映画評「眠狂四郎殺法帖」

☆☆☆(6点/10点満点中)
1963年日本映画 監督・田中徳三
ネタバレあり

柴田錬三郎の時代劇小説を映像化したシリーズの第一作で、市川雷蔵の主人公が好評で全部で12本も作られた。子供時代に殆ど観たが、今回NHK-BSで4本を放映するというので、田中徳三、池広一夫、三隅研次という三監督のタッチの違いに注視して順次観ることにした。

今回の第一作では詳らかにされていないが、主人公の眠狂四郎が混血故の茶髪の剣士で、円月殺法を操って無類に強いというのが子供心をくすぐったものである。虚無的な風情にも痺れた。今回もその印象は全く変わらない。
 何より市川雷蔵のニヒルさは無類。彼の死後松方弘樹が2本ほど演じたが、あのように煩悩の権化みたいな役者では雷蔵と比べるべくもない。

さて、お話。
 女性の間を巧みに渡り歩いている彼の前に、豪商・銭屋と組んだ密貿易で財を築いている加賀藩主(沢村宗之助)の指令を受けた間者・千左(中村玉緒)が現れたことから、加賀藩のお家断絶にも繋がりかねない送り状を収めた碧玉仏の争奪戦に巻き込まれる。

銭屋に雇われるのが少林寺拳法を伝えた陳氏の末裔・陳孫(城健三朗=若山富三郎)で、剣法対拳法の闘いが砂浜で繰り広げられるわけだが、シネマスコープの左右いっぱいに対峙するのがダイナミック。決闘場面のムードには後のマカロニ・ウェスタンに似たところがあり、イタリア人が(黒澤明だけでなく)この時代の大映時代劇の手法をこっそり導入した可能性はある。

画像

田中徳三の演出は三隅研次ほどスタイリッシュではなく、適度にパンを使うくらいで、堅実ではあるもののそれほど印象的ではない。唯一、千左が藩主と対峙する場面のダッチ・アングルの連続(下の写真参照)がかなり目を引くものの、演出意図が余りはっきりしない。確かに心理の火花が散る見せ場ではあるが、必要であったか。

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この記事へのコメント

ぶーすか
2007年04月22日 07:23
TB&コメント有難うございます。そうそう!仰る通り、陳孫と狂四郎の砂丘での闘いはマカロニ・ウエスタンしてましたね。
<松方弘樹
へー東山の金さんだけでなく、眠狂四郎も演じたんですか?でもちょっとイメージではないですねー。片岡孝夫(現・仁左衛門)ならまだ納得なんですが(でもこのシリーズも未見)。ジュリーのも悪くはなかったですが、雷蔵の狂四郎と比べるとやっぱり品性に劣るという印象がありました。
オカピー
2007年04月22日 18:54
ぶーすかさん、こんばんは。

主演は変わりましたが、松方バージョンも一応このシリーズ扱いで、第13作と第14作ということになります。
もっともあの頃は今のようなイメージも出来ていませんから、それなりだったと記憶していますが、やはり市川雷蔵の虚無的な印象には全く太刀打ちできませんでしたよ。

それ以外の狂四郎さんは観たことがないです。大映の「眠狂四郎」シリーズは完成度が高いので、新たに作る必要も感じません。映像の保存状態も良いではないですか。
しかし、ミーハーちゃんは俳優で見る傾向があるので、製作者も作りたくなるんでしょうね。その気持ちは解らないではない(笑)。
ぶーすか
2007年04月23日 06:59
<松方バージョン
そういえば雷蔵が急死した後、大映は雷蔵の後釜に松方弘樹を考えていたんですよね。でも彼では役不足でその後、大映も廃れてしまう…。「眠狂四郎」シリーズもマンネリ化しそうなところだったから、雷蔵はある意味、丁度イイ時期にシリーズの幕が降ろせたのかも知れませんね。
<ミーハーちゃん
私もミーハーなんで、あの役をこの俳優が演じたら…なんてしょっちゅうです^^;)。しかも眠狂四郎というキャラは強烈だし、それを雷蔵があれだけ個性的に演じていると、「俺も!」と挑戦したくなるのも分かります。でも雷蔵ファンは厳しいぞー^^;)。
オカピー
2007年04月23日 15:36
ぶーすかさん、こんにちは。

完璧に役者と一体化したキャラクターというのは、他の役者が演じてもなかなか評価を得ることはできないですよね。
例えば、寅さん。勿論あれは渥美清が作り出したキャラクターですから、この狂四郎とは事情が全く違いますけど。
もっとも「水戸黄門」のように東野英治郎がリタイアした後イメージがどうかと思いましたが、慣れれば何とかなってしまうという例もあります。

逆に、狂四郎は強烈なイメージなので、「炎上」など若い頃の市川雷蔵を見ると何だかボケーッとした印象で、そのギャップに慣れるのが大変でした。
優一郎
2007年04月23日 16:46
こんにちは^^

私も4作とも録画をしてボチボチと観ております。
本シリーズは子供のころに何作か観ているはずなのですが、果たしてどれを観てどれを観ていないのやら判然とせず^^;

このシリーズの肝は、なんといっても柴錬の生み出した眠狂四郎というキャラクター設定。映画的な魅力を語る前に、私としては柴錬を讃えたい・・・といったところ。そこに雷蔵というスターがピタリと嵌り、魅力がグンと増したことも特筆すべきでしょうね。

この眠狂四郎というキャラは 『大菩薩峠』 の主人公、机龍太郎から着想されたらしいです。確かにニヒルな部分に共通点を見出せます。
何かで読んだのですが「机に座ると眠くなる」といった連想から、柴錬は「眠(ねむり)」と命名したとか。いかにも面白いエピソードだと思います。
優一郎
2007年04月23日 16:47
(続きです)

伴天連に犯された女が産み落とした混血児・・・そんな陰惨な宿命を背負い、冷酷に人を斬り捨て、非情に女を犯す。このピカレスクなヒーロー像は子供心にも実に魅力的でした。ですが、単なるニヒリストなだけでなく、狂四郎の持つ虚無感、死生観が 「潔いダンディズム」 に昇華されているからこそ、私は痺れてしまうわけであります。

後に若かりし田村正和がTVシリーズで演じておりますが、定番・雷蔵と比べると、幽鬼のごとき役作りがいささか行き過ぎていたような印象も(ジュリーの狂四郎は未見です)。またTVですからお楽しみのエロスはかなり控えめでした。

マカロニ・ウエスタンの監督が、黒澤をはじめとする時代劇に心酔していたことは定説ですが、レオーネなどがこの頃の時代劇を片っ端から観ていた可能性はありそうですね。
ただし、眠狂四郎シリーズにも西部劇の影響が感じられるため、どこが源なのかを特定するのは難しいでしょうか。
西部劇の影響と原作のニヒルな設定が相まってマカロニ・ウエスタンと似た味わいになった・・・とも考えられそうだからです。
オカピー
2007年04月24日 01:54
優一郎さん

時代小説は余り読んでこなかったのですよ。
恥ずかしながらシバレンは読んでおりません。司馬遼太郎、吉川英治プラスαくらいなところです。
「大菩薩峠」は大河内傳次郎の映画版だけ。図書館に置いてあるので、いつかは原作も制覇しようと思っていますが。
名前の発想が面白いですね。小説の中では、眠狂四郎は咄嗟に考え出したということになっているようですが。桑畑三十郎みたいなもんですね。

>田村正和
やはりありましたよね。さきほどCMで出ていたので、ちょっと考えていたのですが、グッド・タイミング!

>マカロニ・ウェスタン
シネマスコープであり、ヌーヴェルヴァーグ後であるということを考えると、ヨーロッパ製西部劇はやはり58年から64年頃にかけて作られた時代劇と相似関係が高く、直接の影響下にあるのではないかなあ、などと感じた次第であります。
2007年05月02日 18:56
 オカピーさん、お久しぶりです。最近BSでやってましたね。去年から今年にかけてスカパーで雷蔵の時代劇をすべて放送していましたので、『忍びの者』シリーズ、『眠狂四郎』シリーズ、『大菩薩峠』シリーズなどを中心に見ておりました。

 狂四郎シリーズはすべてカラーでしたが、一本くらいモノクロで見たかったような気もします。また現代劇の『ある殺し屋』シリーズも素晴らしく、むしろ現代劇に出演する雷蔵により魅力を感じております。

 ではまた。
オカピー
2007年05月03日 03:29
 用心棒さん、お久しぶりです。
 何だか大変なご様子ですが、無理せずに精気を養ってください。

 「ある殺し屋」は第1作だけ見ましたが、また違った魅力ですね。50年代の若い頃は平凡な感じの青年でしたが。
 第1作では売れない時代の小林幸子が出ていたのが妙に印象に残りました(笑)。
2007年05月04日 09:11
 ご心配をおかけして申し訳ありません。完全復帰には時間が掛かりそうですが、徐々に戻ってきます。

 >売れない時代の小林幸子
よーく見ておかないと誰だか気付かないくらいでしたね。衣装も紅白とは違い、かなり地味でした。

 ではまた。
オカピー
2007年05月05日 00:52
 用心棒さん、こんばんは。
 ごゆっくりどうぞ。

>小林幸子
 タイトルに<小林幸子>とあったので目を凝らして見ていたら最初のほうで出てきました。顔を見たら地味ながらあの顔だったので、同姓同名の異人ではなかったと確認したのでした。

蟷螂の斧
2019年03月21日 12:51
こちらにお邪魔します。

>田中徳三の演出は三隅研次ほどスタイリッシュではなく

それぞれの監督の持ち味や力量。
僕はまだまだわかっていません。勉強不足です

>陳孫(城健三朗=若山富三郎)

凄かったですしかし、僕は第4作「眠狂四郎女妖剣」(1964年)を先に見てしまいました・・・

>イタリア人が(黒澤明だけでなく)この時代の大映時代劇の手法をこっそり導入した可能性はある。

それって、嬉しく思います日本映画がイタリア映画に与える影響

>彼も70年代に入ると一時の人気はなかったですから、そういう方も多いでしょう。

その言葉に救われます。ありがとうございます

>ジェーン・シーモアなどはそれなりに頑張ったものの、大型新人だったのでもっと大物になっても良かった気がします。

実力だけでなく、運や時代の流れもあるのでしょうか?
オカピー
2019年03月21日 19:24
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>第4作「眠狂四郎女妖剣」(1964年)を先に見てしまいました
ストーリーの連続性がないこともないですが、それほど問題ないでしょう^^

>日本映画がイタリア映画に与える影響
映画は色々影響を与えるものですよね。
 この後、このシリーズの終盤になると特に音楽に関してマカロニ・ウェスタンの影響を受けているのを見て(聞いて)面白いと思いました。

>ありがとうございます
どういたまして。

>実力だけでなく、運や時代の流れもあるのでしょうか?
あるでしょうねえ。
 昨日大リーグの試合を見ていたら、“有望選手はともかく、大リーグと3Aの線上にいる選手は運に大きく左右される”と解説の長谷川滋氏が仰っていました。実力が数字に表れる野球選手と俳優とを同じには扱えませんが、運は無視できませんよね。
蟷螂の斧
2021年12月02日 20:04
こんばんは。オカピー教授が教えて下さった「シネマスコープの左右いっぱいに対峙する」。この記事でしたね!時代劇がマカロニウェスタンに与えた影響。あるいはその逆。
「ネタヴァレー」のあうちさんが教えて下さったマカロニウェスタンが与えた影響は「目のどアップ」(巨人の星)とか、「向かい合って対決する2人の男の一方の後ろ、両足の間から相手を映す」(木枯し紋次郎)です。

>五社英雄は苦手でした。

男女のドロドロした関係が多いです。

>ジョンのダブル・ヴォーカルは結構多い

「Any time at all」のダブル・ヴォーカルも最高です!

>「イエスタデイ」ではチェロが主旋律の音符と反対の動きをする。

プロでないとわからない世界ですね。

>喜多條忠さん死去

彼が残した功績は大きいです!
オカピー
2021年12月03日 19:45
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>「ネタヴァレー」のあうちさん
>「目のどアップ」(巨人の星)
>「向かい合って対決する2人の男の一方の後ろ、両足の間から相手を映す」(木枯し紋次郎)

なるほど。
そういう着眼点は、僕にはなかったです。

>五社英雄
>男女のドロドロした関係が多いです。

そう、そこが苦手でした。

>「Any time at all」のダブル・ヴォーカルも最高です!

前にも述べたように、Dizzy Miss Lizzy は変則的なダブル・ヴォーカルと言えるのかも?
 僕が変なこと(カラオケ化)をしようとした結果解ったものなので、ビートルズ関係者以外は気付いていないかも? 
 変則的と言うのは、別のヴォーカルではなく、同じヴォーカルを音を小さくしてコンマ何秒か遅らせたと想像されるから。変則的エコーでもありますが。それとも特殊なエコー発生マシーンでも作ったか?(笑)
ジョージ・ハリスンのギターは完全なダブル・トラッキングだとか。

「エリナー・リグビー」は「リボルバー」ではヴォーカルが右ですが、ベスト盤の「ワン」では「イエロー・サブマリン・ソングトラック」同様センターになっていることを発見。ダヴル・ヴォーカル部分は「リボルバー」のほうが良いですが、通常のヴォーカルはやはりセンターの方が聴き応えがあって良いです。

>>「イエスタデイ」
>プロでないとわからない世界ですね。

まさしく。

>喜多條忠さん死去
>彼が残した功績は大きいです!

僕のかぐや姫好きは「神田川」から始まっています。かぐや姫=四畳半フォークのイメージですが、喜多條氏が作ったイメージと言って良いのかも。
「赤ちょうちん」「妹」・・・これらの曲を聞くと泣けてきます。

ご冥福をお祈りいたします。
蟷螂の斧
2021年12月04日 11:31
こんにちは。

>「赤ちょうちん」

「月に一度の贅沢だけど お酒もちょっぴり飲んだわね」
喜多條氏自身がああいう生活を送ったのか?それとも知人からそういう体験を聞いたのか?
そしていずれは別れてしまった二人。貧しい生活。愛情だけでは生活できない。そんな事を思わせる歌詞でした。

>通常のヴォーカルはやはりセンターの方が聴き応えがあって良いです。

そのあたりは人によって好みがいろいろです。片方が演奏で片方がヴォーカルなんてカラオケみたいな分け方を好む人もいますね(笑)。

>そういう着眼点は、僕にはなかったです。

マカロニウェスタンに関して根強いファンがいます。そしていろいろ研究するのが好きな人がいます。

>山梨と和歌山 震度5弱

火山や南海トラフとは関係がなかったようで・・・。
オカピー
2021年12月05日 20:31
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>喜多條氏自身がああいう生活を送ったのか?それとも知人からそういう体験を聞いたのか?

内容は私小説的ですから、実体験に基づくようにも感じますが、想像力でこういうのを書いても素敵ですね。

>片方が演奏で片方がヴォーカルなんてカラオケみたいな分け方を好む人もいますね(笑)。

まさか蟷螂の斧さんではないでしょうね?(笑)

昔、音楽ペンションに「ラバー・ソウル」を持って行って、10mくらいスピーカーの離れたセットで聴きましたが、違和感ありまくりでした。
あれ以来メイン・ヴォーカルはセンターでないといかんと思うようになりましたね。ヴォーカルがセンターにあると音が分厚くなり、音楽全体の安定感が増し、楽曲の良さが際立つ感じがします。
「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」のリミックスでは、ジョンのヴォーカルを左右に移動させるという遊びがなくなり、音楽に集中できた結果、益々良い曲だなあと思いましたよ。
「エリナー・リグビー」のセンター・ヴォーカルのヴァージョン(ワン、もしくは、イエロー・サブマリン・ソングトラック)を是非聴いてみてください。

1960年代はステレオ台頭期で、どのロック・バンドも色々といじっていましたね。今チェンジャーに入れて聴いているレッド・ツェッペリンのセカンド・アルバムも音が移動したりします。

>火山や南海トラフとは関係がなかったようで・・・。

地震は厭ですねえ。
うちの少し離れたところに断層があります。怖いです。
首都圏直下型地震は30年以内にほぼ確実に起こるようですから、国の機能は早めに分散しておいた方が良いと思いますねえ。

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