート・ポスルスウェイト)と少年ジミー(マーティン・マッキャン)が半世紀前に墜落した米軍機の残骸を掘り起こし、指輪を発見する。

映画はこの二つがどう結びついていくかという興味を観客に覚えさせた上で、50年前にブラナガンとベルファストで起きたことを現在の彼らの動向と並列描写していく。
 単純な回想形式ではなく、一種の謎解きを構成する為に現在と過去を頻繁に往来するが、アッテンボローは電話を軸にしたマッチ・カットやそれに準ずる繋ぎを多用してスムーズに展開している。

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50年前のブラナガン、若きジャック(グレゴリー・スミス)とチャック(デーヴィッド・アルペイ)と航空学校の親友であるテディ(スティーヴン・アメル)が町一番の美人エセル(ミーシャ・バートン)と恋に落ち、出撃を前にして極秘に結婚、戦死した時に備えて自分と別の飛行機に乗る者にエセルを託すが、テディに負けない恋心を抱いていながらチャックにその権利を譲ったジャックは怪我を負った為にテディと同乗せず難を逃れる。彼にしてみればテディを殺したのは自分であるという後悔の念がある。

エセルがテディの死んで10年後にチャックと結婚したといった事実が判明した後、丘で活動中のIRAに追われ指輪を持って渡米したジミーに逢ったエセルはテディが墜落したベルファストに赴き、IRAのテロ攻撃に巻き込まれるが、自分の思いを遂に解放したジャックがその後を追いかける。
 わざわざアメリカに逃げたジミーがとんぼ帰りする(ように見える)のは些か疑問ではあるものの、ここまで気分良く観させて貰っていたので、余り突っ込まないことにしましょう。

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謎解きのような展開にしているのはエセルとジャックそしてクィンランの秘められた思いを小出しに効果的に紹介していく為で、クラシックなお話を新鮮に見せる工夫でもある。
 クィンランの名前があるのは意外かもしれないが、「約束」という本作全編を覆うテーマを締める大変重要な役を負っている。若き日クィンランは実はまだ生きていたテディから指輪をエセルに渡すように託されながら結局飛行機の爆発で実行できなかった苦い思いを抱いていたのだ。

という次第で、「約束は実行できてもできなくても、重いものだ」をテーマに、友情の為に、愛情の為に或いは責任の為に生まれた苦痛から自らを解放するのに50年もかかった老人たちの物語が爽やかな感動を呼ぶ。こんな友情などありゃしないと仰るリアリスト以外にお薦めしたい。

英語と米語の違いを聞くだけでも面白い。

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この記事へのコメント

シュエット
2009年06月05日 16:04
たしかWOWOWでは6月後半に放映予定。観なければって思っている作品。
劇場はスルーしたんだけど、本作を観にいった友人から良かったわって言われて、WOWOW放映ありが嬉しい。マクレーン、クリストファー・プラマーと役者陣も味がありそう。観て感動したら記事にすると思うので、その時はまた改めてTBしに着ますね。P様も8点か! 放映日が待ち遠しいわ。
オカピー
2009年06月06日 00:56
シュエットさん、こんばんは。

基本的にロマンティストですので、本作のような言わば“古風な”心情を綴る作品は好みですし、何より折り目正しい作風が、オールド・ファンの心を打ちます。
映画経験を問わず、リアリストには全く受けそうもない。シュエットさんがもしダメでしたら、リアリストの烙印を押してしまいますからね(笑)。
シュエット
2009年06月26日 21:27
観ましたよ!
>「約束は実行できてもできなくても、重いものだ」をテーマに
その約束が重いということは、その約束に誠実であろうとするからだと思うの。
約束の重さそに縛られ苦しむわけだけれど、それは彼らが誠実であったからだと思うの。物語がすすむにつれて、その重さが誠実さとか思いやりへとつながっていって、ラストで、ジャックが「エセル 君は泣いているんだよ。」っていう台詞では思わず涙が溢れてしまったわ。
観ていて人としての品位をとても感じたし、約束の重さをテーマに人としての品位を描いた作品だわって思った。作品それじたいにとても品位を感じた。
いつもは記事書くまでは録画作品は削除しないのだけれど、この作品は、なぜか一期一会みたいなものを感じて観終わった後、不思議なくらい潔く削除できたわ。きっとエセルやジャックたちの辛く苦しい人生だったけど、どっか彼らの潔さがうつったのかしら。
50年って長いように思うけど、短いのかもしれない。
ジャックたちの中には、戦争の痛みや記憶は風化していない。アイルランド紛争は内戦の火種はくすぶり続けている。
シュエット
2009年06月26日 21:28
もっと若いときに指輪が見つかったとしたら、彼らはHappyEndでその後の人生を遅れただろうか、どうだろうって考える。表面はHappyかもしれないけれど、心の中はどうだろうかって思う。この年齢になったからこそかもしれないなとも思う。
オカピー
2009年06月27日 01:20
シュエットさん、こんばんは。

>その約束が重いということは、その約束に誠実であろうとするから
そういうことですね。
その一方で、<誠実さ>を伴わない約束は約束たりえないとも言えると思います。日本人は軽く約束しすぎるのではないでしょうか?

>いつもは記事書くまでは録画作品は削除しない
録画した作品に関しては僕も同じですね。
ただ、多少出来の良い作品はなかなか消せない小心者なんです(笑)。

>50年って長いように思うけど、短いのかもしれない
短い短い!
高校を卒業して30年以上経ちますが、全然そんな感覚はありません。
それが50年になっても大して変わらんだろうと思いますね。

>もっと若いときに指輪が見つかったとしたら
人生の熟成期間になったということですね。
この年になって熟成しない僕って一体何でしょう?

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