映画評「敬愛なるベートーヴェン」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2006年イギリス=ハンガリー映画 監督アグニェシュカ・ホランド
ネタバレあり

「探偵物語」など英語の理解を間違えて邦題が付けられた例は少なからずあるが、この邦題は日本語が間違っている。【敬愛】は名詞か動詞であるから【敬愛なる】という日本語はない。形容動詞に拘るなら【親愛なる】であろうし、【敬愛】に拘るなら【敬愛する】が良いであろう。

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1824年、有名な交響曲《第9番》の初演を四日後に控えたベートーヴェン(エド・ハリス)の前に妙齢美人アンナ(ダイアン・クルーガー)が楽譜を清書するコピストとして訪れる。女性の音楽家など滅多にいない時代故に楽聖はがっかりするが、彼女の音楽の理解力に見直し、単なる師弟愛を超える愛情を覚えていく。

という物語で、ハイライトは、遂に訪れた《第九》初演の日に難聴のベートーヴェンに“プロンプター”としてヒロインが指揮を助ける場面で、女性監督アグニェシュカ・ホランドが奇を衒わない正攻法の演出できちんと盛り上げている。音楽的にも充実した10分間だ。

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アンナという女性は実在せず、ベートーヴェンの人となりを見る傍観者として、文学的に表現すればこの偉大なる楽聖を映し出す鏡として登場しているわけだが、その彼女に対して「難聴になったから心(=神)の声が聞こえるようになった」と発言する場面はその実際的な効果として挙げて良い。言葉としても芸術家らしく印象に残る。

伝記映画とは言いにくいが、凡そあのような横暴な性格で不潔な生活を送っていたらしく、一部で言われるように極端にデフォルメされたものではない。また、1994年に作られた「不滅の恋 ベートーヴェン」ほど興趣を呼ぶところはないものの、天才音楽家の晩年の心境を見据えた佳作として評価したい。

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初期には軍人のような硬派の役柄が多かったエド・ハリスは「ポロック」以来芸術家タイプを好演することが増えてきて、今回の凝った性格演技も見応えあり。

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この記事へのコメント

シュエット
2008年05月23日 17:15
>【敬愛なる】という日本語はない。
さすが!するどい。
あえてか、文法的知識がないのか、どちらなんでしょうね。
これは第九の演奏は見ごたえありました!
半分はこれを聞きに行ったところもあるけれど、
>アグニェシュカ・ホランドが奇を衒わない正攻法の演出できちんと盛り上げていた。
それほどの深みは感じなかったけれど、きちんと描いていて見ごたえありましたね。彼女って他の作品みてもいういう作風ですよね。
川べりのベートーベンのシーン(ずっとメロディが浮かんでくる?)が印象的でした。
オカピー
2008年05月24日 01:32
シュエットさん、こんばんは!

>【敬愛なる】
<敢えて>という気もしないではないですが、その場合意味が不明。
そこで、指摘してみました。^^

>第九の演奏
大工の演奏ではないですよね(笑)。
演奏が<見ごたえ>というのも変ですが、この作品の場合は<見ごたえ>でしたね。

>アグニェシュカ・ホランド
アニエスカ・ホランドという表記もありますが、彼女はポーランド人なので、ロシア語が専門である僕はこう表記しております。

>こういう作風
そうですね。
結構好きな「秘密の花園」も「太陽と月に背いて」も生真面目だけど、硬質にならず女性らしい柔和さもあって、僕にとってはいつも☆☆☆★の映画を作るというイメージです(笑)。
2008年06月03日 16:14
アグニェシュカ・ホランドの方が、カッコイイ響ですね。

ベートーベンの写譜した人の名前ってわかっているようですが、そのうちの一人の名前が知られていないということなので、それを女性だったらとしたようですが、ベートーベン大好き人間のわたしにとっては辛い映画でした。

オカピー
2008年06月04日 00:32
みのりさん、コメント有難うございます。

>それを女性だったらとした
こういうのを虚実織り交ぜというのでしょうね。

>辛い映画
そういうこともあるでしょうが、優れた芸術家が品行方正な紳士であることのほうが稀でしょうから。
「アマデウス」を見てショックを受けたモーツァルト・ファンはもっと多いことでしょう!

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