映画評「ランド・オブ・プレンティ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2004年アメリカ=ドイツ映画 監督ヴィム・ヴェンダース
ネタバレあり

ジョン・シュレシンジャーやミロシュ・フォアマンなど欧州から渡米した映画作家は米国批判をやりたがるものだが、ヴィム・ヴェンダースも遂にその気になったらしい。但し、米国民への同情に溢れたものである。

アメリカで生まれ、アフリカで育ち、イスラエルで青春時代を過ごした少女ミシェル・ウィリアムズが、ベトナム帰還兵の伯父ジョン・ディールに母即ち彼の妹の手紙を届けにロサンゼルスを訪れ、<命の糧>と呼ばれる伝導所を手伝いながら伯父を探す。
 その頃伯父はテロリストを撲滅せんと改造した車で自警的に捜査を続け、アラブ系の不審な人物に目を付け、姪と会った伝導所で男と出くわすが、その直後男は何者かに殺されてしまう。彼は姪と一緒に死体をトロナという谷間の町にいる兄に届けに赴き、同時に背景を探るが、テロリストとは全く関係のないことが判明して悄然とし、ベトナム時代の悪夢に苛まれる。

9・11以降のアメリカの姿を描いたアレゴリーで、これほど解り易い寓話もまた珍しい。
 主人公にはアメリカ国民の全体像が投影され、イラクに大量殺戮兵器を探しに行ったが何もなくがっかりという図式そのもの。事実、アメリカはイラク派兵においてベトナム戦争の悪夢を思い出させる現況に至っている。
 姪はコスモポリタン的な世界観の象徴である。

最後に彼は新たな建設現場となったグラウンド・ゼロを下に観て「意外と迫ってこない」という感想を洩らす。多くのアメリカ人の苦悩はこの場所から始まったというドイツ人ヴェンダースの第三者的感慨の込められた、米国民への同情と平和への祈りはこの幕切れに集約される。

寧ろ解り易すぎて手応えがないほどだが、寓話らしい面白さは十分にある。僕には大変解り易かったのだが、allcinema ONLINEのコメントを読むと、そうでない人も多いようなので、下記にまとめて述べる。

主題を考えれば一般的な意味でのサスペンスは全く必要ない。ましてテロリストのアジトを出してきたら現在のアメリカ人の心境を描くというテーマと合わない。
 アジトと思った先には病気の老婦人がいてTVのチャンネルが変えられないのに困っている。画面にはブッシュ大統領が映っているが、彼はTVを叩いてチャンネルを変える。この場面は「ブッシュはもう御免」という国民の心境をずばり表したものである。
 主人公のそれまでの異常な行動は9・11以降のアメリカ人の恐怖心を象徴し、揶揄しようというヴェンダースの意志は彼の姿からは感じられない。北朝鮮の核に怯える日本人はアメリカ人を笑えるだろうか。

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この記事へのコメント

viva jiji
2007年04月06日 11:47
>寧ろ解り易すぎて手応えがないほどだが・・

だって、わかりやすいお話でしょう。(笑)

なんででしょうかね~、娯楽アクションものだと
ホヤンホヤンして楽しむのに、
ヴェンダースだと・・・なんかちょっと・・構えるって。

ヴェンダースがなにか巨大なものにせっつかれるように
して一気に(16日間で)撮り上げた、そんな作品に見えましたけど。

で~も、ちゃんとヴェンダース節は、奏でられていて・・・。

賢そうなミシェル・ウィリアムズにも出会えたのも収穫。
オカピー
2007年04月06日 18:16
viva jijiさん

最初からまたきつい一発でごわすね。
しか~し、その解りやすい映画がallcinemaにコメントを寄せた連中は殆ど解っていないではないですか。
ある者は難しく解読し、ある者はテーマを解らず「コメディ?」などと抜かす。どう観ても9・11及びイラク後のアメリカ国民の心境を描いた寓話でないですかいな。寓話と言えないほど直接話法なんですけど!(笑)
ヴェンダースはアメリカを去りましたが、その心境は?

ミシェル・ウィリアムズは本当に収穫でしたね。本文に書けば良かった。
それから音楽が良かったですよね。
kimion20002000
2008年05月11日 02:37
この作品と次の「アメリカ、家族のいる風景」は2作とも現在のアメリカに対するヴェンダーズの複雑な感情であり、哀惜をともなった訣別とも言える作品だと思います。
オカピー
2008年05月11日 15:02
kimion20002000さん、TB&コメント有難うございます。

>哀惜をともなった訣別
僕もそう思います。
と言いつつ、上の方で「心境は?」などととぼけたことを書いておりましたね。^^;

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