映画評「バッテリー」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2007年日本映画 監督・滝田洋二郎
ネタバレあり

明日(4月3日)からNHKのTVドラマ版も始まるというあさのあつこのベストセラー小説を映画化した少年野球映画。折しも選抜高校野球が最終盤なので、放映としては実にグッドタイミングと言うべし。
 滝田洋二郎が監督なので多少期待するところがある一方、恐らくは青春映画の定石的なお話になっているだろうと予想していたが、これが意外なほどきちんとしたドラマになっている。

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小学校6年の剛腕投手・原田巧(林遣都)が、病弱な弟(鎗田晟裕)の健康の為に、母(天海祐希)の実家のある岡山に一家揃って越してくる。少年はそこで彼の剛速球を受けられる捕手・永倉豪(山田健太)を発見、他の野球少年たちと中学へ進んで野球部に入部するが、他人に心を容易に開かない彼を生意気と思う先輩に暴力を受ける事件がありそれが発覚、野球部の活動が禁止される。
 監督(萩原聖人)はそれが気に入らず、近隣の怪物バッターを煽って非公式試合に持ち込むが、巧は球をぽろぽろ落とし始めた豪が信頼できなくなり、弟が再び寝込んで母親に責められる。彼はこれにどう対処していくのか。

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この映画の狙いは勿論時代遅れのスポ根ではない。ありがちな友情の交換でもなく、同じく少年の成長物語でもない。要素としては扱われてはいるが、それらは決してテーマではない。
 本作が真に描こうとしたのは、病弱な弟に気をもむ母親に冷遇されている少年と、平等に少年を扱おうと思いつつそれが出来ない母親との言葉で語られない魂の交換風景である。

彼の弟に対する一見冷たい態度、少年が女房役に寄せる信頼と失望、有名高校の監督だった祖父(菅原文太)の発言、父親(岸谷五朗)の野球への目覚めという数々の“事件”或いは“要素”を背景に実に繊細に少年の心理が描き出されている。

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心理中心に描写される少年に対して母親は主に現象により叙述される。母親の心理は少年が鏡のように映し出すので、それで良い。
 一見最重要に思われる少年と捕手との信頼関係も、「野球の楽しさは気持ちを伝えられることにある」という父親の発言により母親が「気持ちを伝える大切さ」に目覚め息子の野球に込めた思いを理解する幕切れへの準備の一つに過ぎない。母親を動かすのは父親であり、父親がそれに気付くのは舅の弟子(中学の監督)への発言である、といった具合に緻密に描写が積み重ねられ、それがあるからこそ、母親が病院で寝ている次男を置いてまで球場に駆け付ける幕切れが感動的なのである。

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少年たちは好演で、野球映画でぎこちない場合が多いフォームや動作がきちんと出来ているのが何より良い。ボールの軌道はCGで作られているかコンピューターで加工されているようだが、殆ど実写に見え非常に好感が持てる。

少年野球では少年が希望したカーブの投球は原則禁止です。

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