映画評「アリスのままで」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2014年アメリカ映画 監督リチャード・グラッツァー、ウォッシュ・ウェストモアランド
ネタバレあり

15年ほど前「アイリス」という作品があった。英国の有名な女流作家アイリス・マードックが晩年アルツハイマーになって夫君との愛情を確認しあう伝記ドラマで、この辺りから認知症を扱う作品が増え始める。本作はフィクション(原作リサ・ジェノヴァ)らしいが、同作と通底する内容である。

50歳になったばかりの女性言語学者ジュリアン・ムーア(役名アリス)が、講演中に言葉につまり、ジョギング中に方向感覚を失う。心配になって病院にかけつけると、後日遺伝性の若年性アルツハイマーと告げられ、三人の子供たちにも恐怖が伝播する。
 彼女は、記憶が確かなうちに色々と準備をしておき、医学者である夫君アレック・ボールドウィンの協力を得るが、演劇に没頭する次女クリスティン・スチュワートは母親の願いである大学で学ぶことを頑として拒む。が、彼女がいよいよ基礎的な記憶を失い始め、準備をしていた自殺に失敗すると、クリスティンは拠点の西海岸から東海岸の実家に戻り彼女の面倒を見ることを決心する。

病気の映画では「実際はこんなものではない」と批判されがちであるが、作者がその病気の実際を寸分違(たが)わずに描くのを趣旨としている場合はともかく、それを素材にしている場合は映画のレトリックとして理解すべき場合が多い。だから、それに拘ると評価を過る。

本作のテーマは、ヒロインの生き方に焦点を当ててはいるが、煎じ詰めれば、認知症を発症した人物に対する家族の愛情である。それは、幕切れで次女が語った物語について「何のお話だった?」と訊かれて「愛について」と答えるヒロインの言葉が示している。
 愛ゆえに、検査の結果アルツハイマーに確実になることが判った長女ケイト・ボスワースは殆ど躊躇なく双子を出産する道を選ぶ。彼女の産む決意には、母親の尊厳への配慮すら感じられる。出産を決心した時彼女の愛情は生まれてくる子供だけでなく、母親にも向けられていたと思うのだ。難病に堪えそれを超える愛情は、若年性アルツハイマーをかなりの確率で発症する一族に連綿と引き継がれていくのであろう。

本作一番の感動的場面は、既に語ったところをラインマーカーで引きながらヒロインがスピーチをするところで、この場面の感動性があればこそその後為される家族の行為がすべて納得できるのである。

実際に照らせば些か淡泊と思われるが、家族はどう対処すべきか勉強するつもりで見るのでない限り、これくらいさっぱり作られないとやりきれないものになる。

ジュリアン・ムーアの見せる前後の表情の違いに感嘆。アカデミー主演女優賞は伊達ではない。

この映画を見た後母親の夢を見た。現実では異様に我慢強かった母親が「自分はもうだめ(死にそう)だ」と弱気を吐くである。倒れた母を家に入れたところで目が覚めた。

"映画評「アリスのままで」" へのコメントを書く

お名前
ホームページアドレス
コメント