映画評「おくりびと」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2008年日本映画 監督・滝田洋二郎
ネタバレあり

2008年度のアカデミー外国語映画賞を受賞、日本アカデミー賞主要部門を総なめにしたのも記憶に新しいので、改めて紹介するまでもないだろう。

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チェロ奏者として就いたばかりのオーケストラが解散した為に故郷の山形に妻・広末涼子と戻った本木雅弘が、募集広告を見て山崎努が営んでいる納棺業者に面接に行ったその瞬間就職が決まってしまう。
 という序盤は予想と全く違ってユーモラスに進行するが、次第にユーモアの量が減り、トーンは生と死をめぐる厳粛なものに落ち付いていく。

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小山薫堂氏は映画の脚本は初めてらしいが、骨格が実にしっかりしている。
 まず、見事に死者に化粧を施しあの世へと送っていく為に遺族から納棺師が崇められる様子を二回描く。その一方で、葬儀と全く関係のない者からは死体を扱う賤しい職業に従事していると蔑まれる。女学生が死臭漂う本木の方を見るのを発端とし、風呂屋の息子である幼馴染・杉本哲太や妻からも露骨に避けられる。
 こうしたギャップを極めて明確を描いた後に、風呂屋の女将・吉行和子が死んだことにより旧友と妻が二人ともその仕事の崇高さに気付いていく、と進行する辺り実に鮮やかな作劇。昨今の邦画のレベルを考えれば、かなり高水準と言うべし。

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映画はこのテーマを断ち切れない親子の愛情で覆い包むという二重構造になっていて、じーんとさせられる箇所も少なくない。但し、納棺師という職業への感情を描いた部分に比べると映画的にはやや落ちる。具体的に言えば、6歳の時に母と自分を捨てた父親を恨む主人公が死人として発見された父親を最終的には厳かにあの世へ送り出すという物語が、風呂屋の母子の愛憎場面や納棺業者の事務員・余貴美子の告白に挟まれて、解り易く展開されるわけだが、マイナスとは言えないものの、布石の仕方に人工的な印象を禁じ得ないのである。さらに、父の死の代りに妻が新しい生命を宿すという展開に至っては定石的に過ぎ、面白味を欠く憾みあり。

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とは言え、それは極めて高いレベルでの不満であり、敬遠されがちなテーマを神妙になりすぎず抹香臭さも感じさせずに娯楽性高く扱った手腕は見事。また、納棺師の鮮やかな手際は家族への思いやりが美へと昇華している感じさえ抱かせ、構図に腐心した映像のおかげもあって、深い感銘を起させる。

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