映画評「ゾディアック」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2007年アメリカ映画 監督デーヴィッド・フィンチャー
ネタバレあり

この映画が作られる前から劇場型犯罪者ゾディアック(黄道帯、十二宮)・キラーが「ダーティハリー」の犯人のモデルになったことは知っていた。連続殺人犯と目されるそのゾディアック・キラーを追い続けた元新聞漫画家ロバート・グレイスミスのノンフィクションを「セブン」で一躍注目監督になったデーヴィッド・フィンチャーが映像化した作品。
 と来れば、ある程度年季の入った映画ファンならわくわくせずにはいられないであろう。こういう書き方になったのは、僕自身は事前に監督名を知らなかったからである。

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カリフォルニア、1969年7月に車上のカップルが狙撃される事件が発生、直後に犯人から通報があり、一ヶ月後に暗号文を含んだ犯行声明が届く。この時犯人はゾディアックと名乗る。その暗号に強い興味を示したのはサンフランシスコ・クロニクル紙の記者エイブリー(ロバート・ダウニー・Jr)と漫画担当グレイスミス(ジェイク・ギレンホール)。二ヶ月後再びカップルが、半月後さらにタクシー運転手が殺され、やはり犯行声明が届く。
 この後模倣犯やガセネタに振り回されながら刑事トースキー(マーク・ラファロ)とアームストロング(アンソニー・エドワーズ)が、ある人物からの情報に基づき「スクールバスを襲う」と話していたアーサー・リー・アレン(ジョン・キャロル・リンチ)に接近、限りなく犯人に近いと認識するも、筆跡や指紋の鑑定ではねられてしまう。
 やがて犯人からの声明は途絶え、その間にエイブリーは退社して酒に溺れ、刑事も無力感に苛まれ、唯一グレイスミスが家庭を顧みず地道に調査を続ける。

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フィンチャーの出世作「セブン」も華美な部分を除けば意外とドキュメンタリー・タッチであったが、こちらは文字通り実録ものとして誠にがっちり作っている。大げさに言えば、オールド・ファンとしては70年代の犯罪映画の感覚が蘇ったようで嬉しさの余り涙が出そうになったくらいである。
 ゾディアック自身が模倣犯であると揶揄されるきっかけとなる誘拐未遂事件を巡る一連の描写など解りにくい箇所が2、3あるのはマイナスだが、その代わり、グレイスミスが匿名電話により近づいた元映写技師の家で経験する恐怖は誠に強烈。
 その後犯人の眼を観るまで調査を続けると宣言した漫画家はアレンが店主をするドラッグストアを覗き、その眼をじっと見る。この最終幕のタッチもさりげなくてなかなか良い。
 「ダーティハリー」がゾディアック事件捜査の緊張に満ちた最中に作られたことが判るのも収穫と言うべし。

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結局一番怪しいアレンも死んで事件は完全に迷宮入りになってしまうのだが、ここで日本とアメリカとの決定的な違いが出る。最後の事件発生から既に四十年近い月日が流れても、殺人に時効のないアメリカではまだこの事件はクローズせず、将来突然解決する可能性もあるわけである。実録ものとしてじっくり作っているだけにそういう感想が自ずと生まれてくる。

玄人受けする配役の演技陣では、ジェイク・グレンホール、マーク・ラファロが好演。

日本も殺人事件への時効適用は考え直した方が良い。刑事の皆様はうんざりでしょうが。

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この記事へのコメント

2008年08月01日 19:30
>70年代の犯罪映画の感覚が蘇ったようで
>嬉しさの余り涙が出そうになったくらい

プロフェッサーのその感覚、
たいへん、わかりますよ~^^
D・フィンチャー監督、その描写に
こだわっているな~って思えるところ
多々ありましたもの~。

「セブン」があまりにも強烈でしたからね
やはり今回の題材の希薄さに肩透かしを
受けた彼のファンもいたでしょうね~。^^

さて今週末の私はジッパリ家にこもって
録り溜まっている映画を観なくちゃ!^^

明日の美麗画像、
今月は十瑠さんに先を越されないように
腕まくりしてUP待ってますからね~(笑)

あ、そうです
十瑠さんチで「夏にお薦めの映画」企画
開催してますわよ~

本作UPしました
私んチの「納涼企画○○映画」の
お話も読んでくださいね。
プロフェッサーも、ぜひ、参加してね♪
viva jiji
2008年08月01日 19:34
訂正です。

最後の、
プロフェッサーもぜひ参加してね♪は
十瑠さんチの企画への投票の
ことですのよ。^^
2008年08月01日 22:40
この映画は公開してすぐ映画館で観ました。
「ジャッカルの日」あたりを思い出させるような作りの作品で、かなりストライクでした。

猟奇的事件を題材に持ってくる映画は、やたらと「衝撃の結末」だとか、つまらない刺激重視に走る傾向がよく見られ、脱力することが多いのですが、この作品は事件そのものよりも事件周辺の「人間ドラマ」に焦点を当てていて、地味ながら見応え十分で、わたし的にも8点です!

韓国映画「殺人の追憶」を引き合いに出して、本作と比較していた人もネットレビューでは多く見られたようですが、個人的に「ゾディアック」の方が好きなタッチでした。
2008年08月01日 23:09
タイトルは知ってましたが、フィンチャーでしたか。事件が未解決というのも、映画としてはどう納めてるんだろうと気になっておりました。

<70年代の犯罪映画の感覚が蘇ったよう>というのは、そそられますね。
リストアップ、決定!!

viva jijiさんのご紹介もありましたが(姐さん、ありがと)、暇が無くても来てねーっ^^
オカピー
2008年08月02日 01:58
viva jijiさん、こんばんは!

>「セブン」があまりにも強烈でしたからね
刺激を追うといずれは限界にたどり着きますから、特に若い方は、映画の本質を見るように訓練・努力されると良いですよね。
本作は、あの元映写技師の場面以外は、華美さを全く追わずに地道な実録に徹しました。これは自信がないとできないことで、フィンチャー氏を見直しましたよ。^^)v

>明日の美麗画像
ヨロシクです。<(_ _)>

>納涼企画
>お話も読んでくださいね。
もつろん♪
コメントを寄せませんが、きちんと読んでいますからね。^^

>十瑠さん
>プロフェッサーも、ぜひ、参加してね♪
こちらも勿論。今日は多忙だから明日以降必ず♪
オカピー
2008年08月02日 02:11
RAYさん、こんばんは!

>「ジャッカルの日」
所謂実録タイプなんですなあ♪
当時はこのタイプが結構多くて、手に汗握って観たものです。

>地味ながら見応え十分
その通りですね。
viva jijiさんにもコメントバックしましたが、刺激には限界があり、観客も突然醒めますからね。こういう地道な作品のほうが後世に残る可能性が高いです。

>殺人の追憶
確かにどちらも実際の未解決の事件をモチーフにしていますが、こちらは解っている範囲のことは実話であり(被害者の写真も本物です)、「殺人」は完全なフィクションだと僕は思っています。
「殺人」も僕はお気に入りですが、それほど実録風ではなかったので、単純には比較できない気がするなあ。
オカピー
2008年08月02日 02:20
十瑠さん、こんばんは!

>映画としてはどう納めてるんだろう
起承転結のある物語として観ると空振りするかもですね。
でも本作の主題は犯人を捕まえることではなく・・・おっとこれ以上言うとまずいかな。

>リストアップ決定!
外れた時にも優しくしてくださいませ。<(_ _)>
人に勧めるにはちょっと地味な感じがあるんですが、そこがまた僕好み。

>「夏にお薦めの映画」企画
明日以降と書きましたが、目が覚めた後という意味ですから、今日中に伺えると思います♪
シュエット
2008年08月03日 09:39
P様TBありがとうございました。
>ここで日本とアメリカとの決定的な違いが出る。最後の事件発生から既に四十年近い月日が流れても、殺人に時効のないアメリカではまだこの事件はクローズせず、将来突然解決する可能性もあるわけである
P様のこの指摘がキーポイントかもしれませんね。
やはり観るほうは私としては、この事件に対する今時点のなんらかの結論めいたものを無意識に映画作品として期待してしまってるのカも知れませんね。
そして、きっとこの事件に対するアメリカ人と日本人とでも受け止め方も違うでしょうね。
8月でWOWOWで帝銀事件など衝撃の昭和史と銘打った作品がいくつか放映されますね。こういう事件では関係者たちを描いた影像だけでも興味津々で観るわけですからね。
もう一度観てみよう♪
オカピー
2008年08月04日 01:25
シュエットさん、こんばんは!

viva jijiさんのところでも書いたのですが、インパクトの大きさで【三億円事件】に相当する事件だったような気がするんですね。
もっと猟奇的な事件はその他色々あるでしょうが、恐らく犯人が自覚した最初の劇場型犯罪としてアメリカ人の心に刻み込まれているのでしょう。
【三億円事件】については時効がとうに過ぎて映画にする価値はなくても、未だに真相を知りたいと思っている人は多いと思いますね。

「帝銀事件 死刑囚」も確か新聞記者が主人公ですから、この「ゾディアック」の立場と似ているかもしれないです。

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