映画評「ブリッジ・オブ・スパイ」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2015年アメリカ映画 監督スティーヴン・スピルバーグ
ネタバレあり

ドラマを撮るとスティーヴン・スピルバーグは何故か実話ものとなる。本作のテーマは冷戦であり、戦時中のヒューマニズムを扱った「シンドラーのリスト」系列と言って良いだろう。

1957年ニューヨーク、画家を装っていたロシア系(民族的にはドイツ系)英国人ルドルフ・アベル(マーク・ライランス)が逮捕される。保険専門の弁護士ジェームズ・ドノヴァン(トム・ハンクス)が国選弁護人に選ばれるが、敵国スパイを擁護するので国民から白眼視される。そんな中アメリカ人がソ連に捉えられた時の“保険”として生きながらえさせるよう判事と談判し、有期の禁固刑を勝ち取る。
 やがて実際に空軍パイロットのパワーズが墜落しソ連当局に逮捕され、さらに東ベルリンで学生プライスが東ドイツ当局に捕らえられた為、1962年“民間人”ドノヴァンが東ベルリンでの交渉役に駆り出されることになる。

スピルバーグはショット感覚が抜群であり、それを精確な映画文法(カット割り)で繋げるセンスにおいて、現代のアメリカ映画において断トツのNo.1であると思っている。お話がつまらなくても、こうしたところは常に変わりがない。

実話にインスパイアされた脚本も、繰り返し(相似)と対照をうまく作ってなかなか上出来で、その最たるものが、序盤交通事故の加害者VS被害者の関係が、米国VS共産圏(ソ連と東ドイツ)との相似関係として扱われるところに出ている。つまり、被害者が5人いても事故は一件であり、あくまで一件として処理されなければならない、というのがドノヴァン氏の主張。そんな彼にとって一人のソ連スパイと交換するのが二人でも一件の交換なのである。
 終盤交換を成功裏に収めた彼は、戻ったNYで、ベルリンで見たのと似た壁を越える行為を見る。相似であると同時に対照である。かの地では自由への希求(の末の死)であり、この地では自由の謳歌である。これを単独でやると厭らしくなるが、別の相似がある為に巧い扱いに見える。

上手い脚本をスピルバーグが特に巧く生かしているのは、一つは橋における交換場面のサスペンス醸成で、大いにじりじりさせられる。
 それ以上に良いと思えるのが幕切れで、休暇のふりをして出かけた先から帰国した主人公が、TVでの報道を知って驚く家族をよそに、ベッドで眠りこける。それを細君が一見無表情に内心誇らしいように眺める。スピルバーグも上手いが、妻を演じたエイミー・ライアンが上手い。

お話全体は実話でも、作者が「実話にインスパイアされた」と言っているように、終盤は実話から離れた内容になっているように思う。
 アベルの話から主人公はソ連当局に還したアベルの将来を心配せざるを得ない。多分これはヒューマニスティックな内容にしたい作者側の創作であろうし、幕切れの家族の描写など映画ならではである。完全に実話通りでは大方味気ないものになってしまう。金を払って観るのにそれではつまらない。

少し地味で大作らしい醍醐味が薄いが、きちんとした作品が余りに少ないため、星は多めにしておきます。

ブリッジは何か象徴的なものかと想像していたが、本当の橋だった。単純な単語を横文字にするとどうもそういうミスリードを引き起こす。

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