映画評「東京タワー  オカンとボクと、時々、オトン」(地上波放映版)

☆☆☆(6点/10点満点中)
2007年日本映画 監督・松岡錠司
ネタバレあり

リリー・フランキーの同名自伝的小説を松岡錠司が映画化。
 2006年にTVムービー化、2007年初頭にTVシリーズ化された後本作が同年4月に公開され、一番最後の登場となった。地上波放映のカット版(恐らく20分程度短縮)故に正確な評価は難しいが、出来栄えを伺うのに支障がある程ではないだろう。

北九州出身の“ボク”は、小学校の時に自由人である父親“オトン”(小林薫)と別居した母親“オカン”と暫く二人暮らしを続けた後3年間の高校学生寮生活を経て上京、武蔵野美術大学へ進学する。怠惰な学生生活を送って留年の末何とか卒業するが、それでも真面目に働かずにサラ金に借金をし母親に金の無心をし続ける。
 が、似顔絵教室で見かけた青年(荒川良々)と同居を始めたことから突然やる気が起き、絵や原稿書きのバイトで借金を完済、遂に“オカン”を呼び寄せる。彼女は彼の友人たちの人気者になるも、九州時代に患った癌が再発し闘病生活に入ってしまう。

という物語が闘病中の現在とのクロスカッティング(カットバック)で展開していくわけだが、それ以外はシンプルな構成で素直に映像化されていると言って良い。

映画技術的にどうのこうの言う前に(勿論ある程度がっちりと作られていることが前提になる)、実家から遠く離れて一人暮らしをした経験のある男性、及びそうした息子を抱えた若しくは抱えている母親にとってなかなか心に沁みるお話ではないかと思う。

主人公より数年早く上京して怠惰な学生生活を送った僕には相当身につまされる部分がある。東京23区内にあったわが大学は入学するのも難関だが卒業するのもなかなか難しいところで、相当真面目に勉強した(前期では日に5、6時間は予習をした)ものの追い付かず最終的に二年留年したわけだが、周囲にはそんな連中がうろちょろ。月5万円の仕送りのうち下宿代に21000円、一月の食事代に15000円程度を費やし、残りの大半を映画鑑賞に当てた。映画鑑賞に当てる時間を考えると学業が厳しくバイトをする余裕は基本的になかった。ムード的に怠惰という共通点はあるが、酒色・女色・喫煙という点では本作の主人公とは対極的な生活を送っていた。
 しかし、母親からの書留を見るとあの時代をいやが上にも思い出してしまう。年一度か二度わざわざ4時間ほどかけて群馬から汚い下宿にやって来て3時間ほど掃除・買い物・料理・洗濯した後また同じ時間をかけて帰っていく母親にいつも心の中で頭を下げていた。たった3時間の為に・・・。
 また、横浜で働いていた僕の姉は「何があってもサラ金には手を出さないでね。足りなかったら私が出すから」と注意してくれた。サラ金という言葉は当時生まれたように記憶している。

閑話休題。

ゆっくり進行する現在の物語と早めに進行する過去の物語を並列進行させる形式の場合過去が現在に近づくとその差が解りにくくなりお話が混濁してくるという難点がどうしても出て来るが、力作「グッド・シェパード」同様本作でもその問題は回避できていない。

しかし、いくらでもお涙頂戴的にできるお話を敢えて松岡錠司監督が抑え気味に作ったことは高く評価されてしかるべし。抑制されたタッチにもかかわらず、少年時代の主人公が母親に手を引っ張られて線路の上を歩くショットに重ねられる、現在の主人公が老いた母親を引っ張って横断歩道を渡るのをじっくり捉えたショットに僕は涙を抑えることが出来なかった。

配役では成人後の“ボク”にオダギリジョーが扮して好演しているが、若い時の“オカン”に扮した内田也哉子が現在の“オカン”樹木希林に似ているのに暫し驚く。容貌だけではなく動作にも似ているところがあり「演技だとしたら大変なものだなあ」と感心していたが、実の娘ということで納得。

血は水よりも濃し。♪母がまだ若い頃 ぼくの手を引いて~

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