映画評「王の男」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2005年韓国映画 監督イ・ジェンイク
ネタバレあり

世界史は好きで中国関連国にも関心が高く、西夏の李元昊、遼(契丹)の耶律阿保機、金(女真)の完顔阿骨打(ワンヤンアクダ)は知っているが、何故か朝鮮諸国の君主は全く知らない。本作はその全く知らない李氏朝鮮10代国王・燕山君を扱った歴史大作。

16世紀初頭、大道芸人一座の女形コンギル(イ・ジュンギ)が貴族相手に春をひさがねばならぬのに堪えかねた幼馴染で同僚のチャンセン(カム・ウソン)が一座を抜け出し、二人で都を目指す。
 稼ぐには、女色に耽る燕山君(チョン・ジニョン)をテーマにするのが良かろうと新しく加えた三人と共に猥雑に演じるが、これが重臣チョソン(チャン・ハンソン)の不興を買って逮捕され、王を笑わせたら罪に問わず、さもなければ斬首と言い渡される。
 豈図らんやこれが大いに受けて住み込みの芸人に抱えられ、想像を絶する宮廷の悲惨を目撃することになる。

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史実に基づいているが、原作を書いたウ・テヨンは「ハムレット」を下敷きにしたのではないか、と思われる。特に、若き国王(ハムレットに相当)が母親を毒殺する場面を芸人に再現させると関係者が落ち着かなくなり大惨劇に至る模様など、人物を入れ替えればそっくり。

燕山君は朝鮮史上最悪の暴君と言われるが、先王に傾倒する重臣たちの具申に縛られ、孤独に苦しみ、実母を殺され愛情に飢えている様子が丹念に描き出されている。暴君というより子供っぽい愚王ぶりは恐らくこの辺りの環境から生み出されたのではないかと余計な分析までしたくなる程である。王が芸人たちを気に入ったのも、あるいはその自由さ、その正直さなのかもしれない。
 実は芸人を宮廷に呼んだのは大臣たちの腐敗を暴かせるチョソンの権謀術数だったのだが、王が暴走した為に収拾がつかなくなってしまうのは彼の計算違い。

結局燕山君が家臣のクーデターで失脚するまでを描くが、大道芸の野趣に始まり、文字通り政治風刺劇を劇中劇として観客にも見せる二重構造の鮮やかさ、豹変する国王への精神分析的興味、それらを支える出演陣の分厚い演技、女形イ・ジュンギの透明な中性的美しさ等々、二時間強を飽かすことなく堪能させる。ジャンルによってはまだまだと思わせる韓国映画だが、時代劇に関しては秀作が多い。

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唯一問題と思われたのが幕切れの扱いである。
 僕は、二人の芸人の目を通し愚王を描く作品と捉えた。これが正しいなら、一座が楽しくねり歩くラスト・ショット(回想)は蛇足に映る。仮に国王に翻弄される二人の数奇な運命が主題であるなら幕切れは問題ないが、その場合は途中の国王の見せ方に疑問を生じてしまう。

いずれにせよ、小さな瑕疵に過ぎず、本年観た作品の中でもかなり強い印象を残す秀作と言うべし。

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この記事へのコメント

2007年11月10日 22:20
TBありがとう。
僕には、ラストは意味あるものだったんです。
この映画の主題は、王と芸人と両方が、表裏の存在として、捉えると言う事だったんじゃないか、と思いました。
どちらも、日常を生きる大衆からすると、憧憬であり、嘲笑の対象でありという両面を持っています。
オカピー
2007年11月11日 14:08
kimion20002000さん、こんばんは。

そうですね、僕は登場人物を軸として構造論的に見過ぎたかもしれません。
【自由】をテーマの一つとしてみれば、あの幕切れは、正に【自由】を表していたわけですからね。

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