映画評「ファミリー・プロット」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1976年アメリカ映画 監督アルフレッド・ヒッチコック
ネタバレあり

アルフレッド・ヒッチコック長編第53作にして遺作。

初めてこの作品に触れた時ヒッチ御大はまだ健在で、76歳にしてこれだけの傑作を作ったことに対し敬意をささげたものであるが、それから1年ほどしてサスペンス映画の神様は天国に召された。既にその話術に魅了されていた僕は涙を流して悔しがったものであるが、それから早くも26年もの月日が経とうとしている。

40年もの間行方をくらましている甥に遺産を継がせようと富豪の老嬢がいんちき霊媒師バーバラ・ハリスに調査を依頼する。彼女は恋人のタクシー運転手ブルース・ダーンと組んでその甥を探し始めるが、宝石商を営む当の本人ウィリアム・ディヴェインとその妻カレン・ブラックは探し回されるのが迷惑千万で、追いかけてくる二人を殺そうとする。

この作品の第一の面白さは、大きな幸運を持ってきた二人を宝石商夫婦が躍起になって殺そうとするとんちんかんな騒動、即ち、一種のブラック・ユーモアにある。このポイントを理解しなくてはこの作品の楽しさは味わえない。

話術は全編に冴え渡るが、特にヒッチコックならではの話術と言うべきは、序盤老嬢宅からの帰りバーバラとダーンが車に乗っていると、車の前を横切った黒づくめの金髪女と危うくぶつかりそうになる、という場面である。実はこの女性こそカレンで、映画の視点は巧みにこの女性と夫のほうへ移っていく。鮮やかなるかな、ヒッチ! 後に深い係わり合いが出来る二組が序盤ですれ違っているというのも妙味である。

カレン・ブラックの名の通り本来黒髪の(ジョークです)カレンが金髪なのは変装の為のかつらであるということはすぐに判明するが、若かりし僕は、金髪美女がお好きなヒッチコックのパロディー精神の発露かなと思ったものだが、それは考えすぎかもしれない。

バーバラ・ハリスがカメラ即ち観客に向かってウィンクするラストは僕のお気に入りで、この作品の彼女は愛嬌があって実に魅力的だった。相棒となるブルース・ダーンも気に入ったが、最近では娘のローラ・ダーンのほうが目立ちます。

僕はヒッチコックのフィルモグラフィーの中でもなかなか優れた作品と思っていて「鳥」以降の5作の中では勿論ベスト。世間一般に余り知られていないのは惜しい。

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この記事へのコメント

んごり
2006年01月10日 18:34
TB返しさせていただきました。
かよちーの
2006年01月10日 23:25
こんばんは!さすがオカピーさん。
この作品は、わたしの中で忘れやすいヒッチコックの中でも覚えていてかつ何でも観てしまう一本です♪
オカピー
2006年01月11日 15:06
>んごりさん
初めまして。素早いTB返し有難うございます。自称ヒッチコック研究家です、今後とも宜しくお願い致します。

>かよちーのさん
こんにちは。
本作はもっと一般に知られても良い作品ですが、「鳥」や「サイコ」のような強い刺激はないですからね。でも、巧い。
そちらにもお邪魔致します。
FROST
2006年07月16日 00:58
TB遅くなりました。ヒッチコック監督ラストを飾る粋な作品でよかったですね。ヒッチコックがまだまだ元気で作品を作り続けていたら、こういうコメディ路線に変わっていたんでしょうか。後何本かこういう作品を観てみたかったです。
オカピー
2006年07月16日 14:43
FROSTさん、ひとまずヒッチコック特集完了おめでとうございます。
本作は傑作と言うべきですが、洒落の解らない連中がひしめき合っている最近の映画批評の世界、Imdbでの評価は6点台ですよ。コメディー・タッチということが災いしているのでしょう。この当時の日本の評論家は実に優秀で、「スクリーン」誌では年間8位くらいに入っています。「キネマ旬報」ではちょっと無理。やはり明治・大正生まれの本物の映画批評家は粋ですね。今の批評家は頭でっかちで、てんであきまへんわ。
何度も言いますが、傑作です。

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