映画評「ようこそ映画音響の世界へ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2019年アメリカ映画 監督ミッジ・コスティン
ネタバレあり

今月のWOWOWはヴェネツィア映画祭特集などで結構充実している(かつ長い作品が多い)ので、5本特集される映画絡みのドキュメンタリーを全部観るのはなかなか難しい状況なのだが、配信が残っていれば全部観ておきたい。

初日の本作は、縁の下の力持ちである(映画音楽を含む)音響関係の歴史とその実際を扱ったもの。五日目の「すばらしき映画音楽たち」よりもぐっと裏方の話で、ブライアン・デ・パルマ監督「ミッドナイトクロス」(1981年)で扱われた自然音の採取なども扱われる。

当初は映画史の趣きで、サイレントからトーキーへの移行などはよく知られるところだが、60年代に普及したビートルズなど音楽界のマルチ・トラックやミュージック・コンクレートの手法が映画界に導入されていく70年代中盤から俄然面白くなる。

それより少し前フランシス・フォード・コッポラ監督「雨の中の女」(1969年)から可能になった自然音の同時録音、アルフレッド・ヒッチコック作品を継ぐような「ゴッドファーザー」(1972年)での音響の心理効果の話も興味深いが、「ゴッドファーザー」がモノラルであったというのは(この間再鑑賞したばかりだが)少々意外である。というのも映画のステレオ自体は50年代からあったので。
 そして、大体においてジョージ・ルーカス監督「スター・ウォーズ」から映画がドルビー化(5.1チャンネルなど)されていくのである。また、「スター・ウォーズ」(1977年)ではSF映画の伝統を破って電子音を使わない、キューバッカの声がクマであるなど、色々楽しいお話が聞ける。
 現在の映画の音響は、音楽と同様に何十トラックあるか解らないミキサー(音楽は32トラック)を使ってミキシングしている。

映画史的な観点では、総じて、ヒッチコック、スタンリー・キューブリック、コッポラ、ルーカス、スティーヴン・スピルバーグ、デーヴィッド・リンチなど優れた映画監督は、音響の使い方にも鋭敏である(翻せば音響に鈍感な監督は真に優れた監督にはなれない)というところに収斂していく。

映画として印象的なのは、それぞれの音響担当者が実に楽しそうに話をしていること。最近ではクレジットに必ず名前が出るとは言え、誰も憶えてくれそうになくても楽しみ或いは苦しみながら仕事をしている姿には映画ファンとして嬉しくなる。

あだや疎かに映画を観たり、その音響を聞いたりしてはいけないと反省しきりの僕であります。

女性の活躍に言及する終盤の一幕が蛇足。実際女性が多数登場するのだから、そんなことは見れば解るっちゅうの。散文的で極めて無粋。多様の名においてこういうことを言わないといけないというのは、映画の作り方は少しも多様性が許されていないということ。矛盾も甚だしい。

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