映画評「ストックホルムでワルツを」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2013年スウェーデン映画 監督ペール・フリー
ネタバレあり

欧州のジャズ・シンガーは殆ど知らない。本作はその知らないスウェーデンの女性ジャズ・シンガー、モニカ・ゼッタールンドの半生を描く伝記映画で、収穫と言いたい内容。

1960年代初め、モニカ(エッダ・マグナソン)は交換手として勤めながら一流のジャズ・シンガーとなる夢を諦めきれず、まだ幼い娘エヴァ=レナ(ナジャ・クリスチャンソン)を自身の父親(シェル・ベルィクヴィスト)に預けて時にツアーにも出る。彼女の歌を聞いたアメリカの評論家が気に入った為にアメリカに行き、彼の知り合いのトミー・フラナガンと共演するが、ひどい目に遭う。

僕にとってカルチャー・ショックだったのは、トミー・フラナガン(ピアノ)ほどの大物でも彼女が白人であった為に客が出て行ってしまう場面である。クラブのオウナーも激怒する。白人が黒人の演奏家と共演するなど何事かというのである。
 彼女にとってショックなのは尊敬するエラ・フィッツジェラルドに「歌に心がない」と言われてしまうこと。観念的な発言ではなく、無理して英語で歌うから歌詞の示す場所への思いが感じられないということだ。

これに発奮した彼女は、帰国後知り合ったベッペ(オスカー・トゥンベリ)のスウェーデン語の詩が気に入って歌ったところ“ジャズは英語に限る”の固定観念を破って好評、一躍人気者になる。しかし、欧州各国の歌手を集めて競い合う音楽祭で最下位となるなど、世の習い通り激しい毀誉褒貶にさらされる。

やがて折り合いの悪い父親との娘の奪い合いによる辛さに堪え、一念発起してビル・エヴァンスにテープを送る。

結局これが成功してアメリカでも知られた歌手になるわけだが、映画としては父親と娘との関係を描いた部分が大いに気に入った。
 無理をしないことを人生訓としている父親には向上心がありすぎる娘の行動が気に入らない。シングルマザーとして孫娘をまともに育てられていないという偏見もある。この父がエヴァンスとの共演で成功した娘をさすがに見直して国際電話を掛けるのが頗る良い。父子確執映画のお手本「エデンの東」(1955年)の幕切れを彷彿とする。かの父親は死の床にあってここまではっきりした愛情を示すことはできなかったのであるが。
 母親が大好きなのに祖父との安定した生活を求めるお嬢ちゃんエヴァ=レナの心境も察せられて何気なく胸を打つ。ヒロインが酒に気を紛らす場面もあるが、向上心を捨てず負けん気で酒に溺れなかったようなのは褒めてしかるべし。

しかし、Allmusicによれば、2005年のアパート火災で死亡。死ぬまで現役だった。

この作品ではご本人の歌唱は全く使われず、同国の先輩アン=マーグレットに外見的に少し似たところもある歌手エッダ・マグナソンが全てまかなっている。YouTubeで聴いたご本人よりヘレン・メリルに似ているが、容貌・歌唱共に似ている部類に入る。
 邦題はエヴァンスの代名詞の曲「ワルツ・フォー・デビー」にスウェーデン語の歌詞を付けて歌ったことからの案出(らしい)。

1970年代日初め日本でも少し話題になった映画「私は好奇心の強い女」の監督ヴィルゴット・シェーマンとヒロインが同棲していたというのが映画ファンとして興味深かった。しかし、この映画は1969年製作である。監督さん、何年この企画を温めていたのだろう。

かつて作った我がCD購入予定リストによれば、数年前に「ワルツ・フォー・デビー」の輸入CDを買ったことになっている。しかし、手元にない。どうなっているの?

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