映画評「太陽の帝国」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1987年アメリカ映画 監督スティーヴン・スピルバーグ
ネタバレあり

小学校を卒業する頃兄の友人からSF小説を中心として相当数の書物を貰った。中学になって純文学の狭間で読んでいたが、「燃える世界」と「結晶世界」というのを読んで全くわけが解らずSF嫌いになってしまった。

その張本人(作者)であるJ・G・バラードが少年時代の経験をベースに書いた自伝的小説をスティーヴン・スピルバーグが映画化したのが本作で、大昔映画館で観た時解像度がそれまで観たどの映画とも違う・・・大袈裟に言えば、DVDとブルーレイとの差・・・と感じたものである。本作で一番記憶に残っているのがそれというのも何だが、今回久しぶりに再鑑賞してみると、これがなかなか面白い。

1941年治外法権で守られていた上海の租界に住む英国少年クリスチャン・ベイルが、日本の侵攻により両親とはぐれて彷徨中に捕えられ、軍曹・伊武雅刀を所長とする収容所に入れられる。上流階級出身らしからぬ意外なサバイバル精神を発揮して物流に活躍、闇商人みたいなジョン・マルコヴィッチと親しくなり、年月を重ねるうち日本国が敗戦した為めでたく両親と再会を果たす。

当時の中華民国に生れた主人公は飛行機好きで、日本のことにも詳しい。零戦が優秀であり日本の軍人は勇気があると本来敵国たる日本へ敬意を表すほどである。これが一種のアングルとして面白い効果を発揮しているのだが、その彼の日本への尊敬もアメリカ戦闘機の格好良さに見事に粉砕される。

少年の敬意というアングルを入れたことで日本軍の描写が穏当になった一方、最終的にアメリカ万歳になるので、右寄り・左寄り双方の日本人観客にはすっきりしない印象をもたらすかもしれない。
 当時日米間で起きていた経済摩擦との関連付けが沙汰された記憶があるが、どうも偶然だったようで、原作者バラードはとにかくテクノロジーに対し異常な関心を示していたと聞く。終盤の少年の尋常ならぬはしゃぎようには正にそれがよく現れていて、少年の行動には艱難辛苦のお話の中にそこはかとないユーモアが漂い、笑ってしまう場面が少なくない。

日本に関する描写も概ね問題がなく、伊武が屋外で桶の風呂に入っている場面も収容所という特殊な条件下なので一概に変だとは言い切れない。少なくともサミュエル・ミラーの珍作「東京暗黒街・竹の家」(1955年)における畳の部屋の中に風呂があるといった出鱈目さとは違う。

技術面では、スピルバーグらしい的確なカメラワークとカット割りが群集場面などスペクタクル・シーンに大いに生かされ、印象深い。

クリスチャン・ベイルは達者な演技を披露、子役出身の男優としては珍しく(エリザベス・テイラー、ダイアン・レイン、スカーレット・ヨハンスンなど女優の成功例は多い)スター俳優として健在しているだけのことはある。

バラードの作品はニューウェーブSFと分類されるらしく「初心者は読んではいけない」と後年“通”から言われた。いずれにしても、僕の趣味ではせいぜい戦前のSFどまりでござる。

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