映画評「金環蝕」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1975年日本映画 監督・山本薩夫
ネタバレあり

日本の社会派映画の第一人者・山本薩夫は70年代に入って原作ものの大作を発表し続けるが、これは「華麗なる一族」の翌75年に石川達三原作の同名小説を映像化した実話ベースの告発ものである。

昭和39年、与党“民政党”の総裁選で現職の久米明が選ばれ、その懐刀である内閣官房長官・仲代達矢が選挙費用にあてがう為に秘書官・山本学を通して金融王の宇野重吉に借金を申し込んで断られる。
 老人は政界のフィクサーとして乾分たちや小新聞社社長・高橋悦史に、総理も絡んでいるらしい福竜川ダム(実際は福井の九頭竜ダム)入札について探りを入れさせている。
 建設会社社長・西村晃の暗躍や政界の圧力で引導を渡される電力開発公団総裁の苦悩を交え、やがて、民政党の荒くれ者・三国連太郎が自党総裁の絡んだ汚職を暴こうとするが、前総裁の買収による偽証、色恋沙汰に偽装された新聞社社長の殺害、金融王の脱税容疑の逮捕で行き詰った三国は結局党幹部に買収されてしまう。

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自民党・池田勇人政権時代に起きたダム入札を巡る疑獄をモデルに政界・財界の内幕を詳細に、かつ、パワフルに描き出した力作で、見応えがありすぎるくらい。
 同じような社会派ものでも山崎豊子を原作に取った場合、もう少し情が絡んで人間模様の面白さも入ってくるのだが、こちらは徹頭徹尾パワー・ゲームの様相で、ドライで厳しいとも言える代わりに味気ない印象もある。

内容のせいもあり、山本監督のいつもの社会主義的プロパガンダ映像が出て来ないのは有難いが、その代わり数ヶ所出てくるお色気場面の扱いが流れに溶け込まず気に入らない。政治家や高級官吏に色と欲は付きものとは言うものの、欧米映画のようなスマートさがなく汚らしい限り。監督は色恋は苦手のようだ。

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山本監督のもう一つ気に入らない点は製作年度に近い時代の時代考証のいい加減さである。例えば、「不毛地帯」でも本作でも使われる自動車はほぼ製作当時のもので、たかだか10年前(製作1975年、舞台は64-65年)の車の一台や二台簡単に用意できるはずなのにこの手抜きは何としたことか。若い人は気付かなくても、公開当時であれば納得しない観客も多かったであろうし、60年代半ばから70年代半ばくらいまで車を見るのが大好きだった僕にはどうも違和感がある。リアリティにはさして拘らないが、余りこういうことをしていると作品全体への信頼を失いかねない。

それはともかく、映画では口封じの為に二人が殺され(たと推定され)、一人が投獄されている。これは事実そのものだから身の毛がよだつが、そうなりたくない者は買収されて知らぬ顔を決めるしかない。この構図は、製作された1975年においても変わっていないどころか、未だに経済政策=公共事業という図式から抜け出せない、利権に群がる族議員の跋扈する日本の現状でもありはしないか。いかに小説が映画が告発しようと何にも変わるものではないと痛感させられる。

たかが映画されど映画、か。

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