映画評「百万円と苦虫女」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2008年日本映画 監督タナダユキ
ネタバレあり

タナダユキは注目の女性監督らしいが、本作を見る限り極めて有望と言うべし。

成り行きでルームシェアすることになった男性に拾った子猫を捨てられた腹いせに男の持ち物を全て捨て、拘置所に収容され20万円の罰金を払う羽目になった21歳の蒼井優が、その結果家に居づらくなり「百万円貯めたら出ていきます」と宣言してバイトに励んで実行、その後も百万円貯める毎に場所を転々と変え、海の家、桃狩りに駆り出される東北地方の寒村を経て、東京に程近い小都市に行き着き、切ない恋模様が展開する。

というロードムービー及びオムニバス風の青春ドラマで、色々な面で感心させられた。

まず序盤、ヒロインは短大は出たものの定職できないうちに犯罪とも言えない犯罪を起こし、お受験に懸命な小学校6年生の弟・齋藤隆成君に徹底的に詰(なじ)られる。実に嫌な弟だなあと思うのも束の間、少年がいじめられっ子であること、それに続けてかつての同級生に揄われる姉の場面を入れることで実は似た者姉弟であること、かつ少年が別の私立中学へ行きたがっている理由をすばやく解らせていく辺り惚れ惚れする展開ぶりである。

この二人が織りなす人生模様では、虐げられる者がちょっと反骨を示すと社会的制裁が待っている不条理に義憤すら感じ、本音では他人と付き合いたいのに処世術が不足している為に逃げ出さざるを得ない不器用な人々の生き方に激しく胸を締め付けられる。

その一方で、彼女が各地で出会う人々には純朴な人が多く、「器用だなあ」「可愛いなあ」などと素直に褒めてくれる。地元の限られた人間の言葉により自分の価値を必要以上に低く見積もらざるを得なかった彼女が行き着く先々で真の価値に気付かされ、次第に人間不信の度合を小さくしていく展開に、遂に逃げずに現実と対峙しようと決意した弟の手紙を重ね、彼女の未来がやがて明るく輝くことを暗示し、爽やかな後味を生んでいるのが大変有難い。

また、彼女はバイト先の大学生・森山未來とぎこちない恋模様の末に結ばれ苦い別れを経験する。この最後のエピソードにはいかにも通俗的な展開と理解されがちな心情と視線のすれ違いがあるのだが、見た目はそうであっても扱いは即実的で非常に厳しい。全てに焦点の合うパンフォーカスを余り使わずに優嬢と森山君だけがはっきり捉えられるように設計されたカメラワークも、二人の心情を反映して、適切である。

が、何と言っても本作は、世間一般の若い女性を代表はしないが十分に普遍性があるヒロインにリアリティを与えた蒼井優の好演に尽きる。脱帽しました。

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この記事へのコメント

2009年06月16日 22:31
蒼井優ちゃんが出ているけど、変なタイトルなんで記憶のリストに上げなかった作品です。
タナダユキという女性監督の名前と共に、インプットいたしやした。

「蒼井優の好演に尽きる」ですか。
オカピー
2009年06月17日 02:19
十瑠さん、こんばんは。

>変なタイトル
そうなんですよね。
どうにも変なので観るのを躊躇しましたが、蒼井優を見るだけでも損はないだろうと観ました。
これが予想外に良かった。

本文では指摘しなかった気に入らない点もちらほらありますが、優れた点の方が多かったので、思わず☆☆☆☆進呈です。
蒼井優・・・実に素晴らしい!
シュエット
2009年06月17日 09:09
おおっ!8点ですか。
これは予告編もなかなか良くって気にはなりつつも劇場公開では観にいってません。邦画はよほどコレッ!て気が起きないと劇場スクリーンで観ようという気にはならないもので。でもこれってたしか1年以内の作品だったと思うのですが、最近はこんな風にDVDもテレビ放映も早いこと。
蒼井優ちゃん絶賛ですね。お二人とも。彼女っていいですよね。透明感があるんだけれど、その中にアクとか凄みとかも感じさせて……独特の存在感のある女優ですよね。役に応じてどんな色にも変わるようにみえながら、実は頑として変わらない。
P様ご推薦作品(笑)として安心して鑑賞します。次回放映は7月7日みたい。
ご紹介ありがとうございました!
オカピー
2009年06月18日 01:53
シュエットさん、こんばんは。

>8点
期待せずに観た(ので思わず高採点)ということを多少考慮に入れる必要はあると思いますが。

>テレビ放映も早い
有料放送ですからね、完全ノーカットだけでは弱いです。
WOWOWは開局前から1年前後の放映を売りにしていました。たまに半年くらいのものもあって、得した気分。
DVDは半年くらいではないでしょうか?
映画製作会社も劇場公開だけでは食えないので、そうした二次利用を有効に使うのを前提に作っていますから、売るのも早いですね。
スピルバーグが「ET」を二次利用するのに10年以上もかけた時代がウソのよう。

>蒼井優
を見るだけでもお釣りが来ますよ、きっと。
良いアンプのように固有の色がないんですね、彼女は。
しかも演技の基礎がきちんと出来ている。
2009年07月02日 15:18
こんにちは。
タナダユキさんは、なかなかの才能の持ち主ですね。
蒼井優も久しぶりに、じっくりと見れた映画でした。
オカピー
2009年07月20日 17:27
kimion20002000さん、TB&コメント有難うございました。
入院に関しての励ましのコメントも有難うございました。

>タナダユキさん
僕も大した才能だと思いました。
有望な女性監督が数名出て来て、ミーハーを対象としない日本映画の未来は明るいかもしれませんね。

>蒼井優
本当の主役を演じることが意外と少ない彼女ですから、本作のような主役映画が増えるといいですね。

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