映画評「ジャーヘッド」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2005年アメリカ映画 監督サム・メンデス
ネタバレあり

1990年にイラクがクウェートに侵攻して始まった湾岸戦争に参加した当時18歳の海兵隊員アンソニー・スオフォードが自らの体験を綴ったノンフィクションを、サム・メンデスが映像化した意欲的な戦争映画である。

祖父と父に倣って海兵隊員になったアンソニー(ジェイク・ギレンホール)が激しい訓練の末に8名の斥候狙撃兵に選ばれ、クウェートを経てイラクへ越境する。

要約すれば「フルメタル・ジャケット」湾岸戦争版なので序盤は気乗りしないが、ベトナム戦争と湾岸戦争では戦争の形態が大きく異なり、そこに本作が作られた意義がある。
 人間が戦闘兵器になる恐怖を描いて反戦を訴えた「フルメタル」に対し、兵士の一人が「900mを撃つのにベトナムでは1週間、ここでは10秒」といみじくも言うように、人間個々の力が重要視されていない現代の戦争における兵士の複雑な心理がテーマになっているのである。その結果が戦争映画なのに主体となる狙撃兵たちの戦闘場面がないという異色さとして表れている。

画像

主人公の相棒となるトロイ(ピーター・サースガード)は戦場なのに戦うことができない空しさを言動で表わしていて実に解り易いが、本人の視点で描かれているせいか、主人公スオフォードの心理が意外と曖昧。
 三等曹長(ジェイミー・フォックス)に狙撃兵としての任務を貰ったことに対する感謝の言葉を述べる場面がある。結局それは入営したことを後悔した彼も「フルメタル」同様戦闘兵器になっている証左と思わせる一方、焼け焦げたイラク人の死体を見回り何かを感じたにちがいないその前の場面での心理は必ずしも明確ではない。

描写は概ね写実的だが、観照に徹し切れない部分を感じてしまうのはメンデスの指向性以上に、一介の兵士にすぎない著者の視点で戦争を描く限界の顕れである。とは言え、その曖昧さが現代の戦争が兵士に投影する心境なのかもしれず、これまでの戦争批判映画に比べて視座の低さは注目に値する。

色の扱いが絶妙な撮影監督ロジャー・ディーキンズの撮影は優秀で、油田から出る火柱の下で作業する場面など、見ごたえがある。砂漠の情景も彩度を抑えて鮮明に捉えられている。

先日の「ブロークバック・マウンテン」も見事だったギレンホールは全く異なる人物像を演じてあっぱれ。今乗りに乗っている感じであります。

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この記事へのコメント

2007年10月24日 20:12
こんばんは♪
私も「フルメタル~」を思い出しました。
新兵への洗脳という部分は同じですが、もはやベトナムから何十年も経って戦争形態がすっかり変わってしまいましたね~。
湾岸戦争モノが解禁(?)になったのかと感慨深い作品でした。
オカピー
2007年10月25日 03:14
ミチさん、こんばんは。

序盤は「フルメタル」とすっかり同じでしたね。その為ちょっと気乗りできないところもありました。
戦場へ行っても戦えない・・・僕なら喜んでしまいますねえ。死ぬとも人を殺すのも嫌ですもん。

>湾岸戦争モノが解禁
アフガン、イラク戦争に続いていくものなので、ハリウッドも慎重なようですね。
2007年10月25日 08:43
プロフェッサーはいつもながら着々印^^コンスタントに
鑑賞評記録を更新なさっていらっしゃるのは、もっち!
素晴らしいのですが、こうやってTBしながら
あらためて見てみますと、何だかんだ私も観てるのねぇ~~♪
(誰ををホメてるの?このおばちゃんは~~~^^)

でもって、ブロガーお仲間にも言われますが
1年半前も元気のいい文章で相変わらず
言いたいこと言ってる言ってる(笑)

あのね~プロフェッサーのところへオジャマするとね、
たいていが過去鑑賞映画ですけれど、自分の書いた過去
記事を再読して、なんと(笑っちゃうけれど)
元気がもらえるの!
プロフェッサー、ありがと!^^
オカピー
2007年10月25日 22:26
viva jijiさん、毎度でございます。

平均すると劇場公開より1年遅れというパターンですが、それがお役に立つこともあるのですねえ。^^)v

もう少し新しい作品も観たいですが、環境を整える必要もありまして、なかなか難しいのでございます。
それが出来ればリアル・タイムに都会の皆様(笑)とわいわいがやがや楽しめるのですけれどね。それが一番残念。

自分の文章を楽しめるのは良いですね。
小生のこの文章は堅苦しくて余り面白くなかったなあ。反省、反省。

アクセス数をチェックすると、私に期待されているのは古い作品らしいですね。「ローマ帝国の滅亡」といった誰もブログで取り上げていないような作品が新作よりアクセスが多いんですよ。
シュエット
2007年11月12日 10:05
「ジャーヘッド」記事アップしました。
WOWOW放映で見た後の感想です。
その前に劇場で「陸にあがった軍艦」をみたので、兵隊の訓練風景で、劇場鑑賞時の感想とは違った、別のやるせなさを感じました。
オカピー
2007年11月13日 02:51
シュエットさん、TB&コメント有難うございます。

戦えないことにストレスを感じる、というのも恐ろしいことだとは思いますね。空(神)から観た戦争ではなく、土(虫)の視点で見た戦争映画という点で新鮮でしたが、僕は内容を把握し切れていないような気がしています。

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