映画評「モダン・タイムス」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1936年アメリカ映画 監督チャールズ・チャップリン
ネタバレあり

チャールズ・チャップリンの長編は全て代表作と言っても良いのだろうが、本作の知名度はやはりトップクラスであろう。

流れ作業でナット締めを続けている間に精神を病んでしまったチャップリンが精神病院から目出度く退院するが、社会は不況の嵐が吹いている。
 労働者のデモに遭遇したチャップリンが赤旗を拾ったことからリーダーと勘違いされて投獄され、刑務所の脱獄を防いだことから早く出所した直後、浮浪少女ポーレット・ゴダードと知り合う。彼女は得意な踊りでカフェに勤め始め、そのツテで彼もウェイター兼歌手として雇われるが、鑑別所からの追跡が少女に及んで二人で手を取って逃げる。

チャップリンは本作以前それ程強烈な風刺を全面に押し出した作品を作っていたわけではないが、本作から痛烈な風刺を行うことになる。
 豚の集団と出勤ラッシュ風景をオーヴァーラップさせる開巻から強烈で、そうした人々が勤める或る工場が最初の舞台である。チャップリンが余りに速いスピードでナットを締めているうちに止まらなくなり丸いものを見ると何でも回したくなるのは効率化の名の下に行われる人間疎外の風刺、自動食事マシーンでの騒動は来るべきオートメーション社会への風刺、社長がモニターで工員を監視するのは来るべき管理社会への風刺であり、一種の近未来SFである。
 今更ながらチャップリンの至芸に唸った。笑わすことができて初めて風刺も生きてくる。

1929年の世界恐慌に始まる不況は暫く世界的に続いて、ドイツでヒトラーの台頭を招いているが、その不況が作品の底流にある。これは風刺というより実社会の反映と言った方が正しい。デモ、赤旗、スト、失業、浮浪児・・・笑いにつつんでいるが、管理社会への風刺と共に、巧みな構成によりずしりと心に迫って来る重みが醸し出され、最後に望みを繋いで二人で手を取り合い顔を上げて歩き出すという素晴らしい幕切れに繋がって行くのである。

チャップリンはパントマイム的な芸で楽しませた映画人であるので、トーキーが導入されおよそ8年後の本作でもサイレント形式に拘っているが、カフェで出鱈目な言語による歌により初めての発声としたのは余りにも有名。その場面で徹底したパントパイム芸を披露しているのは、結果として判断するに、浮浪者チャーリーの見納めという気概の流露だったのではないか。

ポーレット・ゴダードは当時の夫人。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 2

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
ナイス

この記事へのコメント

トム(Tom5k)
2006年12月10日 22:10
>オカピーさん
わたしとしては、チャップリンの作品では最も好きな作品です。映像もトーキーへの妥協も放浪者チャーリーへのこだわりも、最大限に努力されている。そして、何より社会派チャップリンの本格デビュー作品です。社会の諸矛盾を真っ向から、とらえたチャップリンの勇気に感動します。映画史というものを超え、文化史・芸術史に残る作品ですよね。
この後のチャップリンの飛躍も素晴らしいですが、過去の放浪紳士を総括したことで考えると彼の映画人としての節目の作品だと感じます。
では、また。
オカピー
2006年12月11日 02:30
トムさん、こんばんは。
欧米での評価はかなりまちまち、全般的に余り良くなかったようです。アメリカでは社会主義的だと嫌われたのでしょうし、それに加えフランスではルネ・クレールの「自由を我等に」の盗作疑惑(ナンセンス!)も絡みました。チャップリンを最も正当に評価したのは、優れた批評家の多かった日本だったようです。
私はある時期までの日本の映画批評家のバランスの取れた審美眼を高く評価しているんですよ。
「赤旗を拾って投獄」という場面は、戦後チャップリンが赤狩りで追放されることを暗示するようで、大変恐いです。
トム(Tom5k)
2006年12月12日 17:30
>オカピーさん、どうも。
>チャップリンを最も正当に評価したのは、優れた批評家の多かった日本だったようです
これは、あまり知らなかった。
日本という国もあながち棄てたものではないですね。
素晴らしいことだと思います。
>「赤旗を拾って投獄」という場面は、戦後チャップリンが赤狩りで追放されることを暗示するようで、大変恐いです
おっしゃるとおり、わたしも恐い、ハリウッドテンの事件など、現在でも起こりうるものだと思います。
アラン・ドロンで2本撮っているジョセフ・ロージーもその渦中にいた演出家ですし、ヴィスコンティも「若者のすべて」で相当痛い目にあい、その後、現代劇はほとんど撮っていません。
その勇気に拍手、など悠長なことを言っているレベルではないですよね(わたしは良く言っていますが)。
こういった恐いことが、世の中から無くなりますように!
では、また。
オカピー
2006年12月13日 03:57
トムさん
2年前に本館で「日本の評論家は馬鹿で、黒澤明を最初に評価したのは外国人だった」などというデタラメを聞いて、激昂致しました。事実と全く違いますから。

日本の評論家は勿論黒澤明をデビュー作の「姿三四郎」からきちんと評価しましたし、アメリカでは現実と違うと散々だった「ダーティハリー」の映画としての美しさを評価し、イギリスでは「70mmで撮る映画ではない」と酷評されデーヴィッド・リーンを絶望に追い込んだ「ライアンの娘」をきちんと評価し、フランスのデュヴィヴィエをルネ・クレール、ジャン・ルノワール、ジャック・フェデーと同格むしろそれ以上に評価しました。

彼らの目は間違っていたかと言えば、結果から判断してNOです。寧ろ欧米人が間違っていました。
しかし、最近の日本の批評家は価値観の多様に甘えて好き勝手なことを言っていて、どうもまずいです。尤も世界的なことかもしれませんが。
ぶーすか
2006年12月13日 15:59
こんにちはーTBさせて下さい。チャップリンの長編作品では1番好きな作品です。食事マシーンには何度観ても大笑いしてしまいます。「自由を我等に」未見です。宿題リストに書き込まなくては…メモメモ…。
オカピー
2006年12月14日 02:05
ぶーすかさん、こんばんは。
笑えることが肝要。笑えない風刺喜劇は、○リー○を入れないコーヒーみたいなもんです(笑)。

「自由を我等に」はまだ映画鑑賞の力が全くついていない時分に観ただけなので、どうだったかな。勿論映画史的には「モダン・タイムス」と同じくらい重要な作品ですが。
十瑠
2006年12月14日 16:05
TBは受け付けないように設定しましたが、どうやらコチラからは出来るようです。なんだか申し訳ないですが・・・。

70年代のサイレントのリバイバルブームの最初に観た思い出深い作品です。今となっては、ポーレット・ゴダードの演技もそれまでのサイレントの女優の演技とは少しばかり趣が違うように感じますね。
オカピー
2006年12月15日 02:02
十瑠さん、いやいやご遠慮なく。

私もその当時観ました。多分これが最初でしたでしょう。
>ポーレット・ゴダードの演技
そうかもしれません。サイレント時代は音声がない分オーヴァーアクトが必要でしたが、本作の彼女の演技は、台詞はなくても半ばトーキー的な印象があるように私も思います。
晴雨堂ミカエル
2009年10月26日 15:34
 この映画は、21世紀初頭の現代でもかなりタイムリーです。主人公は派遣切りにあった工員とかなりダブりますね。単純作業しかやったことがないので、何をやってもつづかない、というか。あんなタイプの工員を見たことがあるので笑えません。ヘマのしかたも、典型的な注意欠陥障害です。

 評論家たちは、政治的問題に巻き込まれるのを恐れてワザと本質をはぐらかし「機械化文明風刺」だと言い張っているように聞こえます。
オカピー
2009年10月27日 00:28
 晴雨堂ミカエルさん、TB及びコメント有難うございます。

 色々な風刺があるように思いますが、チャップリンが一番主張したかったのは恐らく、過酷な労働による人間疎外と失業問題でしょう。
 従って、仰るように、寧ろ1970~80年代より現在にこそタイムリーなお話になっていますね。

>ワザと本質をはぐらかし
 少なくとも最初に公開された当時はそういうことだったでしょうね。
 そもそもカットなしに公開されたのが不思議なくらいですが、喜劇ということで検閲官も見抜けなかったのでしょうか?

この記事へのトラックバック

  • 「モダン・タイムス」「チャップリン 世紀を超える(NHKハイビジョン特集)」

    Excerpt: ●モダン・タイムス★★★★★ 【NHKBS】チャップリン特集第1弾。名曲「スマイル」が泣ける名作。数々の名シーンの中で、特に食事マシーンの暴走が大好き。 ●チャップリン 世紀を超える★★★ 【N.. Weblog: ぶーすかヘッドルーム・ブログ版 racked: 2006-12-13 15:40
  • モダン・タイムス #302

    Excerpt: 1936年 アメリカ 83分 チャップリン映画 機械工場で流れ作業をする工夫チャップリン。いつの間にかネジを締める動作が止まらなくなって、同僚の鼻を締めてったり、ベルトコンベアに挟まって歯車の間.. Weblog: 映画のせかい2 racked: 2006-12-14 07:54
  • モダン・タイムス

    Excerpt: (1936/チャールズ・チャップリン監督・製作・脚本・音楽/チャールズ・チャップリン、ポーレット・ゴダード、チェスター・コンクリン、ヘンリー・バーグマン/87分) Weblog: ::: SCREEN ::: racked: 2006-12-14 15:29
  • 『モダン・タイムス』この映画を見て!

    Excerpt: 第142回『モダン・タイムス』  今回紹介する映画は喜劇王チャールズ・チャップリンが機械化が進む資本主義社会の労働者の悲哀をコミカルに描いた『モダン・タイムス』です。 私がこの作品を始めてみたのは小学.. Weblog: オン・ザ・ブリッジ racked: 2007-02-11 16:31
  • 絶望から脱出しよう 21 「モダン・タイムス」

    Excerpt: 「モダン・タイムス」  チャップリンは 機械化文明だけを風刺したのではない!   【原題】MODERN TIMES 【公開年】1936年  【制作�... Weblog: ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋 racked: 2009-10-26 15:35