映画評「真空地帯」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1952年日本映画 監督・山本薩夫
ネタバレあり

高校1年の時読んだ記憶のある野間宏の同名小説を山本薩夫が映画化した戦争告発もので、大学時代に自主サークルの上映で観たが、音声が二割くらいしか聞き取れなかったのでもう一度観ることにした。

画像

上官・林中尉(加藤嘉)の金入れ即ち財布を拾ったが為に軍法会議で有罪になった木谷一等兵(木村功)が昭和19年に原隊に復帰するが、隊内は古年兵の暴力がはびこっていて、一番先輩の四年兵なのに刑務所帰りをネタにいびられる。
 一等兵の中でただ一人彼に優しく接してくれる教師出身の曽田(下元勉)から色々な情報を得るうちに、復帰の時に面倒をみてくれた軍曹が准尉(三島雅夫)に野戦送りを提言したことを知り怒り心頭に発し、病み上がりの林中尉を殴った後脱走を企てるが、結局死刑宣告に等しい南方への艦上の人となる。

画像

人間の条件」などでも扱われた日本軍古年兵の暴力に焦点を当てそこだけを拡大したようなお話で、復帰した木谷が見る軍人たちの暴力と、思想的目的を抱いて彼に接近するうちに曽田の知る上層部の腐敗とを併せて、軍隊がいかに人間から人間性を奪って体だけの真空状態にせしめる場所であるか描き上げているわけだが、まともな感情を持っていたら辟易してしまうに違いないほど肉体及び精神への暴力のオンパレードである。
 社会派で知られる山本監督の作品群の中でも徹底した描写という意味において随一で、映画史的にも価値のある力作であることは認めるものの、嫌な後味を残す作品であることは間違いない。

画像

その中で、主人公が仇と狙った林中尉の告白から彼が権力争いに巻き込まれたことが判明するくだりのミステリー的展開は趣向的として面白い。しかし、中尉が一方的に悪かったわけではないと知ったところで今更何になろう、この事実は彼の絶望感を強める要因にしかならない。観る我々にしても同様と言えよう。

実際に戦場に赴いた西村晃といった役者たちの出演もあり、頗る実感を伴う兵隊像の数々には感心させられる。昨今戦争映画の軍人像は全くなっとらんから、若い映画関係者は参考の為に一度この作品を観ておくと良いと思う。

"映画評「真空地帯」" へのコメントを書く

お名前
ホームページアドレス
コメント