映画評「今宵、フィッツジェラルド劇場で」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2006年アメリカ映画 監督ロバート・オルトマン
ネタバレあり

2006年11月に他界したロバート・オルトマンの遺作で、いつも通りの群像劇である。

画像

ミネソタ州のセントポールにあるロスト・ジェネレーションを代表する作家F・スコット・フィッツジェラルドを記念して作られたフィッツジェラルド劇場で、ライブで進行するラジオの名物音楽番組「プレイリー・ホーム・コンパニオン」が始まろうとしている。
 表面的にはいつもと変わりがないものの、この番組を制作しているラジオ局がテキサスの実業家トミー・リー・ジョーンズに買われた為に今日が最後の日で、控室に待機しているいずれの出演者にも些かの感慨がある模様。

というお話が劇場の保安係ケヴィン・クラインを案内役に進行していくのだが、彼がハードボイルド映画の探偵を気取っているのが微笑ましい。

画像

脚本を書いたのは本作に出演もしている司会者ギャリスン・キーラーで、「プレイリー・ホーム・コンパニオン」は彼の司会する現在も続行中の名物番組ということである。彼の当意即妙の進行ぶりが見事で、時には出演者と一緒に歌ったりもする。
 そうして、カントリー・デュオのメリル・ストリープとリリー・トムリンの姉妹、下品なカウボーイ・ソングを歌う二人組ウッディー・ハレルスンとジョン・C・ライリー、超ベテランのL・Q・ジョーンズといった面々に、メリルがデビューさせようとしている娘リンジー・ローハンや番組関係者を加えた、夫々の人生模様が歌の合間に繰り広げられる。

ほぼリアル・タイムで進む音楽ものとして誠に楽しめる内容で、その場で繰り広げられる生CMが頗る興味深い。メリル・ストリープなど本当の歌手でない連中の歌唱力もなかなかなもので聞き応えがある。鳴き真似名人の点出も面白い。

画像

音楽絡みということで旧作「ナッシュビル」と比較してみると、ファンタジー色を交えた為にアメリカ社会を斬り込み人生の悲哀を皮肉たっぷりに浮かび上がらせた同作ほどの迫力がないというのが素直な感想だが、オルトマンは一見楽天的に見える作劇の中に、死の天使ヴァージニア・マドセンを狂言回し的に配し、死の匂いを漂わせるのだ。
 本番中に亡くなるのはL・Q・ジョーンズ一人だが、デュオ姉妹は亡き母に歌を捧げ、その娘は自殺の詩を書いているし、ラジオ局が買い取られ番組が終わるというのも物事の死である。クラインに要望されてヴァージニアが取りつく実業家(こちらもジョーンズですな)も事故で死んでしまう。

画像

製作時80歳だったオルトマンが遺作と考えていたわけではないとしても遠からず訪れるであろう自身の死を重ねて作ったことは否定できないであろうし、そのフィルモグラフィーが鑑賞歴とほぼ重なる我々の昭和中期世代にとっては死をテーマとしたこの秀作が遺作となったことに感慨を禁じ得ない。結果的に自らに捧げる見事な鎮魂歌になったように思う。

今宵はジョン・ヒューストン「ザ・デッド」と本作の二本立てと行きましょうか。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

シュエット
2008年02月08日 16:51
最後のコーラスは圧巻でしたね。さすがハリウッド。演技だけではなくって歌も巧い!メリルなど見事でした。楽屋裏の情景と舞台の情景。そこにいる役者の何気ない動きとか表情とか…私ももう一度観てみよう。アルトマンがもしものときにとスタンバイしていたポール・トーマス・アンダーソンってアルトマンのこと、とっても敬愛しているみたいですね。
何度観ても見飽きることのない素晴らしい作品をいっぱい残してくださいましたよね。「私にとって映画とは、仲間たちと海辺で砂遊びみたいに砂の家を作っているようなものだった。波がさらっていったら、また新しい砂の家を作って…」アカデミー授賞スピーチのアルトマンの言葉を思い出します。
オカピー
2008年02月09日 03:41
シュエットさん

日本でも多彩な人が増えていますが、ハリウッドの層の厚みは凄いですね。その厚みを生かせるだけの幅広い作品が作られていないのが実情だとは思いますが。

>P・T・アンダーソン
「マグノリア」はそれより何年か前に観たオルトマンの「ショート・カッツ」を思い出させましたし、オルトマンも後継者と思っていたのでしょうか。

WOWOWに入っているのにアカデミー授賞式を観ないのは余りにモノグサでしょうか。
脚本家のストはどうなっていますかねえ? 連中が戻らないと授賞式も出来ないんですよね。(+_+)
2008年02月13日 02:19
tbありがとう。
こういう生CMというのは面白いですね。
ミニFM局なんかでは、面白くやれると思うけど、なかなかユーモアを入れながら出来るキャスターやDJは日本では、いないんでしょうね。
オカピー
2008年02月13日 19:47
kimion20002000さん、こんばんは。

>生CM
本当のCMなのかおふざけなのか解らないぎりぎりのところでの、本当のCMなんでしょう。鳴き声名人の特殊効果も面白かったですね。

>キャスターやDJ
新聞の番組投書欄を見ても解るように、日本人にはユーモアを解さない人が多いので、ああいう類の司会者がなかなか育たないのではないか、という気もしますね。

この記事へのトラックバック

  • 「今宵、フィッツジェラルド劇場で」

    Excerpt: 朝鮮戦争を痛烈に批判した「M★A★S★H」や、ハリウッド映画界の内幕を暴いた「ザ・プレイヤー」などの作品で知られる米映画界の鬼才、ロバート・アルトマン監督が2006年に撮ったドキュメンタリータッチのド.. Weblog: シネマ・ワンダーランド racked: 2008-02-08 22:20
  • 『今宵、フィッツジェラルド劇場で』

    Excerpt: (原題:A Prairie Home Companion) ----なんだか素敵なタイトルだね。 ロバート・アルトマンの作品とは思えないニャ。 「そうだね。 ぼくもこのタイトルは 配給会社ががんばっ.. Weblog: ラムの大通り racked: 2008-02-08 22:32
  • 今宵、フィッツジェラルド劇場で

    Excerpt: 昨年、亡くなられた巨匠ロバート・アルトマン監督の遺作となった作品。 DVDで鑑賞。 アルトマン監督を崇拝されてる方には「なにそれ?」と言われそうですが・・・ どぉも・・・やっぱし.. Weblog: UkiUkiれいんぼーデイ racked: 2008-02-09 08:44
  • 今宵、フィッツジェラルド劇場で

    Excerpt: 明日への希望と人間賛歌が心に染み入る、ロバート・アルトマン監督の遺作 Weblog: シャーロットの涙 racked: 2008-02-09 22:35
  • mini review 07246「今宵、フィッツジェラルド劇場で」★★★★★★★★☆☆

    Excerpt: 『ショート・カッツ』などの巨匠、ロバート・アルトマン監督の遺作となった極上の音楽コメディ。30年あまり続いた音楽バラエティショーが放送を終了する最後の夜の様子を、流れるようなカメラワークでみせる。実際.. Weblog: サーカスな日々 racked: 2008-02-13 02:16
  • <今宵、フィッツジェラルド劇場で> 

    Excerpt: 2006年 アメリカ 106分 原題 A Prairie Home Companion 監督 ロバート・アルトマン 原案 ギャリソン・キーラー  ケン・ラズブニク 脚本 ギャリソン・キーラー .. Weblog: 楽蜻庵別館 racked: 2008-02-13 10:03
  • 今宵、フィッツジェラルド劇場で

    Excerpt: 今宵、フィッツジェラルド劇場で ロバート・アルトマン監督の遺作です。 最後の公開放送ラジオ番組がフィッツジェラルド劇場で行われているのですが、絶対に「本日終わり」ということを言わない とい.. Weblog: cino racked: 2008-02-13 12:26
  • ≪今宵、フィッツジェラルド劇場で≫(WOWOW@2008/02/07@075)

    Excerpt: 今宵、フィッツジェラルド劇場で    詳細@yahoo映画 解説:30年あまり続いた音楽バラエティショーが放送を終了する最後の夜の様子を、流れるようなカメラワークでみせる。実際.. Weblog: ミーガと映画と… -Have a good movie- racked: 2008-04-19 15:43
  • 「今宵、フィッツジェラルド劇場で」

    Excerpt: 最近、「ドラゴンボール・エボ~」とか、「マーリー 世界一おバカ~」とか、 タイトルの長い作品ばかり観てるので、この作品も観ておこうと・・・。 Weblog: ★☆ひらりん的映画ブログ☆★ racked: 2009-03-21 03:10