映画評「軍旗はためく下に」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1972年日本映画 監督・深作欣二
ネタバレあり

百田尚樹の「永遠の0」は本作の原作である結城昌治の同名小説を、最近の若者風に言えば、パクったと思われる。少なくとも読んでいると思う。主題は120度くらい違うが、ミステリー趣向の構成は相当似ている。

終戦から26年後の昭和46(1971)年8月15日。戦争未亡人の左幸子が厚生省を訪れ、例年同様に戦没者遺族年金を請求するが、夫・丹波哲郎は終戦後上官により敵前逃亡のかどで死刑になったことを根拠に、昭和27年の年金法成立以来19回に渡り支給を拒否されている。彼女がやって来る理由は、今ではお金ではなく、きちんとした書類がないため夫が果して死刑で死んだのか、或いはその死刑を巡る真実を知る為である。必ずしも放置していたわけではない厚生省の役人は、調査に応答しない4人の個人情報を見せ、聞き出してみたらどうかと提案。かくして、彼女は次々と歴訪することにする。
 敵前逃亡による死刑ではなく戦死したと主張する三谷昇、じゃがいもを盗んで殺されたとする関武志、人肉を取引して処刑されたと言う元憲兵・市川祥之助、上官・江原真二郎を殺したかどで死刑になったと主張する内藤武敏、という具合にまるで「羅生門」状態で、彼女は混乱するばかり。
 内藤の言葉から彼を死刑にした元大隊長(?)中村翫右衛門を訪問、その結果、瀕死で横たわっていて参与できなかった三谷が彼らの上官殺しを認めた為に死刑が起ったことが判明、三谷が遂に真実を詳細に語る。

日本映画らしく、どちらかと言えば、怒りを狂気に満ちた軍隊に向けた反軍映画で、結果的に強烈な反戦映画となる。同じ1972年に元軍人(渥美清)が戦死者遺族をその遺書を持って訪れる歴訪型の反戦映画「あゝ声なき友」があり、好一対を成している。ベトナム戦争が泥沼化している時代で、日本で反戦意識が一番高かったのがこの頃ではないかと思う。横井庄一氏が帰って来たのもこの年である。

この二作に比べると、構成が似ているだけの「永遠の0」は実に甘っちょろい。戦争の悲惨さはあっても戦死者に対するヒロイズムに噴飯したくなる。映画版を見る限り好戦的な内容とは言えないが、ヒロイズムは結局戦争賛美の考えに傾きがちなので、見方・読み方を誤ると危険である。21世紀に入る頃から、日本の戦争映画はヒロイズムに傾き始めた。頭の良い若者ならそこに戦争の怖さを見出すだろうが、そうでない方は戦争は格好良いなどと思いかねない。

本作に戻る。
 以前観たと思っていたが、内容が全く記憶にないので、初見だろう。とにかく凄まじい。食人まで出て来る。しかるに、目的はセンセーション(煽情)ではなく、事実、描写はそこまで酸鼻を極めているわけではない。寧ろ、証言者の語りにより想像を掻き立てられ、画面で見せられる以上の酸鼻さに圧倒されていくのである。

Allcinemaのコメントにもあるようにもっと正攻法にがっちり見せたほうが良かったのかもしれないが、深作欣二監督らしくスローモーション、ストップモーションを使った断裁的・即実的な描写が凄い迫力を生み出す。映画ファンであれば必見。

文書の重要性が訴えられ、法制化もされているのに、政治家や役人の行動は真逆。文書が燃やされた為に日本の戦前に関して検証できないことが多いのに。コロナに関しても記録を積極的に残そうとしない。人間の行動原理に照らせば、責任回避ということなのだろうが、事が国民の命に関することだけに、書類は全て残しオープンにするがよろしい。

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