映画評「ボビー」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2006年アメリカ映画 監督エミリオ・エステヴェス
ネタバレあり

ホテルは群像劇を構成するのに適しているが、開巻直後引退したホテルマンのアンソニー・ホプキンズが群像劇の名作「グランド・ホテル」に言及したことから、勘の良い(笑)僕はすぐに「グランド・ホテル形式の群像劇なんだな」と予想が付いた。かの作品については一昨年の邦画「THE有頂天ホテル」の中でもたっぷりと説明されていた。

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1968年6月5日、大統領候補者ロバート・ケネディ上院議員が予備選挙の結果を受けて演説をすることになっているロサンゼルスのアンバサダー・ホテル。
 電話交換手へザー・グレアムと浮気を楽しむ支配人ウィリアム・H・メイシー。美容室を任せられているその妻シャロン・ストーンは老いを意識する歌姫デミー・ムーアを慰めたり、ベトナムへの出征を回避させる為に青年イライジャ・ウッドと結婚するリンジー・ローハンの着付けをする。
 人種差別主義者の厨房管理人クリスチャン・スレイターにより地元ドジャーズの投手ドライスデールの6試合連続完封がかかった試合を見られなくなってしょげるメキシコ系従業員フレディ・ロドリゲス、ボビーことロバートに心酔する側近二人、選挙運動を投げだしたLSDでトリップしてしまうボランティア二人、チェコから取材にきた女性記者、等々の人物が交錯し、演説会場に集まるが、抜ける為に通った厨房で候補者が狙撃され、そこに居合わせた人々の中からも重傷者が出る。

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構成的にロバート・オルトマンの「ナッシュビル」を彷彿とする部分があるが、こういう作品が作られる背景にはイラク戦争を推し進めたブッシュ大統領政権へのアメリカ人の不満がある。民主党宣伝映画みたいにも見えるが、脚本を書き演出まで担当した俳優エミリオ・エステヴェスは純粋にリベラルな世界を希求していると理解するのが自然。

1968年はフランスでの五月革命、チェコにおけるプラハの春など、世界が激動し始めた年である。アメリカでは公民権運動を推進していたキング牧師が暗殺され、ベトナム戦争が行き詰まった結果ジョンソン大統領が続投を諦め、若者たちが麻薬に走りヒッピー・ムーヴメントが本格化した。
 そうした時代のムードが上に列挙した人々の言動から透けて見えて来る面白さがあるので、当時の時代背景を知っていた方が楽しめる可能性は高い。

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これだけの人物の出し入れはベテラン監督でも苦労するはずだが、エステヴェスは各シーンを短めに積み重ね冗長になるのを回避しながら散漫にもならないように連続性を持たせ、これだけの大所帯を巧みに交通整理している。この手腕は高く評価されていいと思う。
 一方、事実絡みということもあって、上院議員狙撃と登場人物との関連性が薄く「ナッシュビル」のように登場人物が絡み合ってうねりを生み、狙撃からの波紋がどこまでも広がっていくような強い余韻が醸成されない。

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細かいところでは、68年を象徴する「猿の惑星」や「卒業」といった映画の題名が出てきたり、「パタパタ」といった一発屋のヒット曲も使われて映画ファンでポピュラー音楽が好きな僕を嬉しがらせるが、最後に「卒業」の当りとも絡んでリバイバル・ヒットしたサイモン&ガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」が映画を締める。但し、当時流行ったリミックス・ヴァージョンではなく、オリジナルのアコースティック・バージョンを使用したのはマニア好みで筋違いである。

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この記事へのコメント

2008年02月28日 15:00
こんにちは。
最近は、未見のモノでも、面白そうなモノは構わず読ませてもらってます。^^

ロバート・ケネディを扱ったこの映画のタイトルは知っていましたが、エミリオ・エステヴェスが監督してたんですネェ。調べたら既に数作、作ってる。

面白そうだけど、<登場人物が絡み合ってうねりを生み、狙撃からの波紋がどこまでも広がっていくような強い余韻が醸成されない。>という評価も分かり易いですね。

懐かしい音楽が聴けそうなので、リストアップいたしました。

ラストを締めたという「サウンド・オブ・サイレンス」が、アコースティック・バージョンなのは、それ以外の楽曲が物語の背景に対して、ただの背景ではない意味を持たしていたのではないか? 読ませてもらって、そんな考えも浮かびました。
十瑠
2008年02月28日 15:04
修正です。

>それ以外の楽曲が物語の背景に対して

=それ以外の楽曲が物語の背景“なのに”対して
シュエット
2008年02月28日 22:31
仕事帰りに疲れた身体で観たせいもあったかもしれません。
正直しんどかったです。
<登場人物が絡み合ってうねりを生み、狙撃からの波紋がどこまでも広がっていくような強い余韻が醸成されない。>
これでした。それぞれのドラマがそれぞれで終っている。うねりがなくとも「グランド・ホテル」のような…あぁ、それでも「ボビー」はやはり一つの大きなドラマに繋がっていかない。見ている間、血が躍らず足が浮腫んで困りました(笑)シチューの中で材料が生煮えで、スープと材料がそれぞれ馴染まないままに供された感覚でした。私はこんな感覚的な言葉でした語れないんですけど……。
オカピー
2008年02月29日 01:52
十瑠さん、こんばんは!

>未見のモノでも
参考になると嬉しいです。^^

>エステヴェス
監督が誰かも調べずに観ましたが、手綱さばきはなかなかでしたよ。
大分前の「ウィズダム/夢のかけら」は観たはずですが、全くお話を憶えていないなあ。多分・・・大したことはない・・・はず。^^;

>評価も分かり易い
どうもっ!

>懐かしい音楽
選曲がちょっと渋めだったかな。誰の趣味でしょ?

>ただの背景ではない意味
す、するどい。
あの曲は非常に深遠な歌詞ですからね。
オカピー
2008年02月29日 02:04
シュエットさん、こんばんは!

>それぞれのドラマがそれぞれで終っている。
人々がたまたま現場に居合わせた「ボビー」と、居るべくして居た「ナッシュビル」との違いですね。
しかし、アメリカでの評価は両者間で殆ど差がないんです。これには少々釈然としません。

幕切れへとなだれ込む感じはありましたが、人物相互の関連性が薄い為に映画がそれまで構築してきた描写の総和がもたらす余韻が少ないです。
余韻が出るような描写自体は入っていますが、それと、総和による余韻では感銘度が違いますね。

僕はまあ、あの時代の気分が味わえたので、採点は良くしました。^^
シュエット
2008年02月29日 09:55
またお邪魔しました。
>アメリカでの評価は両者間で殆ど差がないんです。
同感です。アメリカにおけるケネディ一家の人気っていまだに衰えていないんだなって、今行われている大統領予備選をみていても、つくづく思います。評価は映画作品よりもロバート・ケネディを描いた、そのことにアメリカは感動してるんではないかしら?って思いました。
そういう映画ではないかしら。本作は出演人の豪華さに惹かれて身にいきました。ケネディ家を愛する人たちが出演したんでしょうね。
オカピー
2008年03月01日 01:16
シュエットさん

何度でもどうぞ(笑)。

>ケネディ一家の人気
二人とも暗殺されたという悲劇性もあるのでしょうね。
マフィアとの繋がりなども色々と取り沙汰されていますが、アメリカでは政治家は清廉潔白より器の大きさが勝負なんですよね。
日本の宇野首相のように、お妾さんがいただけで首を飛ばせるような国民性ではありません。^^;

アメリカ国民もイラク戦争に拘っている共和党政権にうんざりしているので、そういう機運がもりあがっているんでしょうね。
そういう背景を想像しながら観た作品でした。

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