映画評「シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2018年フランス=ベルギー合作映画 監督ニルス・タヴェルニエ
ネタバレあり

不勉強で全く知らなかったが、 “シュヴァルの理想宮” はフランスの重要建築物の名前らしい。

1870年代からお話が始まる。
 妻を失い、極度の内気である為、息子を親戚に引き取られたシュヴァル(ジャック・ガンブラン)は、仕事である郵便配達に懸命に勤しむ。ある時若い未亡人フィロメーヌ(レティシア・カスタ)と知り合い再婚し、娘アリス(成長時ゼリー・リクソン)を設ける。
 配達中に奇妙な石に躓いた彼は、その形に触発され、以前新聞で読んだアンコール・ワットのような宮殿を、愛してやまない娘の為に作り始める。娘もそんな奇人の父親を愛するが、肺の病か何か(栄養不足による肺結核か?)でローティーンのうちに亡くなってしまう。
 捧げる相手を失い暫く茫然とした彼は、妻の一言で再び懸命に無手勝流に建築を続け、成人して子供も設けた息子シリルも近所に越して来る。その頃からこの建物に興味を持つ記者や冒険家などが現れ、注目を浴び始める。
 かくして、シリルも亡くした後、33年の年月を経て宮殿を完成させると、今度はアリスの為に独自の墓を作り始める。

内向的な性格、一つの物への凝りようは、アスペルガー症候群に近いものを感じさせる。とは言えそうした病気の典型でない一方、菊池寛「恩讐の彼方に」において青の洞門を作った禅海のような目的意識もなく、内的欲動に突き動かされたと言うしかないような感じである。

しかし、その事実関係はともかく、内向的で子供すら取り上げられてしまった彼が、生まれて初めて本格的な愛情を覚えた娘の為に建築を進めることで、他人に対する門戸を開いて行ったというのが、実話を離れた、本作のドラマ展開上の隠し味のような気がする。
 相変わらず言葉は少ないが、 "感情がないのでは?" という序盤に批判された見た目がいかに真実から遠いかということが進行するに連れ明らかになっていく。最後には、その言葉を吐いた女性もすっかり見直している様子を見せる。

そうした推移を才人ベルトラン・タヴェルニエ監督の息子ニルスは、非常に即実的な、しかし、冷たく感じさせない描写のうちに表現する。これは端倪すべからざる才能ではないかと思う。
 美しい南仏の風景も取り込み、生活詩的映像詩として見ることができる。極端に言えば、表面的に語られる物語より、画面に心情を沈潜させる表現に感服してやまないのだ。

どなたかも仰るように、近年の欧州映画には全く珍しくメッセージ性の少ない、純度の高い貴重な映画である。主人公の性格もあって、ここまで控え目で、台詞の少ない(しかし、これ以上の説明は不要)フランス映画は近年珍しい。

【Yahoo!映画】をよく利用するが、若い人が多いらしく、映画鑑賞における民度が低くてがっかりさせられる。この映画に限らず、説明が足りない、何が言いたいか解らないといった批判によく突き当たる。しかし、その批判は的を射ていないことが多い。TVドラマの説明過剰に慣れた彼/彼女の読解力が足りないだけなのだ。

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