映画評「デイズ・オブ・グローリー」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2006年アルジェリア=フランス映画 監督ラシッド・ブーシャル
ネタバレあり

善き人のためのソナタ」が栄冠を得た2006年度外国語映画賞にノミネートされたアルジェリアと旧宗主国フランスとの合作映画。力作だが、日本では劇場未公開とは残念。

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第2次大戦中フランスはモロッコ、アルジェリア、セネガルといったアフリカ各地の植民地から兵隊を募り、ここに一つの部隊(第7歩兵連隊の一部)が成立する。アルジェリアから応じたサイード(ジャメル・デブーズ)はモロッコ出身のマルティネス伍長(ベルナール・ブランカン)の腰巾着になって出世や名誉を得ようとする。アブデルカデル(サミー・ブーアジラ)は兵長だが初めての実戦で右往左往した後に次第にそれらしくなっていく。その他フランス娘と恋に落ちるメスード(ロシュディ・ゼム)やヤシール(サミー・ナセリ)といった兵卒がいる。
 伍長を指揮官とするこの部隊がイタリアの西部山地に始まり、山地を越えて初めて見る“祖国”のプロヴァンスから北上、ドイツ軍から解放する為にアルザスを目指して転戦する。

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この作品の主題は、食事の時にアラビア人兵士が「トマトは公平に分けられなくても、公平に銃弾にさらされる」といみじくも言う言葉そのもので、極めて明確。食事だけではなく、休暇や出世の機会も明らかに不平等で、メスードが恋に落ちたフランス娘に出す手紙は検閲で封じ込められてしまう。つまり、これは反戦映画ではなく、戦争という一致団結するべき場所においても有色人種は差別され続けている、という告発ものである。

僕は不平等の中でも検閲の差別に心が痛んだ。恋、それも故郷を離れ苛酷な戦場での日々が続く兵士の数少ない愉しみを奪うとは、残酷極まりないではないか。尤も戦中の日本ではその類の手紙は「軟弱だ」と即座に“処理”されてしまったのであるが。
 実は植民地部隊内、同じイスラム教徒の中でも、サイードらがアラビア人、伍長はベルベル人で民族間のわだかまりが顕在化する場面もある。この辺りもフランスが広大な植民地を持っていたが故の複雑な様相があって大変興味深い。
 差別は戦後も付きまとう。即ち、恩給問題である。同様に日本軍にもいた台湾や朝鮮半島出身の兵隊への戦後補償は必ずしも十分とは思われないので決して対岸の火事とは言えず、劇場公開されなかったのは日本人の意識の浅さと言うべきか。

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戦闘場面は意外と少ないが、僕は移動部隊の実際の感覚に近いのではないかと想像する。その少ない戦闘場面が断然優秀。VFXは全く、SFXも殆ど使っていないようで、「迫力がない」というコメントが目立つもののとんでもない。ワイアーによる鼻白むアクションやショットを切り刻むまやかし、スローモーションでの誤魔化しよりずっと緊迫感が高く映画的魅力に富む。困ったことに、CG時代になってこういった【本当の本物】が解らない人が増えてきた。

監督はラシッド・ブシャールと映画サイト等で表記されているが、疑問あり。綴りがRachid Boucharebだからアラブ系と想像され、そうならラシッド・ブーシャレブと表記するのが正しいように思う。

「栄光の日々」とはこれまた皮肉なタイトル(英題、邦題)ですな。

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この記事へのコメント

2008年05月27日 23:30
TBどうもありがとうございました。
ほんとにこれは差別の告発でもありましたよね。
オカピーさんの記事にも書いてらっしゃいますが、あの手紙の
検閲は、本当に許せませんでした。悲しすぎる・・。
こういう状況でフランスは戦ってたんだ、そしていまだに彼らに
ちゃんとした保証がなされてないんだ、ってことを恥ずかしながら
この映画を見て初めて知りました。きっとそういう人も多いでしょうから
是非たくさんの人に見てもらいたいなぁ、とも思った映画でした。
オカピー
2008年05月28日 01:05
メルさん、初めまして!
そしてコメント有難うございます。

>恥ずかしながら
フランスに関しては僕も全く知りませんでした。
実は、本作に出演したアラブ系の俳優たちにも知らない人が多いそうですよ。

日本もフランスと同じように、統治する国からも兵隊を募ったわけで、恐らく差別もあったでしょう。
英独伊といった宗主国はどうだったのかも知りたいです。

本当に正式に公開してほしかったですね。
シュエット
2009年06月02日 09:23
この映画、ノミネートされたカンヌではケン・ローチの「麦の穂をゆらす風」がパルム・ドールを。アカデミー外国語映画賞では「善き人のためのソナタ」がオスカーを。この年の映画祭は、戦争の歴史の中で埋もれていたものを描いた作品が多い年だったようですね。本作などはフランスだけのことではなく、日本でも台湾の高砂義勇隊とか韓国・朝鮮から徴用した兵士たちとも繋がるし、彼等の補償問題なども置き去りにされている。他の国々も同じでしょうね。
アルザスでの戦闘シーンなどもハリウッド映画のようにドラマテッィクな表現ではないけれど、戦闘シーンみて涙が出てきました。戦争映画を観ながら泣いたのは本作は初めて。大阪でもヨーロッパ映画祭で上映されただけ。これは平日が主なので観れないんですよね。受賞した2作品に埋もれてしまった感ありが残念。
この作品のテーマこそ、戦後日本が真摯に受け止めるべきものだと思うし、どうしてこういう作品が日本でも出てこないのと思う、
シュエット
2009年06月02日 09:23
「靖国 YASUKUNI」でも遺骨の返還をもとめて毎年台湾から遺族がきても知らん顔。吐き気がして泣いて、靖国について知らないことを痛感しました。
「観るのは辛いかもしれないが、これが僕のラブレターだ。」そういった監督の思いが痛いほど伝わる映画でした。でもあれほど毎年マスコミが大騒ぎするのに、中国人が靖国を描いて、それに対して日本はなにも語ろうとしないんだって思う。
>同じイスラム教徒の中でも、サイードらがアラビア人、伍長はベルベル人で民族間のわだかまりが顕在化する場面もある
そういう問題が会ったんですね。私は伍長の墓が十字架で、彼はアラーの神を捨てフランス人になろうとキリスト教に改宗したんだなって捉えていた。そういう確執かなって思っていた。フランスに対する複雑な心情みたいなのも描かれてるなって思いました。
最後のテロップで戦後は終っていないって痛感しました。
オカピー
2009年06月03日 01:01
シュエットさん、こんばんは。

「麦の穂」も「ソナタ」も解り易く普遍的に日本人に喚起するポイントがあったから公開されたのでしょうが、本作を検討する為に観た配給会社もあったでしょうに、対岸の火事にしか映らなかったのでしょうかねえ。米国アカデミーで外国語映画賞を受賞していればどんなに地味でも公開されたはずですから、候補と受賞作の違いは天と地ほど違いますね。

>どうしてこういう作品が日本でも出てこないの
色々事情があると思いますが、日本では太平洋戦争に対する考え方が基本的に二分されているということが大きいと思いますね。
ドイツではナチスをドイツ人と切り離して悪とできますが、日本人はそう大胆に割り切れないところがあるのでしょう。浅薄な私見として、江戸時代末期の遅れの意識から始まる富国強兵の流れが太平洋戦争だと思っているので、一方的に日本が悪いと思ってはいますけどね。
ともかく、日本人がドイツのように客観的に戦争を観られるようになれば自ずと現れるでしょうが、そんな時は永遠にやって来ないのではないかと思います。
オカピー
2009年06月03日 01:02
>「靖国 YASUKUNI」でも遺骨の返還をもとめて毎年台湾から遺族
映画は未鑑賞ですが、新聞等で読んだことはあります。沖縄の「ひめゆり部隊」の遺族なども似たような行動をしていますね。この件に関する靖国神社の態度は傲慢と思います。

>中国人が靖国を描いて
既に述べたように、日本人は多分永遠に先の戦争を客観視できないですね。
韓国のTV番組が東条英機の孫(女性)にインタビューしてお互いにきちんとした対応をしたことは良いことだと思ったこともあります。

>フランスに対する複雑な心情
当然それは流れていますね。
フランスにおけるアルジェリア人は、日本における在日朝鮮・韓国人と似た立場かもしれませんね。
人間尊厳
2011年01月10日 12:39
コメントを読んで、本当の本物の日本人がいることに安心しました。
オカピー
2011年01月11日 00:58
人間尊厳さん、こんばんは。

僕の浅薄な見解についてコメントを戴き、有難うございました。

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