映画評「お嬢さん」(2016年)

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2016年韓国映画 監督パク・チャヌク
ネタバレあり

「お嬢さん」という題名の邦画は3作あって、一番有名なのは1930年の小津安二郎監督作品だろう(が、散逸して見られないはず)。こんな邦画のようなタイトルになったのは、大いに日本が絡んでいるからかもしれない。

韓国映画界の中で無条件で観る価値のあるパク・チャヌクが、英国の閨秀ミステリー作家サラ・ウォーターズの近代ミステリー(ヴィクトリア朝が舞台だから近代。この時代のことを中世と言う人がいる。西洋史の中世はローマ帝国の分裂から15世紀の神聖ローマ帝国滅亡まで、若しくはルネサンス勃興まででも良いだろう。それから産業革命勃興までを近世、それ以降第一次大戦までを近代とするのが一般的)を映画化したサスペンス。監督は1930年代日本が統治していた頃の韓国と日本に舞台を移している。

済州島生まれの詐欺師ハ・ジョンウが日本人富豪令嬢キム・ミニから彼女が結婚と共に相続する財産を巻き上げる計画を立てる。自らを伯爵と偽称して接近、犯罪団に属する孤児の少女キム・テリを由緒ある日本人家庭に使えていた侍女として送り込み、深窓の令嬢が偽伯爵になびくように誘導させる。が、テリはいつのしか彼女に傾倒し、ハに優しく扱うように頼むようになる。かくして偽伯爵と令嬢は日本で結ばれるが、実は騙されていたのはテリのほうで、自分を侍女と思い込む若奥様とされて精神病院に送り込まれてしまう。

というのが第一部のお話。第二部はキミ・ミニのアングルから第一部の物語が繰り返され、種明かしがされる。主観が別の人間だから撮影のアングルも変わる辺り大いに楽しめる。それだけでなく、ここにおいてさらに逆転があるという種明かしがある。実はミニとテリの二人は同性愛関係に陥っており、実は全てを知り合った二人でつるんで詐欺師を騙すのである。二人の目的が実現するのが第三部。

という構成で、コン・ゲームの面白さを見せるのが表向きの狙いであろうが、監督が真に見せたかったのは一族の奇妙な生活ではないだろうか。
 彼女を育てていた叔父さんがエロ趣味の変態紳士で、無数の春本を隠し持っていて、自殺する叔母や姪にそれを読ませて客人に聞かせ、春本を高価で売ったりもする。その為家には色々な仕掛けがある。パク監督は家の構造を実に映画的に面白く見せる。家の構造がお話を楽しくする作品がサスペンスに多くあるが、これもまたその一つに数えて良いだろう。

全体としては、ちょっと「ツィゴイネルワイゼン」(1980年)の鈴木清順を彷彿とする耽美趣味ぶりで、多重の襖は同監督「刺青一代」(1965年)を想起させるも、ある人によると成沢昌茂監督「四畳半物語 娼婦しの」(1966年)という作品へのオマージュらしい。僕は題名すら知らなかったデス。パクさん、日本映画をよく勉強していますな。

日本人若しくは日本人に見える朝鮮人という設定の割に日本語の発音とイントネーションにおかしいところが多々あり、時に聞き取れず、お話の正確な理解を求めるとやや不満が出てくるが、話が解らないというほどではない。パク監督としては演出だけ担当したアメリカ映画「イノセント・ガーデン」と脚本だけ担当した「荊棘(ばら)の秘密」とを合体させたような内容で、両者に満足できなかったところを本作で実現した感じがする。耽美主義に理解がある人にお勧めできる野心作。

有名な「四畳半襖の下張」は永井荷風の作とwikipediaでは断定されているが、実際のところどうなのだろう?

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