映画評「奇跡」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中))
1955年ベルギー=デンマーク映画 監督カール・ドライヤー
ネタバレあり

日本で何らかの形で紹介されたカール・ドライヤーの作品はいずれも研ぎ澄まされていて観終えた後身動きが取れなくなるような感動を覚えるが、およそ四半世紀前に映画館で本作を観た時も暫く椅子に座り込んだままだった。
 キリスト教信仰に絡むお話だが、辛気臭いと思わずに一度観て戴きたいと思う。

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デンマークの田園地帯、明朗なキリスト教宗派グルンヴィー派の信者である農場主モルテン・ボーエン(ヘンリク・マルベルイ)は、三男アーナスが仕立て屋の娘アンネと恋仲になって結婚したいと言っても、仕立て屋一家が陰気臭い別の宗派を信仰していることを理由に自らも反対するが、相手が拒絶したことに腹を立て「娘を改宗させる」為に相手の家に乗り込むものの結局は物別れ、その時不信心な長男ミケルの妻インゲ(ビアギッテ・フェダーシュピール)が難産で危篤に陥ったという電話がかかってくる。仕立て屋は「嫁の死が改宗のきっかけになればいい」と憎まれ口を叩く。
 インゲは死産した挙句に死んでしまう。正気を失って自らをキリストと信じている次男ヨハネス(プレーベン・レーアドルフ・リュ)がふらふらと家族の間を彷徨い、奇跡を信じれば死者を蘇らせる奇跡を行うと告げるが、長男の長女マーレン以外に誰も顧みる者がなく、真の信仰を失った人々に失望して失踪する。やがて告別式に仕立て屋が弔いに訪れ和解、アーナスの結婚の話もまとまる。

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本作では色々な奇跡が起るわけだが、この和解こそ嫁の死が引き起こした真の奇跡と言うべきで、人間の相手を思いやる気持ちに非キリスト教信者の胸も打つであろう。

その場に次男が突然やってきて姪の手を取り神の言葉(原題)を放つと、インゲは甦り、その結果長男は信仰に目覚める。
 ここだけなら信心と縁のない人間には鼻白むだけだが、ドライヤーがそこに至るまで一貫して引き気味(フルショットが多い)の撮影で簡潔に人々の行動と心理を見つめ描いているから、ひどく抹香臭い幕切れでも信仰とは関係のない人間の真心に感動を覚えることができるのである。少なくとも僕はそう思う。

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原作の戯曲を書いたのが劇作家で戦中ナチスに殺された牧師カイ・ムンクなので、原点的な信仰への回帰をテーマとして捉えるのが妥当だが、普遍的に信仰を信頼に置き換え、人間世界における相互信頼の重要性を感じ取るほうが映画ファンたる我々にはふさわしい。かかる一般的理解へと昇華せしめるだけの力が作品にある。

僕のブログにも奇跡が起って欲しい。

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この記事へのコメント

2008年02月09日 07:19
貴重な作品とかねてより噂に聞いておりました、
その上、私は未見なのでチカラこめて録画・・・
なのに~フタをあけてみれば・・
“電波障害により中断”ですと。
でも15分だけ入っておりましたので
15分だけ、観ましたの。^^

「ガートルード」(未)というのは全編観ました。

「ガートルード」
非常に摩訶不思議な気持ちになる演出方法と
いうか撮り方ですね~~~。
会話をしているのに視線が合わない、
交差しないんですよね~。
観るほうの意表をつく役者の動かし方、
(意図してるのかな)無表情なお芝居、
撮影のリズム等、とても興味をそそられました。
(北欧の映画は実に興味深い)

がっちり視線は交差してるにまったく
会話が(内容も)噛み合わない
ズラウスキーの「狂気の愛」なんぞも
ちらっと彷彿したり・・・(--)^^

「奇跡」
また放映されるのを楽しみにしております。

>僕のブログにも

どんな奇跡?
だれかが、生き返るんですか?^^
オカピー
2008年02月10日 02:30
viva jijiさん、日参戴き恐縮であります。m(__)m

>“電波障害により中断”
札幌ですから雪ではおまへんか?
それは勿体ないなあ。
こちらは夏の雷雨時に映らないことが多いのです。
BSの弱点なんですよね、雨と雪が。
夏は裏の木が繁茂して地上波デジタルが映らない。

>ガートルート
ドライヤーの遺作ですね。
余りよく覚えてないんですが、一部で傑作という噂も。
「視線が合わない」かあ。

>北欧の映画
厳粛な作品が多いのですが、
本番中は余り音楽を使わないという傾向がありますね。
「奇跡」もタイトルで僅かに流れるだけ。

>ブログの奇跡
うんにゃ、この記事への大量のアクセスを祈る、
という意味でございました。
このコメントが反映されると恐らく53。
今日の時点で奇跡は起こっていない。^^

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