映画評「イカとクジラ」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2005年アメリカ映画 監督ノア・バームバック
ネタバレあり

ライフ・アクアティック」で本作を製作したウェス・アンダースンと共同脚本を担当したノア・バームバックが自らの脚本を映像化した半自伝的作品。アカデミー賞では候補に留まるものの、NY批評家協会賞などで脚本賞を総なめしたアメリカでの話題作である。

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1986年、ブルックリンに暮らす16歳の少年ジェシー・アイゼンバーグと12歳の弟オーウェン・クラインが、若い頃持てはやされ今や鳴かず飛ばずの純文学作家である父ジェフ・ダニエルズ、新進作家として出版も決まり始めた母ローラ・リニーの離婚に伴い、相互の家を往復する日々に入っていく。
 父親のインテリジェンスを引き継いでいるとうぬぼれ浮気性の母を嫌う兄はピンク・フロイドの名曲"Hey You"を自作と偽って賞金を貰い、強権的な父親を嫌って母に寄り添う弟は自ら放出した精液を学校の施設になすり付ける奇行を始めるが、共に後でばれて離婚した両親を慌てさせる。

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テニスと卓球が両親の家を往復する二人の隠喩として使われているのが強く印象に残るが、テーマと人物の環境が似ている「ドア・イン・ザ・フロア」ほど胸を打たない。ドキュメンタリー・タッチの自然主義スタイルが劇的感銘を削り取っているように感じられる。
 或いは、セラピストが登場し、父親の作家が言葉を弄して他人を批判する都会風インテリ的態度を取るのは一見ウッディー・アレン風。アレンの場合は作者の主観的な文明批評であるのに対し、こちらはインテリの言動への揶揄的な扱いだ。

総じて、精神分析を好む都会派インテリ層が好みそうな神経質な印象で、僕のような大衆映画ファンの共感を呼ぶ作り方にはなっていない。諧謔味は十分あるものの、登場人物へのアプローチがストレートすぎるのではないかと思う。

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しかし、幕切れは秀逸。
 16歳のジェシー少年が幼年時代に博物館でイカとクジラが格闘するジオラマを怖々と見たことを思い出す。格闘するイカとクジラは即ち両親(の象徴)であり、この瞬間、少年は自身が両親に見守られる存在でなく、両親を薄目を開けて見守っている存在であることに気付くという痛烈な皮肉になっているのだ。

映画の出来栄えには関係ないが、ビートたけしの「生徒の親が教師より学歴が高くて教師を馬鹿にし、生徒が教師を尊敬しない土壌を作っている」旨の発言を思い出させる嫌な父親でした。そもそもディケンズで僕が最も愛する「二都物語」を貶すようではもう行けません。(笑)

いくらシングルカットされていない曲でもピンク・フロイドはまずいよ。

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この記事へのコメント

2008年04月13日 20:33
TBありがとう。
家族でああいう映画を見に行っては、いけませんよねぇ。
僕も、何回かは家族で映画館に行ったり、VTRを見たりしましたが、結構、セレクションには気を遣いましたよ(笑)
2008年04月13日 20:59
ちょいと前にレンタルで観ました。^^
国民性によるユーモアのズレは
とっくにご承知之助^^なんですけれど
プロフェッサーがおっしゃるように
幕切れは、ちゃんと幕切れて(笑)
そこそこ観れたんですけどね。(--)^^

全編、冷ややかに微風が吹いている
ような作品でね~、もうちょっと
おバカに表現してくれても良かったかなぁ。
トッド・ソロンズの「ハピネス」の
テイストも期待していたんですが
後味がイマイチでございましたわ。^^

アタマのおよろしい方々はキライでは
ありませんが、ちょっと、このご家族は~^^;
オカピー
2008年04月14日 02:35
kimion20002000さん、こんばんは!

>ああいう映画
僕も映画館で観たことのある「ブルー・ベルベット」でしたよね。
その他、「勝手にしやがれ」「野生の少年」「ママと娼婦」と、フランス映画オンパレードでしたが、妙に芸術志向で嫌らしいなあ、と眺めておりました。父親の作家はひどい“スノッブ”でしたね。その父親のセレクションでしょう。
オカピー
2008年04月14日 02:56
viva jijiさん、お越しやす。^^

>冷やかに微風が
作者の半自伝的な作品で、セミ・ドキュメンタリー・タッチなのに、オフビート感が多少あって、どこか居心地の悪い作品でしたね。
リアリティという評価をあちらこちらで目にするのですが、うすら寒いリアリティよりはじけた諧謔のほうが良かったかもです。

実はね・・・「ハピネス」・・・見逃しちゃったんだなあ。^^;
トッド・ソロンズのすっとぼけた感じは「何たらドールハウス」で経験済みですけれど・・・あははは。困ったなあ。

人間なんて所詮不完全ですけど、何とも見苦しい家族でした。
シュエット
2008年04月15日 19:49
この6点は納得です(笑)
私も含め、団塊の世代以降、こういう家族の笑えない話ってありうる。ある企業の跡地にできたマンション群。職住近接で夫婦ともに高学歴。ここの学区に住む人から聞いたけど、学校でパソコンの授業でも生徒の方が先生よりはるかに詳しいって。
>少年は自身が両親に見守られる存在でなく、両親を薄目を開けて見守っている存在であることに気付くという痛烈な皮肉になっているのだ。
やっぱりストレートすぎて、それでどうした!って思う。作品の意図ってよく分からない。なんでこの映画が賞賛されたんだろう。
オカピー
2008年04月16日 02:36
シュエットさん、こんばんは!

納得してくれて有難うございます(笑)。

これは、日本風に言えば<私小説>です。極めて個人的なことです。
恐らく、ニューヨーク派のインテリみたいな連中に受けたのでしょう。彼らは精神分析がとにかく好きだから、自分と兄弟みたいなこういう精神分析したくなる家族を見て「分るなあ」と共感したのではないですか。
シュエット
2008年04月23日 20:38
>「分るなあ」と共感したのではないですか
実は、そうだったのです。共感よりもむしろ悪しきかつ弱き部分を見せつけられた拒絶反応ありましたね。団塊の世代、特に全共闘世代が親になったら、こんな親いるよなって、私のなかにも口にださずともこんな部分あるかもって。だから逆に意図が分からなかったなぁ。こんなラストも、なんだかなぁって。お粗末過ぎないって思った。村上春樹の「ノルウェーの森」読んで以来の後味の悪さを感じました。
オカピー
2008年04月24日 01:55
シュエットさん、こんばんは!

インテリの中でもかなり上のクラスなんでしょうけど、出てくる家族が全員スノッブでね、心の中にすきま風が吹きましたよ。

♪人を愛して 人は心みだれ 傷ついて すきま風 吹くだろう・・・

つい懐かしい歌なんぞ出てきましたが、寒くなりましたね。日本の「空中庭園」も凄い家族でしたけど、いやはや現在の家族とは一体何ぞや?

>ノルウェーの森
♪I once had a girl or should I say she once had me
村上春樹って未体験なんですよ。
我が村の図書館にはなかとです。隣の町の図書館にあるか今度調べてみようっと。
そんなに後味が悪いんですか。興味そそられました。^^;
シュエット
2008年04月24日 14:16
後味っていうか、あの時代を売り物にするな!って感じ。こんな恥部を堂々とネタにしてロマンティックに切なく書くなんて!って気持ち。
お前は本当は何も傷ついてないんだ!って気持ち。
そこへ行くと村上龍は品位がある。節操を知っている。
なんか分かったような分からん書き込みですみません。
これって返事いいですよ。だって反応しようがないでしょ?(笑)

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