映画評「美しい人」

☆☆★(5点/10点満点中)
2005年アメリカ映画 監督ロドリゴ・ガルシア
ネタバレあり

全5話から成っていた「彼女を見ればわかること」のロドリゴ・ガルシアが再びものしたオムニバス映画。全9話。

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一月に一度しか会えない娘との逢瀬なのに電話が故障していることに怒り狂う女囚エルピディア・カリーリョ、昔の恋人に再会して動揺する妊婦ロビン・ライト・ペン、久しぶりに家に戻り確執のある父と再会するリサ・ゲイ・ハミルトン、友人夫婦の会食で夫との人生観の差に気付くホリー・ハンター、直接会話をしない障害者の父と母シシー・スペイシクの間を往復し家庭崩壊の堤防になっている少女アマンダ・セイフィールド、聾の元夫の妻の葬式に訪れその求めに応じるエイミー・ブレネマン、娘アマンダの担任教師と不倫をしようとした時に家族の愛に気付く母シシーはエルピディアの逮捕の瞬間を目にする。乳癌の手術前に動揺を顕わにするキャシー・ベイカー、その面倒を見る看護婦が先程のリサだ。娘ダコタ・ファニング(と)の墓参に楽しみを見出しつつ孤独を感じるグレン・クロース。

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実際の人生は映画のように明確に始まり、鮮やかに終わるわけではなく、大抵の人間が現状の閉塞感に苦しんだり、愛憎の狭間で身悶えし、十年一日の如き人生を送っている。ガルシアが前作以上にそうした人生の真実に焦点を当てて観照した大変現実味のある、正に短編小説集の如き趣きの作品である。

その狙いを最大限実現しようと用いられたのが全ての挿話をワンシーン(本作の場合挿話全体)・ワンカットで撮るというアイデアであろうが、ワンシーン・ワンカットは両刃の剣であり、本作でもプラス面とマイナス面がはっきり出ている。
 確かにリアルタイムで進行する為にリアリティが生まれると同時に、神の視線になって狙い通り観照性が増している。その一方で、カットにより生まれる切れや躍動感、即ち生き生きとした映画的魅力を欠くという弱点を伴い、特にカメラを大きく振る必要がある場合は煩わしい。

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本作のもう一つの問題点はやはり挿話平均13分という短さの為に面白くなる前に終わってしまうことで、オムニバス映画はせいぜい5話くらいが限界というような気がする。小説と映画の違いだろう。

挿話の中で一番のお気に入りは母と父の間を行き来する姿に微苦笑してしまうアマンダの巻で、父親に【家族の宝】と崇められる彼女の複雑な表情が印象深い。

シャーウッド・アンダースンの連作短編集「ワインズバーグ、オハイオ」を思い出しました。さすがガルシア・マルケスの御子息というところですかな。

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この記事へのコメント

十瑠
2008年06月06日 15:47
「ワインズバーグ、オハイオ」は大昔に読んだ本で、ずっと実家の本棚に入っていましたが、知らない間に廃棄されていました(黄ばんじゃって読めない状態でしょうけど)。中身は忘れましたが、好きだった印象は残っています。又読みたいっ!
すいません。映画より、ソチラに反応してしまいました。

>面白くなる前に終わってしまうこと

なんとなく、分かります。
30分テレビで9週に分けて作ればよかったのに、って感じですかな?
2008年06月06日 15:55
>面白くなる前に終わってしまうことで

まさに観照性そのもので終始させた
ある意味、不親切で中途半端な映画ですわね。
でも、私は、ごめんなさい、好みでした~。^^;

>平均13分という短さ

「パリ・ジュテーム」は
たしか“5分”でしたわよ~(笑)
プロフェッサーはまだ
ご覧になってなかったかしら?

うふふ~・・・
プロフェッサーの感想が楽しみですこと~(笑)
シュエット
2008年06月06日 22:57
劇場で見ただけですが、みていて彼らの高ぶった感情、そこまで高ぶるのか、私と彼らとの間に感情のずれを感じてしまって、彼女達の苦悩がいま頭で考えれば分かるのですが、胸に響いてこなかったというのが正直なところでした。時間だけではないと思うんですけど…。先日みたカンヌ映画祭60周年記念企画で映画館をテーマにした「それぞれのシネマ」は3分。伝わるものがありました。再見したら、また印象は変わるかも知れませんが…。私の場合、テレビ画面でみると迫力に欠けるけれど、作品によっては映像からの感情が抑えられて、かえって作品がきちんと見れる場合もあるんで…(苦笑)。
オカピー
2008年06月07日 01:09
十瑠さん、こんばんは!

>「ワインズバーグ、オハイオ」
昔は新潮文庫のラインアップにあったくらいで定評ある名作ですが、読んだことのある人は少ないと思っていましたら、お読みでしたか?
十瑠さんもやはり文学少年でしたか。
ヘミングウェイに影響を与えた作品ですよね。

>30分テレビで9週
30分でも2話できますです。
それ以上にワンカットで一挿話ですから、TV的と言えるような言えないような。これは観ていない人に説明するのは難しい(笑)。
オカピー
2008年06月07日 01:19
viva jijiさん、こんばんは!

夫々の人生の10分余りを切り取ったという形の作品でしたね。

>でも、私は、ごめんなさい、好みでした~。^^;
嫌いじゃないんですけど、映画的な魅力と言ったら曖昧すぎますが、映画でなければ感じられない魅力という点で僕には物足りなかったんです。

>「パリ・ジュテーム」
未見ですばい。
5分かあ。
中途半端に物語を紡ぎ出そうとしないから、
それはそれで一つの叙事詩なり叙情詩になっているかもしれないなあ。
楽しみですじゃ。^^
オカピー
2008年06月07日 01:29
シュエットさん、こんばんは!

>時間だけではないと思うんですけど…
突っ込まれてしまいましたね(笑)。
いや、一応問題点を二つに分けましたが、僕としてはワンシーン(一挿話)ワンカットを前提に展開したつもりなんです。
ちょっと書き切れなかったかな。
結局この映画は観照に徹し、人物の感情には入って行きません。その辺りが原因なのでは?

>テレビ画面でみると迫力に欠けるけれど
僕もそうですよ。最近TVばかりですが(笑)。
人の頭が気にならないのも良い(爆)。
シュエット
2009年01月27日 19:07
今ごろTBもってまいりました。
先日、NHK・BSで放映していて、劇場公開時から2度目の鑑賞となります。
ちょっと私の見る視線が変わったようです。
人ってワンシーン・ワンカットの積み重ねで生きてるんではないかしらって、そう思ってみると、彼女達の断片の人生が、それぞれに愛しさを覚えました。
人を見るときもワンシーン、ワンカットでその人を捉えて評価しているところもある。そういうところにも触れたところも、ちらちらと挿入している。
ヒステリックになっている患者を前に穏やかに対応している看護婦のホリーだけみていると、実家での自暴自棄的な彼女のそんな面があるなんて思えない。
そんなことも散りばめられているのが見えてきました。
ワンシーン、そこで起きたところから次に進んでいくんですよね、それが積み重なって人生となっていく。そんな目でみていくと最後のマギーのシーンは感動でした。
シュエット
2009年01月27日 19:08
続き。
こうやっていがみ合い、憎まれたり、ある断片で見せた優しさは、別の断片で憎まれる。でも結局は自分の人生は自分で生きていかなければ…そんな当たり前のことだけれど、それが静かに語られ、そして最後のマギーにつながっていく。決して観照に徹した作品とも思えなかったなぁ…というのが今回の感想でした。
オカピー
2009年01月28日 03:19
シュエットさん、こんばんは。

>決して観照に徹した作品とも思えなかったなぁ…
また、そういうことを仰る。(笑)

高校の時に母親の行った事実のみを作文に書いて母親への感謝を表現したことがあります。
観照を実行した作文ですが、その一方で読者に行間を読ませるレトリックを駆使しているのです。
観照に徹した作品であっても、創意工夫はあります。そうしなければ読者若しくは鑑賞者を感動させることはできません。

本作の場合一話一話はワンエピソード・ワンカット故に必然的に観照に徹したものであり(何故ならモンタージュ効果は複数のショットがなければ不可能)、9話を揃えたところでレトリックが完結し初めて行間が読める構成になっていると思います。
オカピー
2009年01月28日 03:22
続きますぞー。(笑)

最後だけは全く異質です。ワンエピソード・ワンカットで撮っていますが、実はダコタ・ファニングという幽霊が出てくる幻想編であるので、10分が10分ではなく恐らく20年くらいの時間の重みが出て来る。10歳の少女の母親が60歳くらいのグレン・クロースでは変ですから。

ここだけは全く観照性からは外れていると言えますが、それまでの8話を総括し重しとなす為に作者としては置く必要性を感じたのでしょう。
その点において、シュエットさんの言は正しいことになります。

いずれにせよ、文学的には面白いと思いますが、映画の映画たる本質であるカット割りを否定したような作風に些か抵抗があったなあ。

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