映画評「アポカリプト」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2006年アメリカ映画 監督メル・ギブスン
ネタバレあり

恐らく1963年の「太陽の帝王」以来マヤ文明を扱った二本目のアメリカ映画である。監督は強烈なリアリズム描写が特徴となりつつある俳優メル・ギブスンだが、まさに肉食人種でなければ作れないといった感想が最初に思い浮かぶ激しいアクション映画になっている。

16世紀、マヤの森林狩猟部族が王族の傭兵部隊に蹂躙され都心に連行される。女性は奴隷売買に付され、男性は雨を呼ぶ為の生贄に処されることになるものの、主人公ジャガー・ポー(ルディ・ヤングブラッド)の番になった時に皆既日食が起こって生贄行事は中止、残りの捕虜たちは人間狩りに駆り出される。
 青年は井戸に隠してきた妻子を救う為に体に深手を負いながら必死に逃走を開始、自分の庭であるジャングルに入るや否や逆襲に転じる。

という直線型のアクション映画で、天文学に長けていたはずのマヤ人が日食に動揺するなど史実に照らすと相当変な部分もあるが、マヤの王子がテキサスに流れ着くという全く空想的産物だった「太陽の帝王」に比べればそれなりにきちんとしている。マヤ人が意図的に野蛮人のように描かれてはいないかという疑問も呈されているが、多少大げさになっている程度であろう。少なくとも生贄は盛んに行われていたと聞くし、<文明>と言っても外形的にはあのような原始人に近いものであった可能性は低くない。

日食当日に満月というのも科学的にはおかしいが、これも大目に見たい。何と言っても直線型らしい見通しの良さと娯楽的要素に満ちているからで、序盤の侵略、中盤の移動及び生贄行事、そして後半の逃走劇といった具合に構成も大変解りやすくて結構。残虐味が強くて不快になる部分もあるが、夫々じっくり撮って見どころ満載で、特にコーネル・ワイルド監督・主演の佳作「裸のジャングル」を彷彿とする後半の馬力には圧倒される。主人公が「ランボー」にも似たサバイバル術で次々と追手を倒していくのがなかなか興味深い。

主人公は妙にタフすぎたりするものの、ただ一人の主人公が簡単に捕えられたり死んでしまったりしてはお話にならないので仕方があるまい。
 また、ギブスンの信心深さをよく知る人が多いせいか、幕切れが欧州文明万歳みたいに受け取られる傾向にあるが、僕は彼らスペイン人にマヤ一帯がやがて征服されその文明が事実上滅びたのを知っているので、寧ろ<皮肉>という印象を覚えた。主人公の無視は、少なくとも彼にとってスペイン人は王族とは別の侵略者に過ぎなかったことを意味しよう。観客も主人公に素直に感情移入すれば良い。

主人公の名前Jaguar Pawは英米での一般的発音を考えると、日本語での表記ではポーのほうが無難。

「裸のジャングル」「太陽に向って走れ」と並んでジャングル逃走劇三大傑作と認定します。

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この記事へのコメント

2008年09月01日 00:42
観る前から残酷だ残酷だと聞いていたので見るのを躊躇ったほどでしたが、そのせいかあまり残酷さは感じないですみました。 オリンピックみたいで楽しかったです。
オカピー
2008年09月01日 02:02
みのりさん、こんばんは。

>残酷
恐らく残酷そのものは手段であって、見せ場にしていないからでしょう。
最近のホラー映画では、行為だけではなくその後(例えば、切り離された胴体の輪切りになった状態)まで丹念に見せて、不快感を意図的に惹起する演出が取られているのが全く嫌ですね。
行為の残酷性とは次元が違って僕には抵抗があります。

>オリンピック
人間が生を求めて一生懸命に逃げる姿はゲームのそれとは明らかに違いますね。逃げる者と追う者の動機付けがしっかりしていました。追う者は自業自得の面もありますが。
シュエット
2008年09月01日 10:39
>肉食人種でなければ作れない
>ジャングル逃走劇三大傑作と認定
でしょうね。これは男性には好評だったのではないでしょうか。確かに逃走劇としては、残虐なシーンはあったけれど、それを見せ場にはしておらず(このあたりはギブソン評価します)手に汗握る活劇の面白さはありましたが、私としては先の「パッション」にとても手ごたえを感じたので、本作もマヤ文明の歴史を背景に…と勝手に考えて観たものですから、ひたすら主人公が走り続けるサバイバルを観続けて、これはこれで面白かったのですが、マヤ文明をどんな風に描いているかと期待したら、ひたすら走るシーンばかりを見続けさせられ、主人公がちょっとイケメンだったので良かったけれど、観終わった後は、どう観たらよかったのかしらと自問しました(笑)。最後のシーンには、こんな風に先住民たちが築いたものが文明国からの侵略によって滅ぼされていった、ギブソンのシニカルな視点が感じられ、このラストに、ギブソンの描こうとしたテーマがあったように思いました。
オカピー
2008年09月01日 22:46
シュエットさん、こんばんは。

>最後のシーン
僕もそう考えるのですが、何だか白人・宗教家に都合の良い幕切れという理解が結構まかり通っているようですよ。
なら、何故主人公は細君の言葉に逆らって森の中に入って行ったのか、説明がつかない気がしますね。モンタージュの理解不足という気がするのですが。

それはともかく、勉強したり考える映画は色々あるので、逃走劇で良いと思うわけです。

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