映画評「ブリット」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1968年アメリカ映画 監督ピーター・イェーツ
ネタバレあり

セミ・ドキュメンタリー刑事映画の傑作で、このところよく観ている。

映画の歴史を紐解けば、「裸の町」が全編ロケを敢行した最初のセミ・ドキュメンタリー刑事映画だったわけだが、「ダーティハリー」「フレンチ・コネクション」の生まれる土壌を切り開いたのは本作であろう。

サンフランシスコ、功名心にはやる上院議員(ロバート・ヴォーン)が、シンジケート絡みの公聴会での重要証人として一人のギャングを保護、ブリット(スティーヴ・マックィーン)ら3人の刑事が交替で護衛することになるが、一番若い刑事の番の時に組織の殺し屋が訪れ、二人をショットガンで銃撃。
 ブリットは証人が死んだことをひた隠しに捜査を進めた結果、殺された証人が偽物であることを知り、偽者の妻を殺して高飛びをしようとした本物を空港で射殺する。
 犯人とつるんだ上院議員は、恐らく、破滅するであろう。

リアリズムである。ハードボイルドである。
 監督ピーター・イェーツは従来のドラマ性を一切排し、作為的な情緒醸成を避け、あるがままの情景を取込むことに徹底した。
 省略すべきは省略しているが、各場面の描写は極力省略せずに実際の時間と極めて近い感覚で進行させている。一見無駄に長いようだが、そこに現実感を生み出す秘密がある。

その演出が最も効果を発揮しているのが、映画史に残るカーチェース。
 ヒッチコックの「めまい」でも活躍したサンフランシスコの坂に始まる猛烈なもので、ブリットの乗るムスタングが殺し屋二人組の乗る黒いダッジを追う。
 この作品からカーチェースを売り物にする刑事・犯罪映画が粗製乱造されることになるが、写実的に描いているので今となっては一見そう派手ではないものの、CGを駆使した最近のアクション映画には味わえない手応えのあるカメラワークに痺れてしまう。
 例えば、犯人の車が十字路に置かれた白い車に衝突するところを前方から接写し、次のカットでは後方からムスタングがその車の横を激走するのを捉える。CGが映画界を席巻した今、こういうカットの組合せはない。凄いねえ。

ニューシネマは「俺たちに明日はない」に始まったと言われるが、この作品の冷徹さはそれがいよいよ本格化したことを感じさせる。マックィーンも断然格好良い。

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この記事へのコメント

viva jiji
2006年10月03日 16:07
「ダーティー・ハリー」も、もちろん、素晴らしいのですが、イーストウッドはS・マックイーンの「色気」には負けます。この方の色気は生々しくなくて大変よろしい。彼の私生活でのお好みはネイティヴ・アメリカン系の女性がお相手でしたがスクリーンでは本作でのJ・ビセット、「華麗なる賭け」のF・ダナウェイなどゴージャス美女を向こうに回して一歩も引けをとらないマックイーン。ビセットを見つめるあの瞳!ゾクッと来ますわ~。(笑)
TBさせていただきました。
オカピー
2006年10月04日 03:19
viva jijiさん
父親は「ルパン3世だ」だなんて言っておりました。確かにショートヘアで似ていないこともないですが、ちょっと苦笑。50年代は映画を観たなどと豪語しているくせに、TVを買って以来映画館など行ったことがないので、マックィーンも知らないんです。

それから、街を歩く住民の姿が違いますねえ。今はビヤ樽ばかりですが、当時は皆さんスリムだった。げに恐ろしきはジャンクフード。

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