プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]

アクセスカウンタ

zoom RSS 映画評「乱」

<<   作成日時 : 2008/12/26 15:30   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 3 / コメント 2

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1985年日本映画 監督・黒澤明
ネタバレあり

黒澤明の第27作は、28年前の「蜘蛛巣城」でも取り上げたウィリアム・シェークスピアの四代悲劇から今度は「リア王」を翻案して作り上げた大型時代劇である。

画像

戦国の乱世、猛将として周囲に名を馳せた戦国大名の一文字秀虎(仲代達矢)が寄る年波の為に家督と一の城を長男・太郎(寺尾聰)に譲ることを宣言するが、体裁ばかりの太郎はいざ城を継ぐと正室楓の方(原田美枝子)にそそのかされて体良く追い払う。仕方なく次男・次郎(根津甚八)の二の城に身を寄せようとするが、同じ穴のむじなである。
 誠意の言葉を讒言と勘違いして追い出した三男・三郎(隆大介)が受け継ぐはずだった三の城に秀虎が身を寄せていると、太郎と次郎の連合軍が攻撃を加えてくる。次郎は混乱に紛れて太郎を暗殺、楓の方と結びついて繰り広げた悪逆非道の末に、三郎が婿入りした隣国・藤巻氏の軍勢に滅ぼされ、発狂して野を彷徨した末に死んだ父親を運ぶ三郎も何者かに撃たれて死んでしまう。

画像

価値観の乱れ狂った戦国時代を描写することにより人間の普遍的な弱さと愚かさを訴える内容は、男女の逆転はあるものの殆ど「リア王」そのままなので創意という点では物足りないが、秀虎が三人の息子に【三本の矢】の譬え話をする毛利元就のエピソードを加えたところに工夫がある。

画像

狂った世の中という意味で最も象徴的な人物は楓の方で、秀虎に一族を滅ぼされ太郎に嫁がされた恨みをあらゆる姦計をめぐらして一族にぶつけ、その為には同じ経緯を辿って次郎の正室になった末の方(宮崎美子)の首まで要求するのである。これほど時代の狂気に翻弄された人物もあるまい。その彼女が「いやじゃ、いやじゃ」と泣くふりをしながら蛾を殺す、外面如菩薩内心如夜叉を地で行く場面は正に強烈、本作の白眉と思う。
 また、日本にピーター扮する狂阿弥のような道化がいたとは思えないが、原作通りの狂言回しとして上手く機能している。「狂った今の世で気が狂うなら気は確かだ」といった彼の言葉の数々は箴言として記憶に残るものが多い。

画像

アカデミー賞を受賞したワダエミによる豪華絢爛な衣装は後々軍勢が入り乱れる時に効果を発揮する。長男が黄色、次男が赤、三男が青という区分を序盤のうちに明確に示し(一番上の画像参照)、カラー映画の特徴を生かしているからである。

また、前作「影武者」同様物凄い美術(村木与四郎)と人海戦術による合戦模様が圧巻。物量から言えば前作を上回り、城の炎上場面には圧倒されてしまう。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(3件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
黒澤明パート2
中〜後期の作品。  ...続きを見る
Akira's VOICE
2009/05/26 14:05
作品情報 タイトル:乱 制作:1985年・フランス/日本 監督:黒澤明 出演:仲代達矢、寺尾聰、根津甚八、隆大介、原田美枝子、宮崎美子、植木等、井川比佐志、ピーター あらすじ:過酷な戦国時代を生き抜いてきた猛将、一文字秀虎。70歳を迎え、家督を3人の息子に譲る決心をする。長男太郎は家督と一の城を、次郎は二の城を、三郎は三の城をそれぞれ守り協力し合うように命じ、自分は三つの城の客人となって余生を過ごしたいと告げた。しかし、秀虎を待っていたのは息子たちの反逆と骨肉の争いだった。やがて、秀虎はショック... ...続きを見る
★★むらの映画鑑賞メモ★★
2010/09/08 20:31
映画評「海辺のリア」
☆☆★(5点/10点満点中) 2017年日本映画 監督・小林政広 ネタバレあり ...続きを見る
プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
2018/07/27 08:43

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
オカピーさん、こんばんは。
わたし、この作品のラスト・シークエンスの「この世に神などあるものかあ」というピーターの絶叫に対して、「神も悲しんでおられるのだ」というやりとり。
ジ〜ンときましたよ。
黒澤作品が、本当に言葉を大切にしていることがわかります(言葉が多いという批判もありますが)。
そして、オカピーさんのおっしゃるとおりでしょうね。いつものとおり、まったくの納得批評です。特にワダエミの起用は大正解でしょうね。

>正室になった末の方(宮崎美子)
彼女の最期にも本当に嫌になりましたよ。あの弟どうやって生きていくんでしょうね?

では、また。
トム(Tom5k)
URL
2009/01/07 00:19
トムさん、こんばんは。

>ラスト・・・言葉を大切にしている・・・言葉が多いという批判
そうですね。
どちらも正しいと思います。
僕はあくまで黒澤ファンとして「黒澤明は言葉が多い」と思っている部類ですが、しかし、簡潔であれば映画は良いのかと言えば必ずしもそうではなくて、観客が解っていることを改めて言うことで作品のエネルギーを出す作品も、黒澤御大に限らず少なからずあるのも現実です。
だから、映画に完璧というものはない、という理屈にもなるわけです。

>ワダエミの起用は大正解
単に衣装として素晴らしいだけでなく、御大の意を汲んでいましたね。

>楓の方と末の方
この対照こそ戦国の狂気を象徴するものですね。
同病相憐れむべき相手にすら、共感を持つことができぬ楓の方。
マクベス夫人に通ずるところがあるものの、あちらは人間が原罪として持っている業でしたが、彼女の場合は戦国時代の狂気がも歪めたものでしょう。
どちらにしても怖いですね。
オカピー
2009/01/07 17:48

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
映画評「乱」 プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる