映画評「地下鉄(メトロ)に乗って」

☆☆★(5点/10点満点中)
2006年日本映画 監督・篠原哲雄
ネタバレあり

【鉄道員】を<ぽっぽや>と読ませた浅田次郎の出世作の映画化で、同様に【地下鉄】を「望郷」よろしく<メトロ>と読ませる。

地上波民放における放映は基本的にCMで中断され、通常大幅にカットされるので余り観たくない。上映時間121分の本作も30分くらいのカットはあるはずで、CMによる中断を併せればとても評価できる状態ではないが、とりあえず印象を記そう。採点は勿論暫定であります。

舞台は1992年(主人公は現在43歳という設定。東京オリンピックの時に15歳、従って1949年生まれということになる)の東京、兄を事故死に追い込んだ父親・大沢たかおと不和になって親子の縁を解消し衣料品店のセールスマンをしている堤真一が、1964年に死んだ兄の命日に地下鉄通路を彷徨ううちに、兄の死ぬ3時間ほど前にタイムスリップしてしまう。以降、戦中、終戦直後に迷い込み、闇商売から大会社社長に上りつめた父親の真実の姿が判って来る。

例えば、ワンマンな父親が長男を死に追い込んだ直接の諍いは京大に進みたい本人と東大以外を認めない彼との意見の相違であるが、実は長男は母親(老後=吉行和子)が戦死した東大生との間に儲けた子であり、自分の子のように可愛がりその為に東大に拘っていた、という事実。新兵として出征する若き父親の素直な心情、満州での献身的な活動・・・決して自己中心的な人物などではなかったのだ。

時空の彼方で息子が父親と和解する物語、それだけでも十分お話になるが、どこか物足りないと思ったのか、父親譲りの多情さで堤君が通っている愛人をお話に絡めてくる。即ち会社の事務をしている岡本綾で、何故か彼女も別のルートで過去へタイムスリップしている。
 実は終戦直後の闇商売時代から父親の情人をしていた常盤貴子の娘だから、堤君とは異母兄妹に当たる。彼女は昭和39年の世界において自分を孕んでいた母親を抱えたままわざと石段から転げ落ちる。他の理由もあるが、近親相姦の恋愛を避ける為である。しかも指輪を堤君に残し存在した事実を示して。
 ここは大いなる愁嘆場であるわけだが、案外この場面の存在意義について解っていない人が多いようだ。

誕生していない本人が生まれる前の本人を殺すのは明白なタイム・パラドックスで、ここはやはりパラレル・ワールドの概念を持ち込まないと解釈しようがない。
 しかし、映画版で判断する限り、堤君が地下鉄で再会する中学時代の恩師が幻への案内人のように登場してくるのを見ても、浅田次郎としては恐らくSF的な整合性には大して拘泥せず、寧ろ、父親の臨終での強い想いが息子を呼び寄せる一種の幻想譚のつもりで書いているはずである。

製作された2006年のお話と思っている人が多いのは、序盤に携帯電話の出てくる時代考証のミス(日本の携帯電話が実質的に始まるのは1994年、本格的普及にはさらに数年を要する)が主因だが、その混乱を避ける為に1964年と特定せしめた【東京オリンピック】のようなシンボル的アイテムを示す必要があった。

監督は「深呼吸の必要」の篠原哲雄。

カット版でもお話は何とか解りました。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

面白い

この記事へのコメント

2008年06月10日 20:58
2006年当時、この作品ぐらいから邦画で見ごたえがあると感じる映画が続けて公開された記憶があります。それまではあまり邦画を観る意欲が低かったのですが、コップ一杯も涙を流されたのにオカピーさんはたしか6点だった(笑)「手紙」も私は結構気にいってましたし、「フラガール」も良かったですし、このころから邦画を見直し始めていました~
やはりなんの脈絡もなく電車がゴーっと走り出してタイムスリップという突拍子もない発想があだになっている作品ではありますね(笑)

>何故か彼女も別のルートで過去へタイムスリップしている。

ここは誰しも絶対気にならずにはいられない整合性のない部分でもありますね(笑)
2008年06月10日 23:01
TBありがとう。
構成のへたくそな監督ではありますねぇ(笑)。つまんない誤解の部分で、不評を買っているのも駄目なところです。田中眠さんなんかも、せっかく出しているのに・・・。
でもそんなことをぜーんぶ差し引いて、この映画のキャッチフレーズとすなわちテーマになるんですけど、そこには、ぐぐっと惹かれるんです。
オカピー
2008年06月11日 02:06
rikocchinさん、こんばんは!

まあ僕にとっては6点はそう悪い点ではないんです。
ただ、映画的な欠点がまま目立つという印象は避けられないという程度の評価ですかね。

>なんの脈絡もなく電車がゴーっと
CMの入るTVでは余計にピンと来なかったのですが、思うにこれはタイムスリップの象徴なのでしょう。

>ここは誰しも絶対気にならずにはいられない整合性のない部分
SF的に言うと、そうですよね。
結局浅田氏はSF作家ではないですから、やはり父親が次男同様に彼女も呼び寄せているんでしょう。次男ほど必然的な理由は見当たりませんが。
そこが女性陣に<男に都合が良い>と言われる理由ですかな(笑)。
オカピー
2008年06月11日 02:18
kimion20002000さん、こんばんは!

>誤解
そうですね、設定等はもっとはっきりしないと。

それから、色々なコメントを読んでも、「常盤貴子が出て来る理由がない」といった的外れに遭遇しました。
彼女の存在も主題であることくらい観客も解らねば困りますが、作者の方に責任がないとも言い切れない話術なのだろうと思わせる節もありますよね。

僕も親に対しては色々な思いがあるから、本文では書かなかったですが、ぐっと来るところはありましたよ。
2008年06月11日 23:28
こんばんは♪
浅田次郎の小説はよく映画化されますが、どれも満足したためしがないです(といっても、鉄道員は未見ですけど・・・)
唯一良かったのは「壬生義士伝」かしら。
あれは原作のファンなので映画も楽しめたというだけのことかも(汗)
オカピー
2008年06月12日 02:49
ミチさん、こんばんは!

>浅田次郎
韓国でも取り上げられていますよね。
本作などと比べると、「鉄道員(ぽっぽや)」はうまかったな。

>「壬生義士伝」
作りに甘いところは散見しましたが、僕も高く評価しました。

この記事へのトラックバック

  • ■ 地下鉄(メトロ)に乗って (2006)

    Excerpt: 監督 : 篠原哲雄出演 : 堤真一/ 岡本綾/ 常盤貴子/ 大沢たかお原作 : 浅田次郎公式HP:http://www.metro-movie.jp/ 「 地下鉄は良いね、思うままにどこへでも行けるか.. Weblog: MoonDreamWorks racked: 2008-06-10 20:10
  • mini review 07219「地下鉄(メトロ)に乗って」★★★★★☆☆☆☆☆

    Excerpt: 父親が倒れたという知らせを受けた日、長谷部真次は、いつものようにスーツケースを転がしながら地下鉄で移動していた。突然現れた亡き兄が姿を現し、兄の背中を追って地下通路を抜けると、そこは昭和39年の東京だ.. Weblog: サーカスな日々 racked: 2008-06-10 22:56
  • 『地下鉄(メトロ)に乗って』

    Excerpt: ----これって浅田次郎の小説の映画化なんでしょ? 「うん。でもぼくなんかは『地下鉄に乗って』というと、 すぐ70年代のフォークグループを思い出すんだけどね」 ----なんていうグループなの? 「『猫.. Weblog: ラムの大通り racked: 2008-06-10 23:16
  • 地下鉄(メトロ)に乗って

    Excerpt: 「社長!黒のスリップ、入荷しました!」「そうか、よくやった!それじゃ商品名はタイム・スリップにしよう」 Weblog: ネタバレ映画館 racked: 2008-06-11 00:01
  • 地下鉄に乗って

    Excerpt: 自分の思っていた雰囲気とは、少し違っていました。 タイムスリップものです、これ。 ある日、主人公の長谷部真次(堤真一)が地下鉄を降りたら、そこは東京オリンピックの開催に沸く昭和39年の.. Weblog: UkiUkiれいんぼーデイ racked: 2008-06-11 15:00
  • 地下鉄(メトロ)にのって

    Excerpt: 地下鉄も縦横無尽で、目的地に向かっていろんな経由が選択できる。便利なのはいいけど世界中でも一番わかりにくい東京の地下鉄路線図なのかな。 過去に戻りっきりで帰って来れないとか過去を変えてしまうとかそん.. Weblog: シャーロットの涙 racked: 2008-06-11 17:34
  • 映画 【地下鉄(メトロ)に乗って】

    Excerpt: 映画館にて「地下鉄(メトロ)に乗って」 浅田次郎の同名の小説を映画化。 衣料品の営業マンの長谷部真次(堤真一)は地下鉄の駅で父(大沢たかお)が倒れたという伝言を聞く。暴君の父と口論して家を飛び出し.. Weblog: ミチの雑記帳 racked: 2008-06-11 23:26
  • 地下鉄(メトロ)に乗って(映画館)

    Excerpt: いつもの地下鉄を降りると、そこは昭和39年の東京だった―――。 Weblog: ひるめし。 racked: 2008-06-12 10:24