映画評「雨月物語」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1953年日本映画 監督・溝口健二
ネタバレあり

今回のNHK-BS2の特集からは洩れた「西鶴一代女」(国際賞)に続いてヴェネチア映画祭で受賞(銀獅子賞)した溝口健二の代表作。恐らく映画ファンに投票させたらこれが一番人気のある溝口作品ということになると思う。

原作は未だに読むことができないでいる上田秋成の読本「雨月物語」(1776年発表)の二編「朝芽が宿」「蛇性の淫」で、それをベースにした川口松太郎の現代向け翻案に川口自身と依田義賢が映画用に脚色している。

舞台は戦国時代の琵琶湖周辺。
 陶器が良い儲けになることを知った妻子ある貧農・源十郎(森雅之)が妹(水戸光子)、その夫である藤兵衛(小沢栄)と商品を長浜まで運ぼうとする。狭霧の中を船が進む場面の美しいことよ!
 やがて戦乱を避けて目的に辿り着いた三人は順調に売り捌くが、藤兵衛は侍としての立身出世の野心を捨て切れずに武具を買い、源十郎は臈たけた姫(京マチ子)と出会い骨抜きにされる。
 琵琶湖湖畔で二人が戯れるショットの構図には、高校2年で初めて出会った時圧倒され、「あれは凄いね」と興奮して友人と話合ったことを思い出す。何度見ても幽玄で感動を誘うショットである。

やがて源十郎は姫の正体が幽霊であったことを知り、ほうほうの体で故郷に戻った時妻(田中絹代)は亡き人の数に入っていて、一方藤兵衛も女郎に零落した妻と再会して夢から覚める。

身分不相応な夢を見ることを戒めるような内容になっているが、ジャン=リュック・ゴダールをして「涙が出て来る」と言わしめた水墨画のように美しい宮川一夫の撮影が圧巻である。
 物語にも勿論凄みがあるのだが、源十郎が姫の死霊から解き放たれた後再び妻の亡霊に出会うという設定にはくどい感じがあり、些か気に入らない。その後亡妻の声を入れたのも暑苦しい印象を残す。

その他は満点と言って良く、いつも溝口作品では女優陣に比べて影が薄い男優陣も大いに宜しい。特に森雅之の魅力は格別。京マチ子の壮絶な美しさ。「羅生門」の強力コンビの再現でもあった。

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この記事へのコメント

ぶーすか
2006年09月08日 16:10
「近松物語」ももちろん好きですが、やはりこれが私のベスト1です。ゴダールじゃないけど、見る度にその美しさに泣けてしまいます。
オカピー
2006年09月08日 23:45
ぶーすかさん、こんばんは。
「雨月」と「近松」では完成度としては僅差と思われますので、好みの差となりますね。その時々の気分でも変わりますし。
本文でも書いたように、映像の「雨月」、物語の「近松」という印象は基本的に変わりません。
現象
2006年12月29日 20:59
オカピーさんこんばんは。先日、上映時間を間違えて「西鶴一代女」を見逃してしまいました。いまだにショックですが、それから一週間後に本作はしかと時間を調べて鑑賞に至りました。結構早めに行ったつもりだったものの、かなりの混みようで良い席が取れませんでしたが。溝口人気はやはりすごい。宮川カメラもまたすごい。生半可な気持ちで鑑賞に臨んではいけない気がしました。
オカピー
2006年12月30日 03:15
現象さん、こんばんは。
学生時代には毎日のように行っていたフィルムセンターですが、それほど混んでいるとは用心棒さんが嘆いていた溝口人気も捨てたものではないようですね。

黒澤明が完全主義で有名ですが、溝口のそれも凄まじかったようで、特に脚本家はきつかったでしょう。自分で余りお書きにならない人でしたから。でも、そうしないとこれだけ鬼気迫る作品は残せませんよね。

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