映画評「夢」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1990年日本=アメリカ映画 監督・黒澤明
ネタバレあり

公開当時のレビューです。

80年代に入ると海外の映画人に支えられて世界の大巨匠・黒澤明に接する機会が70年代よりぐっと増えた。喜ばしいことではあるが、一方で、日本人としてこれほど恥ずかしいこともない。
 本作もスティーヴン・スピルバーグの製作だが、珍しくも<夢>をテーマとしたオムニバス映画である。

狐の結婚式を目撃する第一話と桃の霊と遭遇する第二話は幼年時代の夢で、鮮やかな色使いが素晴らしい。
 登山で雪女に出会い命拾いをする第三話と中隊長が霊となった部下と再会する第四話はともに不気味だが、第四話の悲しさが印象深い。
 第五話はいかにも美術出身らしい黒澤監督らしくゴッホと出会い、彼の絵画の中を彷徨う。独特の面白さである。
 第六話と第七話では久々に社会派の顔が出て、原子力発電や核戦争の恐怖を訴えている。これらは確かに見過ごせない問題ではあるが、「何を今更」という感がなくもない。
 最後の第八話は異色中の異色である。どことも知れない田舎に辿り着いた主人公が陽気な葬式に遭遇する。時代を超越し東西を折衷したような魅惑的な文化がそこには存在する。何とも不思議な世界ではあるが、巨匠の世界平和への切なる願いが表現されたものなのだろうか。

抜群とは言えないが、びっくり箱を開けるような面白さに満ちた意欲作と思う。

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この記事へのコメント

トム(Tom5k)
2006年09月24日 21:26
オカピーさん、どうも。
実は、黒澤映画にしては評価の低いこの作品を、わたしは大好きなんです。黒澤作品を見始めるきっかけになった作品です。オムニバスということで、黒澤監督は自分の半生を人間の一生という形で描いたもののようですが、実は人類の発達・成長を描きたかったのではないでしょうか?最終章の老人の笠智衆さんの語る達観した人生感もさることながら、あのお葬式の村人たちの歌と踊りには、ジーンと来る感動がありました。

用心棒さんのTBもありますね。早速おじゃましなくては。
では、また。
オカピー
2006年09月25日 02:53
トムさん、こんばんは。
そうですね、若い頃の黒澤作品はアメリカ人好みだと思います。70年代以降は様式美をどんどん強めていったので、欧州人好みになっているかもしれません。
その意味で、アラン・ドロンを愛するトムさんがこの作品が好きなのは解るような気がします。

>人類の発達・成長
ええ、そういう見方もできると思いますね。ただ、核の恐怖については、黒澤ほどの人が今更取り上げなくても良いでしょうし、取り上げるならあのように直截ではなく、もっと暗示的でもよかったような気はします。

トムさんや用心棒さんと酒でも飲みながら、映画談義したいものですね。書くだけでは物足りないものがありますよ
さすらい日乗
2013年05月02日 03:25
この4話の「トンネル」こそ、黒澤明が戦争に行かなかったことの懺悔そのものです。

最後の「水車のある村」の日本共産党と民青の歌声運動、黒澤の底には、昭和初期に自分も参加したプロレタリア芸術運動があり、それが再現されたと見るべきでしょうね。
まあ、幸福なことですが、人生の終わりで理想の民衆に出会えたと言うのは。
オカピー
2013年05月02日 17:31
さすらい日乗さん、こちらにもコメント有難うございます。

>4話
勿論、映画作家を研究しないタイプの映画ファンとしては知る由のないところですが、「静かなる決闘」でのご指摘を受けた後ではなるほどと思いますね。

>プロレタリア芸術運動
これも殆ど知りませんでした。

映画はスクリーンが全てと思っていると「静かなる決闘」でのレスで述べましたが、黒澤明のような映画作家は背景を知って初めて本当の面白さが解るタイプかも知れませんね。

この記事へのトラックバック

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