映画評「宮本から君へ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2019年日本映画 監督・真利子哲也
ネタバレあり

一切読んだことがないと言っても良いくらいコミックには縁がないので、新井英樹によるこのコミックは名前すら知らない。 Wikipedia に当たったところ、真利子哲也監督が同じキャストで、原作の前半部分をTVで、(TVでやるには憚れる描写の多い)後半部分を映画で映像化したようである。

余り指摘する人はいないが、映画版は一種のミステリーとして作られている。ドラマのミステリー化と僕が20年に名付けた手法である。以下の如し。

サラリーマンの宮本浩(池松壮亮)がボコボコにやられて、知り合いらしい中野靖子(蒼井優)の手当てを受ける。何故こういうことになったのか最初から説明していくのである。
 しかし、それも相当解りにくい作り方をしている。というのも現在と過去とを割合頻繁にかつ唐突に往来するからである。この映画が一種の謎解きとして進んでいるのが明確に解るのは、彼が地方の既に妊娠している靖子の家に結婚申し込みに行った時に、この結婚にただの妊娠以上の曰くがあると思わせる二人の会話から。

以降、観客は大分落ち着いて観られることになる。

まだ昵懇の仲になる前、会社の先輩の知人たる靖子の部屋にいる時に女癖の悪い風間裕二(井浦新)という前の恋人が現れ、真面目な宮本が勢いで“この女は俺が守る”と彼に宣言したことから懇ろになっていく。しかし、取引先の関係者が作るラグビー・クラブに関係した後、メンバーである大学ラグビー部員真淵拓馬(一ノ瀬ワタル)に犯された靖子は、疲れで眠り呆けてそれに気付きもしない宮本に失望、絶縁を宣言する。
 複雑な思いに駆られた彼はとにかく体の大きさからして二倍くらいある大男の拓馬を追い回して何度も向っていき、相手をフルチンにさせる珍作戦(偶然?)で形勢を逆転して倒す。絶望感に苛まれる靖子は、彼が頑張り続けることにすら空しくなるばかりなのだが、その言動の激しい迸りがやがて頑なになった彼女の心を溶解させていく。

これがミステリーの解答である。

では作品の心は何かと言えば、主人公の “いつも真剣すぎるくらい真剣” ということにあるだろう。古風なタイプとも言いたくなる宮本の人間像が白け時代の現在に在っては却って新鮮かもしれない。相手になる靖子も天邪鬼だから彼の極度の真剣さにも安易に心を動かされない(まあ、そういう振りをしているのだろう)から、激しいやり取りをすることになって、時に暑苦しすぎる嫌いも出て来るものの、二人に扮する池松壮亮と蒼井優の熱演は見事。

暴力をメインテーマとした真利子監督の前作「ディストラクション・ベイビーズ」同様或いはそれ以上に、暴力場面の処理にパンチがある。

真利子哲也なんていうから、男女の漫才コンビかと思いましたよ。by 映画音痴

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